暗黙の掟(丸井ブン太)



こんにちはと挨拶をした私を無視しし、
仕舞には隣のブン太へ色目を向けて、その見知らぬ女は私の横を通り過ぎて行った。

「誰今の?知ってる奴?」

その光景を見ていたブン太は親指でグイッと後ろを指差しながら怪訝な声で尋ねてきた。

「しーっ!ブン太は黙ってて!
すれ違った時に後輩が先輩に挨拶するのは女子の暗黙の了解なの!!」

「ふーん」

先輩に聞こえたら大変!と慌てて人差し指を立てるも、いまいち彼には事の大変さが通じていないようだ。
それがなんだか羨ましくて私は少しふてくされた声で尋ねてみる。

「男子にはないの?」

「え?」

「暗黙の了解みたいなの」

「ん〜ねぇな」

そっか…とため息混じりに呟く。
羨ましい。女子って何でこんなにネチネチしてるんだろう。
それに比べて男子はサバサバしていて爽やか…あーっ!私も男の子が良かった!

「…けど掟ならあるぜ」

私の恨めしそうな顔を見兼ねてか、ブン太は思い出したように言葉を付け足した。

「え、何?」

「人の女には手を出さねぇって掟☆」

「…人の女?」

「そ!だから俺以外の奴は空に近付いちゃいけねぇんだ♪」

ブン太はそう言ってくしゃくしゃと私の頭を撫でると、眩しいくらいの笑顔を私に向けた。


さっきの言葉はやっぱ撤回。こんなにも幸せなのだから…

「…女の子で良かったかも」



*END*

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