04


 その一、露伴の命令には従うこと
 その二、仕事場には許可無く立ち入らないこと
 その三、仕事の間は滅多なことがない限り邪魔しないこと
 以上のことを破った場合、労働報酬は無しとする。

 それが家政婦となった夢主に突きつけられた誓約書だった。
(その一以外は簡単なんだけど……)
 命令に従えだなんて……どれだけ無茶なことを言うつもりだろうか。
 それでも夢主はここ以外に行くところがない。承太郎とジョセフのもとへ行くよりも、露伴の家の方がいい。
 わずかに息を吐きつつ、その誓約書の下にサインをして夢主は露伴に紙を返した。
「はい、書きました」
「ん……」
 露伴はそれを引き出しの中へ突っ込んで夢主に向き直った。
「まずは色々と掃除やらを頼みたいところだが……」
 露伴はちらりと夢主の姿を見る。
 きっちり三日間寝込んだ夢主はよれよれのパジャマに身を包み、白い肌をその胸の間から見せている。
「君の身支度の方が先だな……」
 夢主の唯一といえる服はクリーニングに出しておいた。もう戻ってきてはいるが彼女にはそれしかない。下着の替えもタオルも歯ブラシもない。その上、無一文なのだ。
「仕事ぶりを見ていないが、仕方ないな……とにかく風呂に入って着替えて来いよ。その後で亀友デパートに行く。そこで必要な物を買えばいいだろう」
 言うだけ言って露伴はくるりと椅子を半回転させる。
 夢主は風呂と聞いた途端、にこやかに返事をして風呂場へ向かった。


 風呂場へ向かう夢主の足取りは軽い。
 期待しながらバスルームのドアを開けると、そこはやはり豪邸らしくきめ細やかなシステムバスだった。白い湯船は広く、コリをほぐすためのジェットバスと防水テレビまでついている。
「わぁ……!」
 すぐさま栓をし、湯を溜めている間に服を脱ぐ。パジャマを洗濯機の中に入れて夢主は熱いシャワーを浴びた。汗だくだった頭を洗い流し、いい香りのするボディソープで全身をくまなく洗い込んだ。汚れが全て流れていき、夢主は心身共にリフレッシュする。
 ざぶんと湯船に浸かって、勢いよく吹き出る水流にコリをほぐしてもらう。テレビを付ければ、女優が全国各地を巡る旅番組が始まるではないか。
「ああ……極楽っ!」
 ここに飲み物さえあればもう完璧だろう。夢主は体にぶつかってくる湯の心地よさにうっとりと目を閉じた。承太郎のいるホテルの風呂も同じぐらい豪華かもしれないが、それでも彼といると緊張してしまうのだ。それならこのまま露伴の家に厄介になる方が夢主としても気が楽だった。
 そうしてだらだらと入っていると、脱衣所のドアをノックされた。
「オイ! いつまで入っているつもりだ? そろそろ行くぞ」
 夢主は慌てて湯船から体を出した。真っ白なタオルで体を拭いた後、脱衣所に置かれた服を着込み、髪を乾かしてドアノブを回す。
 湯気がさぁっと逃げてひんやりとした空気が心地よかった。
「ごめんなさい、先生。お待たせしました」
 露伴はすでに玄関で待機している。腕組みをして夢主をちらと見た後、ふいっと顔を背けた。
「遅い」
 玄関を施錠し、ふらりと歩き始めた露伴の隣を夢主はついていった。露伴は肩からスケッチブックやら何やらがたくさん押し込められた仕事道具を肩にかけ、いつでも写生ができるようなスタイルだ。夢主が買い物をしている間、彼は暇なのでそうやって取材を兼ねた時間つぶしをするつもりなのだろう。
 春風が洗い立ての髪をふわりと撫で、真っ白い雲がゆっくりと流れていく……外は快晴だ。
「いい天気!」
 心地よい春の日差しに照らされて、並んで歩く二人の間に淡い影を落とした。エジプトとは違い、四季のはっきりとした懐かしの故郷で夢主はぐーっと背伸びをした。
「桜が見たかったなぁ」
 沿道で緑色になった桜の木を見上げて夢主は言う。
(無邪気な奴……)
 まるで子供のように桜を見つめる相手を露伴はちらりと見て思った。
 桜の花びらが乱れ舞う中、夢主が微笑みながらそれを見上げている姿を露伴は思わず想像した。
 それを描き留めたく思っている自分に気がついたときには、無意識にスケッチブックをめくり右手はすでに鉛筆を持っているではないか。
「何か描きたいものがあったんですか?」
 手を止めたまま、露伴が立ちつくしているのを夢主は不思議そうに見てくる。
 近づいてきた瞬間、相手の体から石鹸の香りがして露伴は頬をわずかに染めながらスケッチブックと鉛筆を元に戻した。
「何でもない……置いていくぞ」
 そう言って大股でさっさと歩き出す。夢主が後ろから慌てて着いてくるのがわかった。


 亀友デパート、それは駅の近くにあり日用品から食材まで全てを扱う総合店だ。ここに来ればとりあえずの物がある。露伴はその中へ夢主を押し込んだ。
「先生、ちょっと服を見てきますね。あ、待ち合わせしましょうか。えっと、二時間後にこのエレベーター前でお願いします」
「フン、心配しなくても迷子になったら放送で呼び出してやるよ」
「あはは、お願いします」
 素直に返事をして夢主は婦人服売り場へ入っていく。露伴はしばらくその後ろ姿を見ていたが、すぐさまあれこれと物色し始めた彼女を置いて別の売り場に向かうことに決めた。
「どれにしようかな……」
 夢主が露伴から借りた小さな財布の中には給料を前借りしたお金が入っている。贅沢するつもりの無い夢主は必要最低限の物だけを選んでいった。
(そのうち財団に引き渡されるんだし……)
 花京院に会えるのは嬉しいが、それ以降のことを考えると心は沈んでしまいがちだ。
 頭を振ってその気分を払拭し、店頭に並べられた服をあれこれ見回り、いいと思ったものは試着しながら夢主は次々と買い込んでいった。
「……あれ? もしかして夢主さん?」
 不意に声をかけられて夢主は背後を振り向く。そこには康一と山岸由花子が並んで立っていた。
「あ、康一くん!」
 夢主が嬉しそうに叫んだ瞬間、隣にいた由花子の綺麗な顔が嫉妬に歪むのが見えた。
「康一くんの彼女? いいなぁ、こんな美人な彼女がいて!」
 恐怖から必死で由花子を持ち上げた。彼女はその性格さえ考えなければ確かに美人なのだ。康一の彼女、と言われた由花子はすぐさま真っ赤になり照れてしまった。初々しい高校生カップルらしくて実にいい。
「あ、いや、その……ゆ、由花子さんは、何て言うか……!」
 焦った康一が訂正しようとするが夢主は取り合わなかった。キレたら怖い由花子を敵に回したくなかったからだ。
「初めまして、夢主です。露伴先生のとこで家政婦やってます」
「山岸由花子です。こ、康一くんとは……友達なんです……」
「ごめんなさい、てっきり恋人同士だと……だってすごくお似合いだから」
 真っ赤になって照れる二人を前に夢主は微笑んだ。どうせそのうちそうなるのだから間違いではないだろう。
「夢主さん、家政婦するんですか? しかも露伴先生の家で?」
 聞かされていなかった康一は素直に驚く。
「行くところがないから……短い間だけどお世話になるつもり」
「うわぁ……勇気がありますね。露伴先生と暮らすなんて……」
「ふふ、そうだね。でも結構楽しそうじゃない? 漫画家と暮らすのって」
「そ、そうかもしれませんね……」
 康一は僕なら絶対ヤダ、と言う顔を笑顔でごまかしている。
 確かに気難しいし、熱中すると自分しか見えない性格の人だが、そうと知っていればそういう人だからと受け止める事が出来る。それに漫画のネタにされたとしても露伴の看病ぶりは完璧だった。何事も途中で放り出すことのできない性格だからこそ、最後まで夢主を看てくれたのだろう。
「よぉ、康一」
「お、由花子もいるぞ。何してんだ?」 
 不意に後ろから改造した学ランを着た背の高い二人組が姿を現す。
「ああ、仗助くんに億泰くん。昨日話した夢主さんだよ」
 夢主の前に仗助と億泰がずいっと顔を見せた。高校生とはいえ、どちらも夢主より背が高いので見上げる形だ。そして不良で通っている彼らからは喧嘩慣れした迫力と、どこか人懐っこい雰囲気があった。
「あー! この人が康一の言ってたスタンド使い?」
「は、初めまして、東方仗助ッス!」
「おい、抜け駆けすんな! 俺、虹村億泰ッス!」
 虹村、と聞いて夢主はわずかに動揺したが、それを押さえ込んでにっこりと微笑んだ。
「よろしく、夢主です」
 夢主は感動しながら仗助と億泰を熱い視線で見上げてみる。彼らは一瞬、ぽかんとした表情になり、それからヘラリとだらしのない笑顔を浮かべた。
「二人もスタンド使い?」
 知ってはいるが一応形だけ聞いてみる。
「そうッス!」
 仗助と億泰は背後にクレイジー・ダイヤモンドとザ・ハンドを出現させた。どちらもパワーある近距離型だ。
「わぁ! 格好いいね!」
 夢主も自分のスタンドを隣に出して紹介した。
「パワーとかスピードはないけど、特殊能力に優れてるの。よろしくね」
 スタンド使いがお互いに挨拶するというのも妙な感じだ。スタンドが出会う時は必ず戦いに発展するのに、この穏やかさは何だろう。無邪気な彼らと話しているとそれだけで幸せになってしまう。にこにこと笑う夢主に仗助と億泰は鼻の下を伸ばした。
 もう少し彼らと話していたいが、そうも言っていられない身だ。
「そろそろ時間だから……ごめんね、待ち合わせしてるの。私、少しの間だけど露伴先生のところで家政婦やってるから、暇なときにでも声かけてね。それじゃあ……」
「えっ!? 露伴!?」
「家政婦?!」
 露伴の名前を出したときの仗助と億泰の顔と言ったら……驚きを通り越して呆けている。
「またね、みんな」
 手を振って彼らと別れた後、すぐさまエレベーターに乗って夢主は待ち合わせ場所へ向かった。
「先生、ごめんなさい! 待たせちゃいました?」
 カメラを手に、店内を眺めている露伴の姿を見るやすぐさま駆け寄った。
「……あと数分遅ければ、呼び出してもらうつもりだった」
「子供じゃないんですからそんなの嫌ですよ」
 露伴なら確実にやるだろう。夢主はくすっと笑う。
「夕飯の材料でも買っていくか……」
「そうですね。夜、何が食べたいですか?」
 二人は食料品売り場へ足を向けた。荷物を店内カートに引っかけ、亀のシンボルマークが入った緑色のカゴを乗せる。店の中は主婦はもちろん、お昼のお弁当を求めてやって来た会社員や学生が多く見られた。夢主が今まで暮らしてきたごく普通の風景がそこにあった。
「君が何を作れるかによるな……」
「長い間、一人暮らしだったので……それなりの物は作れますけど」
「ふぅん……じゃあ任せるか」
 二人は売り場をあれこれ見て回った。露伴は何も考えずに次々と品物を突っ込んでいく。夢主はメインを肉料理にしようと決めて、精肉コーナーを行ったり来たりしてどれにしようかと思い悩む。
(こういうのって久しぶりだな……)
 夢主は何だかうきうきしてくる。この世界で生きて暮らす実感をしみじみと味わった。



 風呂に入って寝て起きて、ご飯を食べて掃除する……そんなありふれた生活が夢主には嬉しかった。
 朝食を済ませた露伴は仕事部屋に戻り、夢主は汚れた皿を片付ける。その間に洗濯機を回してお風呂も洗った。
 乾燥機に服を入れてタイマーが鳴る頃には十時ぐらいだ。夢主はテラスから庭へ出てぴょこっと生えている雑草を抜き、良く晴れた青空を仰ぎ見た。
「ああ、いい天気……!」
 こうして青空の下で体を動かし、労働するというのは気持ちが良かった。滲む汗すら愛しい。太陽の光を全身に浴びて夢主は深呼吸をした。鼻歌を歌いつつ、夢主は次々に雑草を引き抜いていく。
 そんな風に首からタオルを下げて労働にいそしむ夢主を露伴は仕事部屋から飽きることなく眺めている。
「脳天気なやつだな」
 それが夢主と暮らし始めて思った感想だった。
 料理は手際よく作り、後片付けも掃除もそつがない。風呂に入ることを喜びとし、一時間は出てこない。夜は早々に寝入り、朝は露伴より早く起きて朝食を作ってくれている。もちろん仕事部屋には近づかないし、コーヒーの好みもしっかりメモするほどの家政婦ぶりだ。
 体を動かしていると生きている気がするというのは本当だろう。
 しかし夢主を本にして記憶を読んだことのある露伴は、違うな、と首を振った。
(体を動かしている間は忘れられるんだろうな……)
 DIOという人物を失ったことを。
 夢主の記憶は体重だけでなく、あちこちが黒く塗りつぶされていた。DIOに関する所などはほとんど読むことが出来なかったくらいだ。三日も苦しむと分かっていながら露伴のスタンドをコピーしたのは、それだけ彼との思い出を覗き見られたくなかったのだろう。その証拠に彼女は夜が近づくとそわそわし始める。気付けば窓か月を眺めていた。
 後で承太郎に、夢主が書き込んだ部分を自分なら修正できると伝えたが、彼は露伴の申し出を断った。
 夢主があれほど必死で隠したがる内容を、無理矢理に暴き出すことは出来ないと思ったようだ。
(承太郎さんにも罪悪感はあるんだな)
 あれほど強い人であっても殺した悪人の側にいた女……夢主を見る度に一瞬、何とも言えない顔つきになった。しかも未だに怖がられているのが気の毒で仕方ない。
 それでも彼は夢主の目から逃げることはせず、正面から挑んでいく。承太郎の力強い目に夢主が怯え、困惑する様を見るのが露伴は好きだった。
「あ、先生! お仕事終わった?」
 庭先から露伴を見上げて夢主はそう問いかけてくる。日の光を目一杯浴びた彼女は汗をキラキラと輝かせて、目映いばかりの生気に満ちている。
 露伴は首を横に振った。仕事は今から取りかかる予定だ。
「頑張ってね! 買い物に行ってきます!」
 一時もジッとしていられないのだろうか。汗をシャワーで落とした後、弾むような足取りで家から飛び出していく。
 夢主の背中が道の向こう側へ消えていくまで露伴は彼女から目が離せないでいた。


「仗助くん、億泰くん、どうもありがとう」
 スーパーの帰りに道行く彼らと出会った夢主は、買い物袋を持たせて欲しい! と彼らに頼み込まれてしまいどうにも断れなかったのだ。
「マジで露伴の家政婦やってんだもん、驚きっスよ」
「あいつに虐められたら教えて下さいね。いつでも飛んできますから!」
 仗助は馬が合わない露伴と、夢主が一緒に住んでいることが気にくわないらしい。
「大丈夫、虐められてなんかないよ。でもありがとう」
 露伴は淡々とご飯を食べ、苛烈なまでに仕事へ打ち込む。そんな彼の邪魔にならないよう夢主は静かに過ごしている。それは少しも苦ではない。読む本はあるし、外にだって自由に行ける。知っているようで全く知らない街を探索するのはとても楽しかった。
「それじゃ、またね」
 二人に手を振って夢主は玄関の扉を開けた。合い鍵をもらっているのでチャイムを押す事もない。
 するりと入ってキッチンへ。そこへカップを持った露伴が姿を見せる。コーヒーのお代わりでも取りに来たのだろう。
「あ、先生。今帰りました。途中で仗助くんたちに荷物持ってもらったから、すごく助かったんですよ」
「フン、クソッタレの仗助なんかどうでもいい」
 露伴は彼らがまだいやしないかとキッチンの窓から外を眺める。そこから見える庭にはいつの間にか花が植えられていた。
「君もマメだな」
「そうですか? 結構、楽しいですよ」
 夢主はうきうきと話しながら、買ってきた物を外国製の大きな冷蔵庫へ次々としまい込んだ。
「先生も食べます? 抹茶のアイス、美味しそうだから買ってきました」
「後でもらうよ……それよりも……」
 露伴は夢主の腕をぐいっと引っ張った。夢主は冷たいアイスを持ったまま彼に引き寄せられる。
「……はい?」
「先生と呼ぶのは止めてくれないか。何だか馬鹿にされている気がするんだよ」
 夢主は露伴の突然の言葉にビックリした。
「え!? してませんよ!」
「その敬語も気に食わない」
「そ、そんなに変ですか?」
「ああ。同年代からそんな風に言われてみろ。気分がいいと思うのか?」
 康一くんと同じように露伴先生、と呼ぶのが当たり前に感じたから夢主はそうしただけで……
「私、本当に尊敬してますけど……やっぱり嫌ですか?」
「嫌だね」
 露伴は即答した。夢主は困ったように眉を下げてしまう。
 夢主には分からないが、言われ続けていた露伴が言うのだからそうなのだろう。
「露伴って呼べよ。敬語も無しだ」
 耳に飾られたGペンのイヤリングが揺れている。露伴の顔は真剣そのものだ。
(そんなに嫌だったの……?)
「わかりまし……いえ、はい、そうしま……ううん、そうする」
「これは命令だぜ?」
 夢主の頭の中にあの誓約書がちらついた。
 その一、露伴の命令には従うこと、だ。
「じゃあ……えっと……“露伴”」
 これでいい? と首を傾げて問えば、露伴は夢主を見下ろした後、ふいっと背中を向けた。
「フン、それでいい」
 空のままのカップを手に露伴は再び二階へ戻っていった。
「露伴ちゃん、って言えばよかったかな……」
 杉本鈴美のように呼べば彼はどんな顔をしただろう。夢主は想像してくすくす笑う。
 露伴との静かで意外性に満ちたこの生活を夢主は楽しむようになってきた。


 何も入っていないカップを作業机の横へ置き、露伴は椅子に腰掛けて項垂れた。
「クソッ……!」
 夢主が帰ってくるのを再び窓から眺めていたら、彼女の両隣には見知った輩がいるではないか。しかも大嫌いな仗助だ。彼らと仲良く話している姿を見て露伴は心が煮立ってくるのが分かった。
 イライラとする露伴の耳に夢主が「仗助くん」と呼ぶ声が聞こえてくる。忌々しいアイツを夢主は気安く呼んでいるのだ。
 するとそれに対するように、露伴には「先生」と呼んでくるのが気になって仕方なくなった。
 キッチンで思わず腕を掴んで命令してみれば、夢主は戸惑いつつもすんなりとそれに従うではないか。
「露伴」
 と呼ぶ夢主の声が頭の中で再生されて、露伴はその囁きに顔と全身が熱くなるのを感じた。
「せんせ……じゃなかった……コーヒー作りましたよ〜、降りてきて、露伴〜」
 不意に、階下からそんな声が掛けられた。露伴はまた自分の頬が熱くなっていくのを自覚する。
 夢主から呼び捨てにされて照れているのだと気付いた瞬間、露伴は堪らない羞恥に襲われて机の上に突っ伏した。




- ナノ -