平和日和 2話



〜sky〜

「沙星さんっ!私、夕月空!!よろしくね!!」

そう勢いよく話しかけてきたのは、柔らかい雰囲気をした女の子だった。

「えっとー…」

せっかく話しかけてもらえたのに、初対面が苦手な私は強張って上手く返事が出来なかった。
口籠った私の様子を見ている空ちゃんという子はどんどん顔を曇らしていく。

(な、何か言わなきゃ…!)

「…席、隣だね?」

(って!私は何を言ってんの!!見れば分かる事じゃん!!)

「…うんっ!」

「…へ?」

どうやらこの返事は大丈夫だったみたいで、空ちゃんの顔は一気にぱあっと明るくなった。

表情がコロコロ変わって面白い子だなぁ…
なんて思ったら少し可笑しくなってきて、

「…クス」

自然と笑ってしまった。

「え?なんか私、変だったかな!?」

慌て出す空ちゃんを見ていたらもっと可笑しくなってきて、
私は更に大きく笑ってしまった。

「フフフ…あはははは!」

「プ…どうしたの?プププ…あはははは!」

吊られて空ちゃんまで笑い出して、暫く2人で笑い合っていた。
不思議…今日初めて会ったのにこんなに笑い合ってるなんて。

それに、

(久しぶりだなぁ、こんなに笑ったの)

「私は沙星海!よろしく」

涙を拭きながら右手を差し出した。






目の前には一面の青い世界が広がっている。

「気持ちが良いのう…」

屋上は校内で唯一好きな場所だ。
何もしないでボーっと空を眺めていると心が安らぐからな。

俺の至福のひと時も束の間、階段から激しい足音が聞こえてくると、
屋上に響き渡る程の大きな音をたてて扉が激しく開いた。

「おい!仁王いるか?」

「……」

俺の安らぎの時間はいつもすぐに邪魔をされる。

「居るの解っとんじゃからもーちょい静かに呼びんしゃい。丸井」

「おう。悪い悪い」

(絶対次もやるな…)

「んで、なんじゃ?」

「ん?あっ、そうだそうだ!
『もうすぐ部活が始まるのに仁王はどこにいるんだ?たるんどる!!』って真田にどやされてよ〜」

俺に言うなっつーの…とブツブツ独り言を言いながら丸井は俺の横に座った。

「どうするぜよ?俺は動かん…」

「そん時は俺が引きずってでもお前を真田の前まで連れてってやるよ!」

そう言ってニカッと笑った。
きっとこの笑顔を女子が見ればイチコロなんだろう、と思わせんばかりの輝く笑顔だった。

「フッ…なんで女子がお前さんに惚れるのか解る気がするぜよ」

「そっかぁ?ま、サンキュー☆」

ケラケラと笑う丸井に吊られて俺も笑った。






〜座席〜

「ま、丸井君!?」

あまりにもびっくりして声に出してしまった。

「ん?何?」

丸井君はそう言ってちらっと私を見たが、すぐ視線を読んでいた漫画本へ戻した。
赤みがかった柔らかそうな髪が丸井君の頬に掛かっていて、口元からは風船ガムがプクッと膨らんでいた。
そんな丸井君の横顔は見惚れてしまう程かっこよかったけど、今はそれどころではない。

(なんで、なんで隣の席に“丸井君”が居るの!?)

確か昨日までは、私の席が廊下側から2列目の一番後ろの席で、
右隣には海ちゃんがいて、左隣は…

「…そ、そこ眼鏡を着けた学級委員の席じゃなかったっけ?」

恐る恐る訊いてみた。

「あー確かそんなヤツだったな」

「じゃあ何でここに…?」

「んなの決まってんだろぃ?
…席が一番前だったんだけどよ、そこじゃあ授業中食えないだろ?」

「まぁ…」

同意を求められたが、返事の仕方が分からず微妙な返事をしてしまった。
けど、丸井君はそんな事を気にする様子もなく話を続けた。

「んで、ここのヤツに相談して変えてもらったってワケだ♪」

「…プッ…丸井君らしいね」

楽しそうに話している丸井君が可愛くてつい笑ってしまった。

「なっ!…笑うんじゃねぇよ!俺にとっちゃ重要な事なんだぜ!!」

「フフ、そうだね。ごめんごめん」

(不思議…あの丸井君とこんなに普通に話してるなんて…)

「そーいや。お前とクラス一緒になったのは初めてだよな?名前なんつーんだ?」

「夕月空って言うの」

「うしっ!じゃあ空な☆俺のことはブン太でいいぜ!」

そう言って、初めて会ったあの日と同じウインクをしてくれた。

「よ、よろしく!…ブン太!」

「おう。シクヨロ☆空!」






教室に入ると、空ちゃんと赤髪の男子が楽しそうに喋っていた。
邪魔をしないよう、私はそーっと席に座る。

「なるほど…空ちゃんは恋する乙女なのか…」

机に頬杖をつきながらボソッと呟いた。

私も中学に入学する前はどんな恋をするんだろうとわくわくしていた。
だけど、現実はそんな夢みたいな事は無かった。むしろ…地獄のような生活が待っていた。
あの時あんなことが起こらなければ、私も普通の学校生活を送っていただろう。
そして、この学校にもいなかった…。

だけど…

「……」

「お前さんはどうしてそんな目をしちょる?」

「…えっ?だ、誰?」

その声は廊下からだった。
視線を向けると、開けられた教室の窓から、銀髪の男子がつまらなそうな目をして廊下に立っているのが見えた。

「何で、そんなにつまらなそうな目をしちょると訊いとるんじゃ」

「…あなたに言われたくないんですけど」

「フッ…」

銀髪の男子はそう言うと教室の中に入ってきて、私の左斜め前の席に座った。

「……」

「お前さん…前の学校で何があった?」

「っ!?…あ、あなたには関係ないでしょ!!」

一番言われたくないことを言われてつい声を荒げてしまった。

「…そうか」

いくらなんでも初対面の人に向かって私は何言ってしまったんだろう。

「あっ…ごめんなさい…」

「……」

(…どうして?なんでそんなに悲しそうな目をしているの?)

椅子に背中をもたれている彼の頬に銀色の髪がサラサラと掛かっていて、髪の間から覗く首筋がとても綺麗だった。
そんな彼の横顔が素直にかっこいいと思ってしまった。

「お前さん、名前は?」

「…沙星」

「苗字は訊いちょらん…」

「海…だけど」

「海じゃな?…俺のことは好きに呼びんしゃい」

「えっ!?」

「じゃあの…」

そう言ってどこかへ行ってしまった。

「ちょっ…」

(好きに呼びんしゃいって言われてもあなたの名前知らないし…。しかも、これからホームルームなんですけど!)

「…はぁ〜」

溜め息をついて見上げた窓からは綺麗な青空が見えた。

(一体何だったんだろ…不思議な人…)

「海ちゃん、何笑ってるの?」

どうやら私は笑っていたようだ。
気付けば空ちゃんが不思議そうな顔をして私を覗きこんでいた。

「えっ?そ、それは…朝から面白い人とお話ししてたからかな?」

「海ちゃんも!?フフ…実はね、私もなの♪」

空ちゃんはとっても嬉しそうに笑った。
その笑顔を見たらなんだか凄く幸せな気持ちになって、私も自然と笑ってしまった。

この後に起こる悲劇も知らずに…。



*to be continue*

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