朝日が二人を分かつまで


 明かりを消した寝室に月明かりが差し込む深夜。テラスに積もった雪がその光を反射して青白く輝いている。それを寝台の端に腰掛けて眺める夢主の顔は暗く、頬にはいくつもの涙のあとがあった。彼女は雪のように蒼白な表情で静かすぎる夜から手元に視線を移す。
 指先にカサリと触れたのは二週間前の新聞紙だ。ロンドンを騒がすジャック・ザ・リッパーの記事の裏隅に、貴紳と名高きジョースター邸が焼け落ちた事が書かれてある。主人のジョージ、養子のディオ、それから彼らを助けようとして殉職した何名かの警察官。助かったのは一人息子で夢主と幼馴染みのジョナサンだけらしい。
「ディオ……」
 同じ階級で仕事仲間だったジョースター家の突然の不幸を知って夢主の父親は胸を痛めているが、それは恋人を亡くした自分も同じ事だ。涙でインクが滲む記事の上にパタパタとまた新たなしずくを落とした。堪えようと思っても涙は次々にあふれてきて自分でも止めようがなかった。
 数日前、病院に運び込まれたジョナサンの元に駆けつけた夢主はそこで昔一緒に遊んだ記憶のあるエリナとも再会した。それまで面会謝絶だったジョナサンも起きあがれるまでに回復していて、心からホッとしたのだが
「ごめんよ、ディオは助けられなかった」
 確かな遺体がない事だけを最後の希望にしてディオの行方を聞けば、彼は酷く言いにくそうに小声でそう呟いた。夢主は床の上にふらりと座り込んで駆け寄ったエリナの腕の中で子供みたいに泣き叫んだ。
「そんな……そんな酷い! 身分なんか関係ないところで一緒に暮らそうって……そう言ったのに!」
 それがまさか天国だなんて夢主は一言も聞いていない。
「すまない……本当に。僕のせいなんだ。僕があの石仮面を研究しなければ……」
 エリナに抱きついて涙をこぼす夢主の背をジョナサンは大きな手で撫でさする。二人の優しさが傷心を癒しつつも、えぐるように痛かった。
 そうして一晩中泣いた後、病院から屋敷に戻った夢主は何をするでもなく、ただぼんやりと一日を過ごしている。父親は名門のジョースター家とはいえ、貧民生まれのディオに娘を奪われずに済んでホッとしているようだ。娘を優しく慰めつつも、これを機に別の貴族のところへ嫁がせようとしていることに夢主は気付いてしまった。
「ディオ……どうして?」
 さめざめと泣きながら新聞記事を強く握りしめる。
 幼い頃、ジョースター邸の近くで川遊びをして溺れた夢主をディオがとっさに助けてくれたのが二人の出会いだ。人工呼吸で命を救ってくれた彼を思いっきり平手打ちした事も、全身ずぶ濡れの彼がとても格好良かった事も、夢主の記憶にはしっかりと残っていた。
「ふぅん。可愛らしいお嬢さんだが、随分とじゃじゃ馬のようだ」
 ジョースター邸で改めて自己紹介と感謝の言葉を伝えれば、ディオは夢主の全身をジロジロと眺めた後、愉しそうな口調でそう言った。
 ジョナサンを共通の知人とする二人が成長するに従って、何でも言い合える良好な友人関係にいつしか恋愛感情が絡むようになった。きっと出会った時には恋に落ちていたのだと今なら思う。
「俺も出来ることなら君に結婚を申し込みたい。だが、君の親が何て言うかな」
「お父様は頑固者だから……。でも私は家柄や身分よりも自分の気持ちを偽らずに生きていたいわ」
「貧民生まれの貴族の養子と名家のお嬢様が駆け落ちか。いかにもゴシップ紙が飛びつきそうなネタだな」
「きっと大騒動よ。お互いの家のためにはならないでしょうね」
 手入れされた遊歩道を二人は腕を絡めて歩きつつ同時に相手の顔を見つめる。明るい太陽の下で落ち葉を踏みしめたディオは、少し考えた後でそっと夢主の頬を撫でた。
「もう少しだけ待ってくれ。そうしたらきっとそれを叶えてやれる」
「嘘……どうやって?」
「君を海を越えた先にある自由な国へ連れて行く。そこで一緒に暮らせばいい」
 ディオの言葉に夢主は息を止めて見つめ返した。淡い琥珀色の目が真っ直ぐに心を撃ち抜いてくる。彼は真剣らしい。
「本当に?」
 震える声で聞き返すとディオは小さく笑って夢主の耳に優しく口付けてくる。
「ああ、必ず。約束する」
 その囁きが夢主の鼓膜を溶かし、今でもそこに染み着いて離れない。
「どうして……ディオ……」
 柔らかなベッドに身を沈めて火事という災難に巻き込まれた彼を想う。クシャクシャな新聞記事を胸に抱いてまたいくつもの涙をこぼした。


 屋敷のどこかでガシャンとガラスが割れるような音がした。またドジな使用人が食器を割ったのだろうと、泣き疲れて眠りに落ちていく頭でそう思った。
「……ん」
 夢主の寝室は暖炉にくすぶる炎のおかげで暖かいはずなのに、どこからか冷気が押し寄せてくる。ベッドの上でその寒さに身を丸めると不意に頭を撫でられた。
「お父様?」
 恋人を失った娘が心配で、時々、父親が見回りに来ていることは知っていた。しかし、クッと笑う声は父のものではない。
「この歳にもなって君はお父上が側に居ないと眠れないのか?」
 聞き慣れた声に目蓋を開くと、月明かりを身に受けながらディオがベッドの側に立っていた。飛び起きた夢主はその姿を呆然と見上げる。彼はいつもと変わらない不敵な笑みを浮かべて夢主の頬を手の甲で撫でてきた。
「ディオ? 本当に……あなたなの?」
「俺以外の何に見える? それにしても酷い顔だ。涙のあとだらけじゃあないか」
「だって、あなた……火事で、」
 唾とともにそれ以上の言葉を飲み込んだ。最後まで言ってしまうと目の前のディオが消えてしまうような気がしたからだ。
「ああ、新聞に書いてあったな。それでお前はどう思う? 俺は幽霊に見えるか?」
 夢主が伸ばした手を掴まえてディオは青白い頬に触れさせる。吐く息は冷たく、火傷の痕が残っているがとても死霊には思えなかった。
「たとえ幽霊でも……何でもいい!」
 相手の体に飛びついて力一杯きつく抱きしめる。また涙がこぼれたがそれは床に落ちず、ディオの服に次々と染み込んでいった。
「何でもいい、か」
 抱きついてくる相手の背を撫で、花の香りがする髪に顔を埋めて笑みを浮かべる。
「俺はお前を自由の国に連れて行くと言った。あの約束を覚えているか?」
「ええ、もちろん。忘れるわけがないわ」
「今夜、それを果たしに来た。一緒に来るだろう?」
 涙が伝う柔らかい頬を撫でてディオは返事を待つ。
「連れて行ってくれるの? ここから?」
 頷くディオを見て夢主はようやく笑顔を浮かべた。身を引き裂く悲しみではなく、今度は歓喜で涙を流した。
「天国でも地獄でも……あなたについて行く。もう一人にしないで」
 その返事にディオは暗闇の中で赤く光る目を満足そうに細め、背に隠していた物を手に取った。
 夢主がうっとりとディオに身を委ねていると、ふいに耳を覆いたくなるような甲高い悲鳴が邸内を駆け抜けていった。飛び起きた執事や他の使用人たちが一体何事かと慌ただしく階下を駆け回る音がする。すぐに大きな悲鳴が次々と上がった。
 夢主は体を震わせてディオの服を強く掴んだ。何があっても決して離れたくないと思う。それでも真夜中に忍び会っていたことが父親に知られれば、ディオは屋敷の者に取り押さえられて弁明する暇も与えられず警察へ突き出されてしまうだろう。
 青ざめながら強く抱きしめてくる彼女をディオは落ち着いた手つきで背中を撫でてやる。心配することは何一つ無い。ただ、少しだけ早く行動に移さないと屋敷内から生きた人間が居なくなってしまうだけの事だ。
「夢主、上を向け」
 ディオの静かな声に従って視線を相手の顔に向けた。
「俺はあの一夜で吸血鬼になった。頂点に立つのはただ一人だけでいいと思うが……これから先、永遠に続く長い夜には共に愛を語らう相手も必要だろう。人間だった俺はお前を伴侶に選んだ。吸血鬼になった俺もお前しか選びたくない。同じ存在になれる事を喜べ」
 告げられた意味を理解するより先に石で出来た仮面が顔に覆い被さってくる。
「え? なに、これは?」
 戸惑う耳にノックもなしにドアを勢いよく開ける音が届いた。
「夢主、無事か!? ……お、お前は!?」
「これはこれはお父上。丁度いいところに来てくれた。娘が生まれ変わる瞬間に立ち会えるとは本当に運がいい」
 ディオの声の後に何かを切り裂く生々しい音がして夢主の全身に暖かい水滴が降り注ぐ。次の瞬間、後頭部に鋭い痛みがいくつも走り抜けた。
「!」
 小さなうめき声をあげ、ディオの腕の中に倒れてきた体を受け止める。床に転がる石仮面と気を失った夢主をディオは優しく抱え上げた。その場に伏した父親の手からランプが転がり、血に濡れた絨毯を炎が覆い隠していく……。
 翌日、またも名家の一つが焼け落ちた事を知った人々は貴族を狙った連続放火ではないかと声を潜めてそう噂した。



 東の崖の上に立つ屋敷はそれまで無人だったせいか隙間風が酷く、古くさい敷物や絵画で彩られている。いくつものロウソクの炎が揺らめく寝室に荒々しい風音と遠くで獣が吠える声が響いてきた。
 一人、ワインを傾けていたディオは空になったグラスを近くのテーブルに戻した。ベッドだけが置かれた寒々しい部屋には、ドアの向こうから漂ってくる腐敗臭を消すために赤いバラがいくつも飾られてある。白いシーツの上にもその花びらは散らされて特別な夜を鮮やかに彩っていた。
「よく眠るやつだ」
 むせかえるほどの花の香りに包まれた中でディオはぽつりと呟いて苦笑する。白く艶やかなネグリジェに身を包んだ夢主が隣で静かに眠り続けている。石仮面を被せ、この屋敷に連れ帰ってから丸一日。屍生人にさせた侍女に身支度を整えさせても目が覚める様子はない。
 すぐに意識を取り戻した自分と取り戻さない彼女、ディオは何が違うのかをひたすらに考えていた。野心に満ちたディオのように邪悪な心が彼女には無いからだろうか。
「夢主」
 溺死から救ったディオの頬を打った少女は負けん気はそのままで、愛らしさを損なうことなく成長した。財産と爵位を狙って耳さわりの良い言葉を紡ぐディオを軽やかに一蹴し、毒舌や嫌味も難なくかわして真っ直ぐに懐へ飛び込んできた。貴族と平民、この社会を作り上げる支配階級を一切気にしない彼女と親しい友人になり、そのうち誰もが羨む恋人になった。父親同士が仲の良かった事もあって、ディオと夢主が恋仲にならなければジョースター家の長男の嫁として嫁いでいたかもしれない……ディオはフッと笑って眠る夢主の髪を撫でた。どちらの家も焼失した今となってはどうでもいいことだ。
「このまま目覚めないのであれば、それも仕方がない」
 ディオは髪から頬へ指先を滑らせた。弾力のある柔らかい唇に触れると恋人として初めてキスを交わした日を思い出す。雪が降り積もるジョースター家の庭先で人目から隠れるようにして唇を奪い合った。白い雪とは対照的に頬を赤く染めた相手にディオは激しく欲情したものだ。
 あれからその熱はずっとくすぶり続けている。もはや邪魔する者が居ないのだから我慢する必要は無いだろう。ディオは丸い顎を撫で下ろし、大きく開いた鎖骨をなぞってさらにその下へ指を進めた。形の良い胸の頂きが白いネグリジェをわずかに押し上げている。その周囲をくるりと撫でて摘み上げ、いやらしく弾いて揉み上げる。舌を伸ばし鋭い牙で傷つけないよう気を遣いながらそっと口に含んだ。
 唾液が染みこんでしっとりと濡れていく布にディオはほくそ笑む。唇を離して見下ろせば可愛らしい乳首がそこだけ透けて見えた。それまであった清純な姿はあっという間に卑猥なものになる。ディオはもう片方の乳房にも舌を這わせ、指をするすると下腹部へ伸ばした。下着を身に着けていない夢主の秘部を薄布の上から撫で回す。なだらかな恥丘を指先で何度もなぞりさらにその奥へ潜り込ませていった。
「……ん」
 ディオの歯が乳首を甘く噛んだ時、それまで無反応だった体が小さく震えた。それに気付いたディオは噛んで舐めて淫らに夢主の目覚めを促す。秘部に押し当てた指を動かせば鼻から抜ける艶声に気分はさらに高まった。
「ん……、……ディ……オ?」
 重たい目蓋を何度も瞬かせ、虚ろな目の中に相手を映し込む。夢主は額に手を置いてこれまでの記憶を探ろうとした。
「ようやく起きたか。待ちわびたぞ」
 もう目覚めないのではと思っていただけにディオは深く安堵した。その落ち着いた様子からも実験台にした浮浪者のように理性を忘れた獣に堕ちてはなさそうだ。
「本当にディオなの?」
 彼を火事で亡くして涙が枯れるほどに泣いた。目の前の無事な姿が嬉しい一方でこれは都合のいい夢ではないかと怯えを見せる。
「薄情なやつだ。もう俺の顔を忘れたらしい」
 ディオは笑って夢主の手を己の胸に導く。そこに流れるのは人間が持つ熱い血潮ではなく吸血鬼のエキスだ。それを送り出す心臓の動きは活力に満ちていた。
「ディオ!」
 相手が生きていることを実感した夢主は笑顔を見せてその首に腕を回した。これまで悲しみに暮れて荒んでいた心が潤いを取り戻す。喜びの涙を見せる相手にディオも腕を回して抱きしめ返した。
「よかった……! でも、生きていたのならすぐに知らせて欲しかったわ。どれだけ心配したか」
「そうか、それは悪かった。だが傷の治りが遅くてな……これでもかなりマシな方だ」
 そう言って女神像に刺し抜かれた腹を撫でるディオに夢主は大きく目を見張る。シャツの隙間から見えた傷口は塞がれてあるものの痛々しい大きな痕が残っているではないか。夢主は相手の肌に指を伸ばし、血が流れていない事を確認してようやく肩の力を抜いた。
「痛みはあるの?」
「いや、もう無い」
 腹を撫でる夢主の手を取ってディオは手の甲に口付ける。そこから腕を伝って剥き出しの肩に唇を押し付けた。
「あ……」
 ディオは首筋に吸い付き唇で肌を啄む。そのまま体重を掛けて再びバラの花びらが敷き詰められたシーツの上に押し倒すと、夢主もようやく色付いた雰囲気を察したようだ。
「まだ教会で誓いも終わらせていないのに……」
「嫌か? 俺はこの日を待ち望んでいたが、お前は違うのか?」
 欲情しきった赤い目が夢主の高鳴る心臓を撃ちぬいた。嫌なはずがない。こうなる事をずっと望んでいたのだから。
 夢主は思い描いていた純白の美しいドレスや色とりどりのブーケ、父親はもちろんのこと、神父と領地の人々からの祝辞、その他の結婚式に関わるすべてを捨て去った。炎の中から舞い戻ってきた愛しい恋人……彼さえ居ればそれだけで十分だ。
「違わないわ、ディオ。早くあなたのものになりたい」
 夢主は頬を染めながらそう告げて逞しい背中に腕を回した。
「すぐにそうなる」
 ディオは笑みを刻んで深く口付ける。これまでのような優しいキスとは違い、舌が絡まり合う激しいものだ。最初は驚いていた夢主もすぐに求めるように舌先を伸ばした。
「……っ、ん……」
 お互いの唾液で濡れ光る唇から熱い吐息がこぼれ落ちる。時々、鋭い犬歯が舌先に触れる事を不思議に思うが、相手に強く抱きしめられるとそんな事はすぐに気にならなくなった。
「あ、ディオ……っ」
 体を覆う薄布をディオがいやらしく撫で下ろし、震える脚の間に手を差し入れてきた。滑らかな生地をゆっくりとたくし上げられて誰にも見せたことがない部分を外気に晒される。恋人とはいえそんな事をされるのは初めてで、夢主は焦った声で相手の腕を押し止めた。
「どうした怖いのか?」
 その言葉に夢主は持ち前の矜持をかき集めて強く首を横に振る。それでも羞恥と怯えが顔に出ていたらしく、ディオはクスッと笑って押さえつける手を肩へと導いた。
「初夜だからな。初めは優しく抱いてやるさ」
 では二度目はどうなるのだろう……そんな事を思う夢主を置き、ディオは足を大きく開かせてそこに身を屈めた。眠っている間に触れた秘部は、変わらずにディオの指を柔らかく包み込む。くちゅっと濡れた音が響くのを耳に拾い上げて楽しそうに口元を歪める。慎ましい媚肉を左右に押し広げて唇を寄せればひどく甘い悲鳴が寝室に満ちた。
「い、いや……、あぁ……っ」
 羞恥よりも秘部を舌で弄ばれる未知の快楽に夢主は大きく仰け反った。逃げ腰になる体を強く引き寄せ、閉じようと抵抗する脚をディオは力でねじ伏せる。本人はまだ気付いていないが、今の彼女は自分と同じ吸血鬼だ。ささやかな蹴り一つでも首が飛ぶほどの威力を持っていた。
「こら、暴れるな。淑女らしさはどこに置いてきた?」
「だって……だって……!」
 ディオに揶揄されても、もはや言葉にならない。大きな手が夢主の胸をネグリジェの上から包み込み、淫らな動きをする舌が蕾をぴちゃぴちゃと舐めてくる。下腹部が熱く煮え、疼くような刺激があちこちに広がって抑えようのないそれをただ喘ぎながら受け止める事しか出来ない。
「んっ、ん、……はぁ……ぅ」
 広げられた脚を震わせて夢主はシーツに顔を埋めた。バラの花が小さく舞って芳しい中に淫らな香りを届けてくる。乱れゆく姿を眺めつつディオが舌で暴いた小さな芽を啄むと、赤く充血した蜜口がゆっくりと花開いていった。長い指を押し付ければ奥からとろりとした体液があふれてくる。粘つくそれを周囲に広げ、小さく勃ち上がった秘芽に擦りつけては舌でくすぐるように舐めた。
「あ……っ、いや、ディオ……お願い」
 顔を覆って懇願する相手にディオの下腹部が熱く反応する。とろけていく内部を指で確認しつつ愛液で汚れた唇を舌で舐め取った。
「早くもおねだりか? 見かけによらず淫乱だな」
「馬鹿ぁ、違う……っ」
 貶めるような言葉に怒りを見せた夢主は脚の間に顔を寄せるディオの頭を押し退けようとする。ディオはその手を易々と掴んで指先にキスを落とした。
「そう怒るな。今の君は最高に可愛くて美しい。俺の伴侶だ」
 その言葉に夢主は呆然とディオの顔を見つめ返す。
「お前を抱くのはこのディオだけだ。決して他の男に肌身を許すなよ」
 そんなに尻軽じゃない、と言う言葉は声にならず夢主はただ首を縦に振った。
「色目を使うのも駄目だ」
 再び頷いてみせるとディオは着ていた服の全てを目の前で脱ぎ捨てた。ちらりと見えた太い肉杭に目が奪われて夢主は頬をぱっと赤く染める。
「分かったか?」
「もう、分かったから……早くすべて奪って」
 そうでないとこれ以上は怖くて泣き出してしまいそうだ。満足そうに笑うディオを見届けて夢主は固く目を閉じる。震え出しそうな体を相手に押しつけ、その時を待った。
「夢主」
 貴族の令嬢だろうと関係ない。必ず手に入れると決めていた相手だ。素晴らしい力を手に入れた今、彼女は新しい夜明けを祝福する捧げ物のように思えた。
 ディオは唇を舐めた後、細い足を肩に乗せた。とろりと蜜をこぼす女唇に己をあてがう。熱さにびくりと震える女の腰を掴んで切っ先をゆっくりと埋め込んでいった。
「……ッ!」
 小さく仰け反る夢主の胸を啄むと肩に回った手に力が込められた。ディオは痛みに身悶える姿を見下ろしつつ、きつく締め付けてくる肉襞を味わった。
「い、痛い……! いや、止めて、やぁ……」
「奪えと言ったのはどの口だ?」
 今更、止めることなど出来るはずがない。ぬるついた内側は咥え込んだ雄を絡め取って離さず、腰と言わず全身に響いてくる快楽にディオはうっとりと呟いた。
「だって、痛い……」
 目尻から涙を流す相手にディオは微笑みかける。いつも強気な彼女の滅多に見れない姿だと思うと、埋め込んだ楔がさらに硬く勃ち上がるのを感じた。
「もうやだぁ……お願いだから……動かないでぇ……」
 ズキズキと疼くような痛みに耐えかねてディオの肩を押し返した。彼のものになりたいのは本音だが、こんなのは予想していなかった。何度も首を振って制止を願う夢主だが、それを眺めるディオは愉悦に歪んだ顔でニタリと微笑みかけてくる。
「お前の望み通り、今から全てを奪ってやろう」
 耳朶を甘噛みしディオは耳の奥へ低く囁きかけた。ゾクゾクと震える夢主を抱いて容赦なく腰を打ち付ける。
「ひ……ッ」
 短い悲鳴と共に奥から押し出された愛液が淫らな音を奏でてシーツに散った。滲み出る純潔の証にディオは目を細め、蜜と混じり合わせるように硬い淫茎でたっぷりとかき混ぜた。
「……ディオ、……」
 優しくすると言ったのに……夢主は涙を浮かべてディオを恨めしい目で睨んだ。流れ落ちる涙に気付いたディオが緩やかに腰を動かしながら唇を寄せてくる。
「嘘つき……ひどい、」
 頬を赤く染めた顔で責められてもディオには悦楽しか感じ取れない。詫びるように優しく口付けて再び丹念に舌を絡め合う。どこか幸せそうな表情を浮かべる相手に夢主の子宮が悦びに震えた。
「うぁっ、……はぁ……んっ……やぁ……」
 一度すべてを受け入れてしまえば後はもう同じだ。破瓜の痛みも吸血鬼の力ですぐに治ってしまったのだろう。ぐずぐずに溶けきった膣はもはやディオを喜んで迎え入れている。止めどなくあふれてくる蜜がその証拠で、二人が繋がり合う部分をいやらしく彩り、ぬちゃぬちゃと粘ついた音が部屋中に響いていた。
「んん、……ディオ……っ」
「そう可愛い声を出すな」
 淫らな甘い声で名を呼ばれる度にディオの陰嚢から次々に欲望が込み上げてくる。一番奥を真っ白に犯してやりたいが、もう少しだけ官能に身を揺らす姿を上から眺めていたかった。
「ディオ……好き、大好き……愛してるの」
 どろりと溶けた優しい声がディオの背中をゾクゾクと駆け下りていく。チッと舌打ちした後に足を大きく開かせてその中心を勢いよく穿つ。
「あっ、あぁ……っ、ん……ぁあ……ッ」
 ぐちゅぐちゅと卑猥な音を奏でるところが熱く脈打って、真摯な愛の告白はすぐに淫らな嬌声に移り変わった。
「ディオ、も……駄目、おかしくなる……っ」
 必死に相手にすがりつきながら夢主はディオを見上げた。凛々しい眉はきつく寄せられ熱がこもった目は赤く輝いている。揺れる金色の髪は波打ち、夢主が伸ばした指先をくすぐってくる。
 腰を抱かれて揺らぐ中で肉がぶつかり合う音がひどく生々しい。強く打ち付けられる楔に蜜が絡みつき、肉襞のいたるところを擦りあげられてしまう。今まで知らなかった快楽に簡単に飲み込まれた。
「あっ、あ、……くっ、んん……っ!」
 ひときわ深く突かれた際に痺れるような甘い電流が全身を包み込んだ。顎を反らし、切ない喘ぎを辺りに響かせながら果てていく。
「……ッ」
 震える足を甘噛みしてディオは夢主の艶姿を目に留める。欲情に濡れた目と絶頂を迎えて痙攣する肉襞に煽られてディオも小さく呻いた後に奥深くで精を放った。
「……ぁ、」
 何度も擦られて痛みが走る秘部に生暖かい飛沫がじわりと染み込む。夢主は鈍い痛みに震えながらも、嬉しそうに下腹部を撫でた。



 幾重にも引かれたカーテンの向こうで太陽と月が昇っては沈んでいくのを愛欲に溺れる中で感じ取った。あれから一昼夜、飽きること無くディオと交わり続けた自分の体力を夢主は素直に称賛したく思う。
 初夜にしてはあまりに淫らすぎたと心の中で反省しつつ隣で眠るディオの胸に夢主は頬をすり寄せる。何もかもが満ち足りて、頭から足の先まですっぽりと甘い幸せに包まれていた。
(このままずっとこうしていたい)
 そう願う瞼の裏に、顔を真っ赤にさせて怒り狂う父親の姿が浮かび上がってくる。幸せな気分は一瞬で吹き飛んでしまった。
 どう説明すれば納得してくれるだろうか。愛しているの、と告げても体面を気にする父によって強引に引き裂かれてしまいそうだ。それならこのまま二人でどこかに逃げてしまいたい。夢主は何度も爪を立てた広い背に手を回し、そっと抱きしめた。
「ン……、どうした?」
 ディオが薄目を開けてこちらを見つめてくる。半分眠りに落ちた表情がとても幼くて夢主の母性本能がきゅんと音を立てた。
「私……あなた以外、誰も愛さない」
 この先、何が起ころうとも心にあるのはディオだけだと誓う。引き離されて知らない貴族のもとに嫁がされても、ディオしか愛する事が出来ないだろう。
 決意を秘めた宣誓にディオは目蓋を瞬かせたあと小さく笑った。こめかみに優しいキスを送り、身を寄せてくる夢主を抱きしめてその肌を撫で回す。
「それでいい」
 静かな声が夢主の心に響いて目尻に再び涙を生み出すことになった。
 そうして抱き合って眠った数時間後、日が陰り始めたのを感じ取っていると侍女がトレーの上にグラスを二つ乗せて静かに部屋へ入ってきた。
「お食事をお持ちしました」
 赤い液体が注がれた二つのグラスをサイドテーブルに置き、鬱々とした声で主に報告をする。
「ディオ様。町外れに来た客人をつい先ほどジャックが出迎えに向かいました」
「ほう……ようやく来たか」
 ディオはグラスの中身を一息で飲み干し、唇を楽しそうに歪めた。
「夢主、お前も飲むがいい」
 シーツを胸元に引き寄せつつ夢主もゆっくりと身を起こす。差し出されたグラスを受け取ればとても魅力的な香りが鼻先を通り抜けていった。
「これは何という銘柄のワイン? とても素敵な香りだわ」
 驚く夢主の言葉にディオは笑いを噛み殺し、舌で唇を舐めながら妖艶に微笑んだ。
「この町の隠れた銘品だ。熟成させたものより年若い方が美味だぞ」
 何も知らない彼女がそれに口付ける瞬間をディオは目を細めて見守る。今まで飲んだことのない濃厚な液体が夢主の喉を滑り落ちると、それまで疲れを感じていた体に活力が漲った。
「何だか元気になるみたい。これは滋養のお薬?」
「フフ、まぁ、そういったところだ……」
 ディオは含み笑いを浮かべて寝台から立ち上がった。視線を逸らそうとしてもスポーツで鍛え上げた逞しい肉体に自然と吸い寄せられてしまう。加えて、今のディオには抗いがたい妖しげな雰囲気が発せられているようだ。
「俺は少しばかり客人をもてなしてくる。お前はここで待っていろ」
 着替え終えたディオはベッドの上に片膝を付き、グラスを傾けていた夢主の顎を捉える。柔らかな唇に残る生き血を舐め取って触れるだけの口付けを残した。
「一歩も外へ出るな。すぐに戻る」
 美しい微笑みを見せて去っていくディオを夢主は頬を染めて見送った。


 侍女が用意した風呂にゆっくりと浸かって身支度を整えた後、濡れた髪を丁寧に乾かしながらふと思う。
「ディオの言う客人って誰のことかしら」
 この町に知り合いが居るとは思えない。手紙か電報で誰かを呼び寄せたのだろうか。どちらにしても、きっとその人と今後の事を話しあうのだろう。
 夢主がそう信じて待っていると、ふいに何かが壊れる轟音が辺りに響いた。あまりに突然のことに驚いて夢主は身を縮ませる。何事かとブラシを捨てて窓に駆け寄れば、向かいの塔の一部が崩れて瓦礫となって落ちていくではないか。
「……」
 かなり古いとはいえ頑丈な作りの屋敷が突然壊れるなど余程のことだ。
 嫌な予感がした夢主はすぐにドアへ向かって走った。外へ出るなと言うディオの忠告を思い出すが、結局は扉を力任せに押し開いていた。
 暗い廊下を走り抜けて物音がする方向へ向かうと、曲がり角の所で異形の姿をした化け物がヌッと現れるではないか。濁り水のような匂いと腐った肉を辺りにまき散らしている。体に残るわずかな布地から、それはグラスを持ってきた侍女の変わり果てた姿なのだと理解した。
「!? い、いやぁっ! こっちに来ないでッ!」
 あまりのことに腰を抜かした夢主は尻餅をつきながら後退る。気味の悪い手がこちらに伸びてくるのを見て大きな悲鳴を上げた。
「オイ! そこのあんた、目ぇ閉じてろ!」
 見知らぬ男性が大きなハンマーを振り上げて叫びながらこちらに走ってきた。彼に言われるままぎゅっと固く目を瞑る。そのすぐ後で肉が潰れる聞くに堪えない物音が夢主の耳を襲った。
「おーい、ジョースターさん! こっちに生存者が居るぜ!」
「夢主! ああ、良かった! 無事だったのか!」
 名を呼ばれた人物が廊下の奥から笑顔で駆け寄ってくると、腰を抜かして立てない夢主を太い腕で抱き起こした。ジョナサンの柔らかな緑色の目に安堵すると同時に、幸せな時間は終わりを迎えたようだ。
「ジョナサン? ディオの言う客人ってあなただったの? お父様に言われて私達を迎えに来たの?」
 涙を浮かべる幼馴染みの姿を見てジョナサンは心底困ったように眉を寄せる。振り返ってスピードワゴンや後から来たポコとその姉、トンペティとストレイツォたちと視線を交わした。
「お願い……どうか私達を見逃して! 駆け落ちなんて褒められた事ではないけれど、お父様には後で必ず手紙を書くから。だからお願いよ。私、ディオと離れたくないの!」
「あぁ……何てことだ。君は……」
 彼女は自分の屋敷が焼け落ちたこともその際に父親が亡くなったことも、そして吸血鬼になったディオが谷底に落ちて消滅したことも何も知らないのだと気付く。ジョナサンはこの場ですべてを説明すべきかどうかで思い悩む。そして夢主の涙があふれる目を見た瞬間、冷たい手で心臓を掴まれるような気分を味わった。
「ジョースターさん、どうやら知り合いらしいが気をつけなせぇ」
 スピードワゴンがごくりと息を呑むのが伝わってくる。彼も赤く輝く目に気付いたのだろう。以前と同じ彼女はもう居ないことを悟ったジョナサンは拳を震わせてきつく眉を寄せた。
「どうしたのジョナサン? どうしてそんな顔をするの? ディオはどこ? この人達は誰なの?」
 矢継ぎ早に質問してくる夢主にジョナサンは哀れむ視線を向ける。彼はただ無言で片腕に波紋を込め、太陽と同じ波動の光を静かに放った。



 カーテンがひらひらと揺らぐその向こうに大きな月が夜空に浮かんで輝いている。誰もが寝静まった深夜、少し冷えた砂漠の風と月明かりを素肌に受け止めながら夢主は熱い吐息をこぼした。
 抱えさせられた両足を金色の髪がくすぐってくる。夢主の足の間に顔を埋めた相手にさっきから同じ所ばかりを責められ続けていた。
「ああっ……だめ……」
「何だ、もう達するのか?」
 からかうように笑って押し広げた媚肉を舌先でいやらしく舐める。包皮を剥いた小さな芽を唇で優しく吸い上げた。
「あっ、ダメ……DIO……っ」
 淫らで切ない声を上げて夢主は彼の名を呼んだ。およそ百年近く、ずっと想い続けてきた相手だ。彼女にとってそれはいつも特別な響きを含んでいた。
「んん……ッ」
 絶頂を迎えて力を込めた手が太ももに食い込んでわずかに肌を傷つける。DIOはひくひくと淫らに動く女唇を指で確認しながら、滲み出る血に唇を寄せた。唾液をたっぷりと塗られた秘部と太ももが月明かりの下で輝いている。DIOはそのいやらしい姿に目を細めると女の指を押しのけて鋭い犬歯で肌をなぞり上げた。
「あぁ……ん……」
「いい声を出すようになったな。昔とは大違いだ」
 男の前で局部を晒すことに怯えていた彼女はここにはいない。今ではむしろ見せ付けるようにして自ら大きく足を開いていた。
「もう……あれから何年経っていると思うの? それともDIOは恥じらう淑女を無理やり犯すほうが熱くなれるの?」
 どうにか息を整えながら少し不満そうに相手を下から見上げる。DIOはフッと笑って勃ち上がった己を夢主の秘部に擦りつけた。
「今も昔も、お前はいい女だ。全身を舐め回して抱き潰してやりたくなる」
 その言葉に照れてはにかむ夢主が変わらず愛しい。DIOはぬるつく蜜口に硬い陰茎を押し付けながら、首元に散るキスマークに再び唇を寄せた。
「とはいえ、どうも慣れている節がある……まさかとは思うが俺との誓いを破ってはいないだろうな?」
 柔らかな乳房を揉む手に力を込めながらDIOは鋭い視線を向けた。一時でも他の男に心を奪われていないか、そう心配する相手に夢主は呆れ顔を見せた。
「DIOこそ私の言葉を忘れたの?」
 時々、こんな子供じみた独占欲を見せる彼が可愛くて仕方がない。百年という歳月をかけて世知辛い俗世をさまよった自身とは違い、DIOは海底に沈んだままなので精神はあの頃とそれほど変わりがないのだろうか。
「私を一人残して行くなんて」
 あの時、襲い掛かって来た屍生人の残党を倒したジョナサンと共に夢主は初夜を過ごした屋敷から町へ移動した。そこでとても信じがたい説明を受けた後は太陽を遮る棺の中で三日三晩、泣き続けたものだ。
「本当なら憎まれても仕方がないと思わない?」
 新婚旅行中に夫を失った親友のエリナを慰める傍らで彼女のために生きようと決心した。スピードワゴンと一緒にジョナサンの子孫を支えて、時に吸血鬼の特性を研究材料として財団に提供した事もあった。二人が天国に召し上げられた今となってはそれらは美しい思い出だ。
「憎んだか、この俺を?」
 DIOは固く尖った乳首を舐めながら愉しそうに笑った。何も知らない彼女を吸血鬼にさせ、清い体を奪った。ジョナサンを倒した後、絢爛たる栄華を二人で眺める予定だったDIOに後悔などもちろん無い。
「少しだけ、ね。でも、やっぱり愛しく思う方が強かった」
 青春のすべてをディオに捧げたからだろうか。何時まで経っても忘れることなど出来ず、親友を亡くして生きる意味を失った時も脳裏に浮かんだのはディオの事だった。ジョースター家の子孫が幸せに暮らしているのを影から眺めつつ、どうせ死ぬなら幼馴染みと恋人が沈む海底でその時を迎えたい。そう思ってジョセフが還暦を過ぎた辺りから死に場所を求め、アフリカ沖のカナリア諸島を目指した。島に着いたその翌日、港でトレジャーハンターたちの噂を聞いたのは偶然か、それともやはり運命だったのだろうか?
「夢主……」
 熱っぽい声で名を呼ばれると少しだけ恥ずかしくなる。奇跡の再会を果たし、獣のように交わった激しい夜を思い出して夢主の下腹部が切なく疼いた。
「ねぇDIO、私は一体いつまで待てばいいの?」
 腰をゆっくりと揺らして奥から溢れ出る蜜をDIOの陰茎に擦り付ける。その熱さと硬さにゾクゾクとした快感が背筋を駆け上がってきた。DIOしか知らない体は彼でしか満たされることがない。寂しさのあまり自身の指で慰めてもますます想いを募らせるばかりだった。
「お願い、早く抱いて。今すぐあなたを感じたいの」
 誘いかける艶声がDIOの腰に響いてくる。
「フン……ねだり方も上手くなったようだ」
 短く息をついた後、DIOは夢主の膝裏をシーツに押し付ける。すべてが見えてしまう体勢に舌なめずりして、綻んだ花びらに切っ先をあてがった。
「あっ……はぁ……んっ」
 じわじわと押し開きながら挿入すれば夢主は甘い声を上げて白いシーツを握り締める。抗えない快楽に悩ましい表情を浮かべてDIOの全てを飲み込んでいった。
「あぁ……」
 まるで誂えたように全てがぴったりと収まって濡れた襞が優しく淫らに包み込んでくる。狭く温かな隘路はDIOをきゅっと締め付けて離さない。歓喜に身悶える夢主に切ない息を吹きかけながら、DIOは勢いよく腰を引いて再び押し込んだ。
「っ、やぁ……」
 的確でしなやかな腰の動きに夢主は目を見開く。容赦なく穿たれて二人が繋がり合うところからとろとろと蜜がこぼれた。
「フフ、悦んでいるな。ここが蠢いている」
 DIOはニヤリと笑って奥深い子宮の入り口を肉茎でノックする。ぐちゃぐちゃとあまりにひどい音がして夢主は堪らず片手で顔を覆った。いやらしい笑みを浮かべたDIOがすぐにその手を退ける。そして何を思ったかベッド横に置かれたグラスを手にとって躊躇うことなく中身をひっくり返した。
「え! な、なに……?!」
 凝固しつつあった誰かの血液が上から流れ落ちてくる。夢主の胸を赤黒く彩るそれを見たDIOは、手のひらで雑に広げると秘部へ直接塗りこんだ。
「やだ……ちょっと……、あっ……ダメ、これ……ッ」
 ただでさえ興奮しているのに、そこへ吸血鬼の主食が与えられてはさらに欲望が増すだけだ。DIOは血で汚れた手で胸を柔らかく揉みしだき肌に馴染むようにすり込んでいく。
「これは……いい発見だな」
 ゾワゾワと得も言われぬ快感が腰から背中を這って二人の脳を甘く痺れさせた。血を求めないと生きていけない夢主の体は少しでも多くを取り込もうと吸い付いてくる。胸はもちろん、DIOの陰茎を埋め込んだ花筒は狭まりねっとりと絡まってきた。
「ああぁ……んっ、いやぁ……」
 女唇から血を飲まされる快楽に夢主は髪を振り乱して身悶えた。火をつけられたように秘部が熱く、じんじんと甘く痺れている。DIOが愉悦を唇に刻みながら律動を再開すると、奥が悦びに打ち震えて絶頂へ向かうのを止められなかった。
「ディオ……、ディオっ」
 泣きながら首に腕を回したところで我慢しきれない悦楽が迸った。夢主は体を固くして膣肉に溜まっていた熱の全てを放出する。
「一人で先に果てる奴があるか?」
 達した余韻に震えている夢主には言い訳すら告げることが出来ない。涎を垂らして喘ぐ唇に吸い付いてDIOは再び大きく腰を穿った。
「っ……! ん……んうっ……っ!」
 柔らかく、淫らに吸い付いてくる膣壁に煽られてDIOは深々と打ち込んだ先にたっぷりと精を放つ。勢いよく迸る熱を痺れるような疼きを持った腹部で受け止めて夢主は絡みあう舌を吸い上げた。
「ふ……ぁ……」
 力を抜いてベットに沈み込む相手を上から眺めてDIOはお互いの唾液が重なりあう唇を舐める。愛欲に溺れきって息をつく夢主をニヤニヤと笑いつつ汗をかいたこめかみにちゅっと軽いキスを送った。
「次はお前が上になれ」
 休む暇なく体がぐるりと反転した。気怠い表情でDIOの逞しい胸板に夢主が手をつくと、乱れて散る髪を掻き上げた。
「この時ばかりはこの体で良かったって思うわ」
 人間のままならDIOに生気を吸い取られて干からびていただろう。人を辞めて良かったと思えるのはこういった時に重宝する底なしの体力と精力だけだ。
「今からDIOのぜんぶ搾り取ってあげる」
 赤い舌で挑発的に唇を舐め、お互いの肌に残る血液を両手でさらに広げていった。DIOの腹の上に跨りながらツンと乳首が立った胸を自分でいやらしく揉んで相手に見せ付ける。DIOが愉しそうに笑うのを見下ろして、もう一杯のグラスに手を伸ばした。彼が行ったように夢主もその中の液体をひっくり返す。
「テレンスがまた文句をいいそうだ」
 厚い胸板からとろとろと血が流れ落ちていくのを見てDIOは笑った。赤黒く汚れたシーツは何度洗っても元の白さには戻らないだろう。ブツブツと小言をいう執事のしかめっ面が容易に想像できた。
「ふふ、きっとすごく怒るでしょうね」
 夢主は他人事のように呟いてDIOの胸を舐める。生ぬるく鉄臭い匂いも吸血鬼には豪華な晩餐だ。舌先でそれを味わいながら男の小さな乳首をじっとりと愛撫した。
「夢主……」
「くすぐったい?」
 顔をしかめるDIOに笑いかけて鋭い犬歯で甘く噛んで見せる。熱心にそこだけを愛撫するのに焦れたのか、DIOの大きな手が腹の上で左右に広がる夢主の両足を撫でてきた。
「……ん、待って。すぐに挿れるから」
 DIOの胸を撫でた手を後ろに回して屹立した局部に触れる。ローション代わりに血をたっぷりと撫で付けてから腰を浮かした。
「あぁあ……DIO……っ」
 じわじわと沈めて再び全てを飲み込むと夢主の唇から甘美な吐息がこぼれ落ちる。濡れた肉襞が絶妙に締め付けてくる具合にDIOも堪らず顔を歪めて喘ぎ、二人していつもより強烈な快楽を貪った。
 もはや汚れるのも構わず夢主は広い胸板にすがりつく。長く太い陰茎を咥え込んだ女唇を淫らにひくつかせながら、薄く開いたDIOの唇を奪った。
「好き」
 想いを込めた囁きに埋め込んだ雄がぴくりと反応する。硬さを増していく楔を愛しく思いながら夢主は舌をそっと潜り込ませて待ち構えるDIOの舌を絡めとった。
 呼吸の合間に想いを紡ぐ相手を抱きしめてDIOは背中から尻に向かっていやらしく撫で下ろす。夢主はDIOと隙間なく寄り添って、ようやく訪れた幸せな時間にうっとりと目を閉じた。
(ああ、やっと……)
 捧げられた誰かの血ではなく、出来れば遠いあの日のように花で埋め尽くされた部屋で重なりあいたい。その時はきっと清純な乙女の顔で再び永遠の愛を誓うだろう。

 終




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