平和日和 4話



〜Past〜

少しズレた位置を直すために右手を眼鏡にあてながら尋ねた。

「すみません。少しよろしいですか?」

「なになに?ナンパー!?」

校門の前でたむろっていた派手な女子は甲高い声で言った。
周りの仲間も一緒になって騒いでいる。

「違います。あなた方の学校についてお尋ねしたいことがあるのですが…」

「なんだぁ〜。でもいいよ。私が答えられることだったら」

彼女は真田のように腕を組むと、校門に寄りかかってこちらを見た。

「ありがとうございます」

「で、何?聞きたいことって?」

「単刀直入にお聞きしますが、1〜2年前にこの学校で何かありました?」

「は?」

「何でもいいんです。虐めとか、事故とか…」

「っ!?」

ほんの一瞬、彼女の顔が引きつったのを俺は見逃さなかった。

「やはり何かあったんですね!?…お話ししていただけますか?」

「あー…うん。あれね…」






青春学園中等部。
私はごく普通の女子生徒だった。

「海ー!」

「ん?どうした?」

友達も居て、

「お願い!ここ教えて!次に当たるんだよね」

「いいよ」

ぼちぼち勉強もできて、

「ありがとぉ〜!じゃあ後でジュースおごってあげる!」

「本当!?やったぁー!」

それなりに学生生活を楽しんでいた。

だけど、悲劇というものは突然やってくる。
私の“普通の生活”はある日を境に跡形もなくなってしまった。

とある事件のせいで…。

その日は気分も憂鬱になる程の雨が降っていた。
次の授業が移動教室だったことを忘れていて、急いで階段を駆け上がっていたら。

「ざけんじゃねぇよ!!」

「ああ゛?」

(うわ…)

階段と階段の踊場で有名な問題児達が揉めていた。
目的の教室に行く為にはどうしてもこの道を通らなければならず、困り果てて立ち往生していると、

「ほらほら、君達やめなさい」

(…お父さん!)

父はこの学校で教師をしていた。
明るくてノリがよく生徒達からの信頼も厚い、自慢の父親だった。

「あ?邪魔すんな!」

「わかったわかった。でも邪魔なのは君達の方だぞ」

(今のうちに通っちゃお…)

と、私が駈け出した瞬間だった。

「んだと?ふざけんじゃねぇよ!!」

頭に血の上った問題児が勢いよく動いたのだ。

「!?海!!!危n」

(…えっ?)

世界がスローモーションになった。
なのに動く事ができなかった。

教科書とプリントが散りゆく桜のように舞い、
自慢の父親は人形の様に…一つ下の階で横たわって居た。

「オ、オイ!やべーぞ!」

「俺は知らねーからな!い、行くぞ!」

逃げていく男子。

「お父…さん?」

ドクンと、心臓に痛みが走った。

「ちょ、ちょっと何があったの!?」

近くに居たのか、女子生徒達が直ぐに駆けつけてきた。

「…って、先生!?先生ーっ!!一体誰がこんなことを?」

彼女達は真っ先に階段の上を見た。
更に強くドクンと痛んだ。

「あなたが先生を突き落としたのね!!」

いや…

いや……

いやあああっ!!






「い、いやあああっ!!………はぁ…はぁ…はぁ…」

(ゆ、夢…?)

どうやら私は、あの後気を失ったようだった。
置いてある家具や備品から保健室に運ばれたのだと理解した。

窓から風が入り込んできて、微かに頬にあたる。
汗でぐっしょりと濡れた背中が気持ち悪かった。

あれからどれくらいの時間が過ぎたんだろう。
赤い夕日が薄暗い保健室に差し込んでいる。

誰もいない部屋
誰にも言えない過去

誰も…

誰にも…

誰か…

「……たす…け…て」






〜助っ人〜

空は救急車に乗せられて病院へ、
海ってヤツは先生に運ばれて保健室に行った。
沢山の野次馬も先生達が追い払っていなくなり、
階段には俺とヒロシだけが残っていた。

「お前か…お前が空を突き落としたんだな!!」

「ち、違う!私h」

「じゃあこれは何なんだよ!?」

「っ!!…それは」

「ふざけんな!!こいつに、空にお前は何の恨みが…」

「丸井君。そこまでです」

あの時ヒロシが来なかったら、
俺は感情に負けてあいつを殴っていたかもしれない…。

「ありがとな…」

「え?」

「いや、その…何から何までやってもらってよ」

「ああ、気にしないで下さい。あんなに情緒不安定な丸井君にあれらの処理は無理でしょうから」

「ああ…」

少し決まりが悪くなって下を向いた。

「ところで、あなたは随分とあの子を大事にしているみたいですね」

「えっ?」

「えーと、空さん…でしたっけ?」

「……」

「分かりやすい人だ」

「…うっせ」

「これは失礼」

と言いつつも眼鏡の奥でニヤリと笑ったのを俺は見逃さなかった。

「そういや、お前何でここにいんだ?さっきお前が早退するとこ見たぜ」

「…仁王君ですね」

「お前も苦労人だな」

ヒロシは深く溜め息をつくと苦笑いをした。
少し落ち着くことが出来た俺はヒロシと別れ、授業をほったらかして空の病院へ向かうことにした。
途中何度も空の笑顔を思い出しては歩く足が早まり、気がつけば俺は走っていた。


やっとの思いで病室の前に着くと、突然中から、

「うっ…」

と、辛そうな声が聞こえた。

「空!?」

とっさにドアを開けると、病室の床には空がうつ伏せに倒れている。

「!?何やってんだ!寝てろ!」

「いや!…だって海ちゃんが、海ちゃんが…」

動かない体を無理矢理起こして立ち上がろうとしている空を俺は急いで抑えた。

「あいつがどーしたんだよ?」

「あんなに悲しそうな顔…きっと何かあったんだよ!」

「今は自分のことだろ!」

「こういう時に助けられないで何が友達よ…」

「空!!!」

「私は…私はこれ以上大切な友達を失いたくないの!!」

「…空?」

薬品の匂いが鼻を刺した。



*to be continue*

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