温もり(幸村精市)



人肌が恋しい季節だったから
余計にそう感じたのかもしれない。

帰り道。私は隣を歩いている幸村をそっと見た。

「……」

(いつ見ても綺麗な顔してるなぁ…)

女の私が惚れ惚れしてしまう程、彼の横顔は綺麗だった。
視線を戻そうと、見慣れた住宅を見るでもなく眺めていたら、

「俺の顔に何か付いてた?」

隣の彼から優しい声が聞こえた。

「……」

流石。ちょっとしか見てないのに。
前を向いたまま話す幸村に少し切なさを感じ、
私は歩いていた足を止めて俯いた。

「…今、目に見えているものは不確かなものばかりで本当はそこにないかもしれないんだって」

幸村は私の少し先で足を止めて振り返る。

「あぁ…デカルトの思想か」

こうやってスラッと名前が出てくるから凄いよね。

「うん…」

「どうしたんだい?いつもの麗花らしくないね」

「だって…」

そう言って顔を上げると、
そこには私を見据えている幸村がいた。

「…じゃあ、幸村はどこにいるの?」

「えっ?」

「今、ちゃんとここにいる?」

「…麗花?」

心配そうな顔をしながら私に触れようと伸ばした手を、
私はつい払ってしまった。

「心配なの!」

…幸村はモテるから。

人気のない校舎裏に幸村と可愛い女の子が居た。
泣いている女の子に彼は優しく手を伸ばしていて…
さっきから脳内にその映像が嫌なくらい鮮明に思い出される。

「もしかして…昼休みの見てたのかい?」

返事をする代わりに私は目を伏せた。
鼻の奥がツーンとする。

「…時々思うの」

「……」

「幸村はここに居るように見えるけど、本当は居ないんじゃないかって…」

(私より可愛い子は他にいっぱいいるのにどうして私を選んだの?
ねぇ…教えて。もしかして、本当は…)

「幸村は…誰か他の子が好きなんじゃないの?」

「……」

「…けど、幸村は優しすぎるから…私の気持ちを断れないんでしょ?」

上手く出来てるか分からないけど、精一杯幸村に笑いかける。
彼は話を聞き終えると近づいてきて、私の頬に流れている涙を指ですくった。

「馬鹿だな…麗花は」

「なっ…何よ!」

私がキッと睨むと、彼は笑顔でそれを受け流す。

「そんな“優しすぎる俺”に麗花は惚れたんだろ?」

「っ!!」

よくもまぁ、しれっとそんな事を…
と思いつつも、言われた事は図星だったので返せる言葉が見つからない。
すると、突然ふわっと柔らかい匂いがした。

「俺も…そんな麗花の気持ちと同じくらい君に惚れてるんだけどね…」

ふいに顔を近づけられてそんな事を言われたら
誰だって恥ずかしくなるに決まってる。

それなのに幸村は、

「フフッ…顔が赤いよ」

なんて言ってきた。
…分かってるくせに。

一気に安堵と嬉しさが込み上げてきて、涙が後から後から溢れた。

「…本当に私の前にいるんだね?」

「俺はどうしたら麗花姫の不安を和らげる事が出来るのかな?」

幸村は困ったように笑うと、私の顔を覗き込むようにして尋ねた。

「…めて…」

「ん?」

「…抱きしめて」

幸村は一瞬驚いた顔をすると、フッと頬を緩めて微笑んだ。

「姫の願いとあらばよろこんで」

そう言って優しく私の頭を彼の胸に引き寄せた。

「……」

「大丈夫。俺はここにいるから」

「…うん」

私はこれを求めてたんだ…
優しくて暖かい

彼の温もり。



*END*

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