平和日和 1話



あの日あなたが来てくれたこと


「常ー勝ー立海大!」


あの日あなたが居てくれたこと


「常ー勝ー立海大!」


あの日あなたと出会えたこと


「レッツゴーレッツゴー立海!」


全てが奇跡のようだった


「一発決めてやれ!」


でもこれは運命だったんじゃないかなって思うの


「常ー勝ー……






〜プロローグ〜

冬も終わりに近づいたある日のことだった。

「えっ?転校!?」

親友からの突然な告白。

「黙っててごめん。幼い時に住んでいた北海道にまた戻ることになったんだ…」

頬に当たる風が微かに春の兆しを感じさせる。
まるでこの風が親友をさらっていってしまう感じがした。

「じゃあもう行くね。ばいばい…空」

「うん…元気でね。寿葉」

空は青く澄み渡っていた。






「ここが来月から通う学校か…」

目の前には歴史の漂う校舎がどっしりと構えていた。

頬に当たる風が微かに春の兆しを感じさせる。
このまま私の不安も風に乗ってどっか行っちゃえばいいのに…と心の中で呟いた時だった。

「君が転校生かい?」

学校の先生らしき人が明るく話しかけてきた。

「はい…そうです」

「そうかそうか!ようこそ立海大学付属中学校へ!」

私は先生にぐいぐい促されるままに、重い足を動かして校舎の中へと入った。






〜出会い〜

クラス発表を我先に見ようと、掲示板の前は生徒達でごった返していた。

(えーっと、夕月…夕月…)

生徒数が多いマンモス中学校だから、自分の名前を探すのは一苦労する。

(あ、あったあったB組ね…)

特に一緒になりたいと願う人がいるわけじゃなかったから、自分のクラスを確認するだけ。
…去年までは親友の名前を一番に探してたのにな。
親友と笑い合っていた少し前までの自分を思い出してぼやけてしまった視界に
ふと、とある名前が飛び込んだ。

「丸井…ブン太…」






「うぅ、もう嫌だ。帰りたい!」

テニス部のマネージャーをしていた親友に、
『テニス部の人達カッコイイから今度の試合見においでよ!
絶対に空の好きなタイプ見つかるって!!』
と、半強制的に見に行くと約束させられたので、試合会場に来てみたものの、
見知らぬ土地をさ迷い続け、たどり着けないまま小一時間が経ってしまった。

初夏の日差しの下を歩き続けていたからもうクタクタだ。
近くにあったベンチに座って一息ついて空を眺めると、そよ風に乗って
どこか遠くから、応援団の声援や黄色い声がかすかに聞こえてきた。

溜め息をついて、やっぱり帰ろうと歩こうとした時だった。

「ファイヤー!!」

迫力のある声と共に、ドシュッ!!っと何かがぶつかった音が聞こえた。

「な、何今の?…テニス?」

何故だかその音が気になって、自然と足が声のする方へ駈け出した。
綺麗に整備された道から外れて木々の間をくぐり抜けると、
大勢のギャラリーがぐるりと囲んでいるコートが見えた。

「す、凄い…」

フェンスまで近寄ると、立海選手と他校選手の激しいラリーが間近で見れた。
私の目じゃテニスボールを目で追うのも精一杯だ。

立海が優勢のまま試合は進み、
ボールがネットの上を滑る様に転がりながら相手コートに落ちて試合は終了した。

「綱渡り…どう天才的?」

そう言ったのは赤い髪をした立海選手だ。
相手選手にピースサインをしている彼の姿は自信満々だった。

「ゲームセット!ウォンバイ立海6−0!!」

圧勝だった。
ベンチコートでは選手達が勝利を喜び合っていて、
あの赤髪の選手はスキンヘッドの選手と楽しそうにじゃれていた。

(わぁ…あの赤髪の人すごい楽しそうに笑ってる…)

見ているこっちまで楽しそうに笑ってる彼につい見惚れていたのに
気付いたのは、彼と目が合ってからだった。

「「………」」

(ど、どうしよう!)

「「……」」

慌てて目をそらすそうとしたその時だった。
パチンと、彼は風船ガムを膨らましながら笑顔で私にウインクをしたのだ。

「…へっ?」





これが彼との出会い。
後で親友に彼のことを聞いたら、名前と彼がどれだけ有名な人なのかも教えてくれた。
ウインクされた事も伝えたら、丸井君に大サービスされて良かったね、だって…。
そりゃそうだよね。可愛い女子に囲まれてる丸井君だもの。

あれ以来会えてないから、きっと私の事なんか覚えてないんだろうな。
だけど、

「丸井君とクラス一緒だ…」

この時の胸の高鳴りの正体に私はまだ気づいていなかった。






「うちの生徒はみんな優しいからすぐ仲良くなれるよ」

教室に繋がる廊下を先生と並んで歩いていると、私の気持ちを察したのか、先生は優しく話しかけてくれた。

「…はい」

だけど、やっぱり不安だった。この先生のことは嫌いじゃない。
でも…あの日以来、人を信用するのが怖くなってしまったんだ…

教室の前に着くと、先生はガラガラッと音をたてて勢いよく扉を開けた。

「はーい、席につけー」

ザワザワとしていた教室も先生の声で静かになるが、私の姿を見ると再びざわついた。

「はいはい、騒がない。
今日から私が3年B組を担当することになった。よろしく!」

先生はニコニコしながら話す。

「それから、もう気づいてると思うが、この子は今日から立海に転入する事になった子だ!」

そして先生は私に目で合図をした。
これは自分で自己紹介しなさいっていう合図…

「…沙星海です」






「じゃあみんな!沙星はまだこの学校に不慣れだから色々教えてやってくれ!んじゃ次は出席の確認な〜」

先生はそう言って転入生の話を終わらすと、出席簿と座席表を見た。

(へぇ〜海ちゃんって言うんだ…お友達になれるかな?)

「あれ?みんな名前順に座ってないのか?」

先生の言葉に私は心の中で頷く。

(そうなんです!朝来たらみんな仲の良い子同士で座ってたんですよ!
だから仲の良い子がいない私は教室の端で一人ぼっちで…)

「…まぁいっか!」

(えぇっ!いいの!?なんてフリーダムな先生なんだろ…)

「じゃあ沙星の席はあの一番後ろの空いている席だな」

「…はい」

その子は小さく返事をすると、私の右隣の空いている席にやって来た。
と、同時にチャイムが鳴り響く。

「あれもうこんな時間か。じゃあ今日はこれで終わりだ!帰っていいぞ〜」

先生からお許しがもらえると、みんなは慌ただしく教室を出て行った。

「……」

あっという間に、教室には私と沙星さんだけになってしまった。

(ど、どうしよう!…でも、話しかけるなら今がチャンスだよね…)

自分の手を強く握りしめながら勇気を振り絞って、
帰り支度をしている沙星さんの前に勢いよく立った。

「沙星さんっ!私、夕月空!!よろしくね!!」

あまりの勢いに彼女はとても驚いていた。



*to be continue*

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