03


 太陽が沈み、ようやく訪れた夜も湿度が高く蒸し暑い。慣れない者には不快感を感じてもおかしくないのだが、ゴミが少なく清潔で機能的な東京に魅せられた仲間たちは、夏の暑さなど忘れて執事と共に夜の歓楽街へ颯爽と出かけてしまったようだ。
 そんな彼らとは別にホテルで夕食を済ませたDIOと夢主は、腹ごなしにゆっくりと歩きながら銀座を目指している。明るく照らされた歩道には帰宅途中の社会人、遊びに来ている内外の観光客、若者からお年寄りまで……まさに老若男女が入り乱れ、あちこちの店に出入りを繰り返していた。
「相変わらず騒がしい街だな」
「……そう言えば、DIOは前にも日本に来たことがあるんだよね?」
 こちらを見上げてくる夢主の言葉に当時の思い出がふと蘇る。ネオン街をさ迷いながら食料を調達し、同じ名の女を見つけては手酷く食い散らかしていた日々だ。ほんの数年前の事なのに、こうして出会えてからは遠い過去のようにも思えた。
「スシを初めて食べた時は衝撃だったぞ。わさびに悶え苦しみ、白子の正体を知って泣き喚くテレンスをお前に見せてやりたかった」
「あのテレンスさんが……? それ本当?」
 想像するだけで吹き出してしまいそうになる。
「すれ違ってしまったが……お前もこの国に居たのだな」
 口元を隠し、笑いを堪える夢主の髪をDIOは歩きながら優しく撫でた。あの頃に出会っていれば、今とはまた少し違った関係になったのだろうか。考えても仕方の無いことだとその仮定を頭の隅に追いやり、少し身を屈めて額に口付けた。
「お前に会いたかった」
 身悶えるほどに甘い声で囁かれ、夢主は耐えきれずに目を泳がせる。と、その先で麗しい容姿をしたDIOを呆然と見つめる多くの視線とかち合ってしまった。さらには公然と睦み合うカップルに対する呆れや妬みが加わって、居たたまれないほどの羞恥に襲われてしまう。
「どうした? 何を離れる?」
 慌てて距離を取ろうとする夢主にDIOは不思議そうに首を傾げた。
「あのね、DIO……日本では人前でキスしたら駄目なの」
 赤い顔で忠告する彼女をDIOは笑い飛ばす。
「そのような下らぬ事をこの私が聞き入れると思うのか?」
 したいときにする。欲しい物は全て手に入れる。欲望に正直なDIOにとって人の目など空気そのものだ。
「お願いだから……」
 ただでさえ注目を集めているのにこれ以上ジロジロと見られるのは嫌だ。聞き入れてもらえるよう必死で相手を見つめ返した。
「ム……」
 夢主の願い事は全て叶えろ、リゾットたちにそう命令したのは他でも無いDIO自身だ。キスひとつでまさかそんな事を言われるとは思ってもいなかったが……
「仕方ない……分かった」
 理解あるDIOにホッとしつつ、離れた分だけ空いた隙間に夢主は一歩を踏み出して埋めにかかる。この特別な場所を今だけは誰にも渡したくないと強く思ったからだ。
「……私もすごく会いたかったよ」
 毎晩、日本の夜空を眺めてはDIOを想っていた。あの頃を思い出すだけで胸が締め付けられ、悲しいほどに切なくなる。小さく震えるような声を耳に拾い上げたDIOは、夢主の方から繋げてくる手のひらの感触に胸を熱くさせた。
「もう一度、私の目を見て言ってくれ」
「……そ、それはまた今度に……あっ、ほら見て、面白そうなものがある!」
 照れ隠しなのか、顔を隠して店に飛び込んでいく相手のその様子に、DIOは先ほどのお願いを早くも破り捨てたい気持ちに駆られてしまった。


 二日目の朝、観光地を歩き回り、歓楽街で浴びるほどに酒を飲んだにも関わらず、今日も張り切った様子で迎えに来たリゾットたちを夢主は尊敬しながら出迎えた。
「眠そうな顔しちゃってさぁ……DIO様も罪なコトするよね」
 ニヤニヤと笑うメローネの言葉を聞き流し、夢主は絶え間なく人が流れ歩いている駅構内へ足を向けた。切符の買い方と蜘蛛の巣よりも複雑な路線を丁寧に説明して、覚えるにはまず実践からだと販売機の前に立たせて指導した。
「また時間通りだぜ……すげーな、どうなってやがるんだ?」
「それより見たか隣の車両! 女性専用車だって! 俺が乗るとどーなるわけ? 叩き出されんの?」
「お前のそのやらしい顔じゃあ、まず間違いなくそうなるだろうな」
 ホルマジオとメローネ、それにイルーゾォはつり革を手に笑いながら会話をする。
「どこに行っても綺麗だよなァ……観光客がこんなに乗ってるのにスリらしい奴は一人も見かけない」
「確かにそうだな。怪しい奴は動きですぐに分かるモンだが……見ろよ、鞄を置いて寝てる奴とかいるぜ?」
「ハハ、ああ見えて俺らと同じかもしれねぇぞ。ほら居るだろ、ナポリでも街中で商売してる奴」
 ペッシとジェラートは辺りをぐるりと見回し、ソルベは乗客の品の良さに肩を竦めた。
「良いところだとは思うが……話しかけても片言の英語じゃあ口説くにも骨が折れるぜ」
「そういやプロシュートにしては珍しく、昨日の夜は惨敗しまくってたな……ケッ、いい気味だぜ」
 ギアッチョの笑いをプロシュートは舌打ちではね除ける。シートに座った夢主はそんな彼らにぐるりと囲まれつつ、隣で長い足を組んで路線図を熱心に眺めるリゾットを窺った。
「ねぇリゾット……日本語が出来るようにスタンドを使った方がいい?」
 夢主の語学が完璧なのは露伴の能力のおかげだ。全く違う土地柄をなるべく早く理解するにはその方がいいかもしれない。
「お前なぁ……それをもっと早くに言いやがれ!」
 リゾットが返事するより先にプロシュートの人差し指が夢主の額を弾いてくる。
「え、なになに? 君の能力使っていいの?」
 メローネが笑顔を浮かべて身を乗り出してくる。他の仲間も夢主とリゾットを交互に見比べた。
「……そうだな……お前さえ良ければ、そうしてくれると助かる」
 さすがのリゾットも日本語の習得はすぐには無理だ。それに少しでも話せる方がガイド役の彼女の負担も減るだろう。
「もちろんいいよ。でも一日の制限があるから今日は五人までね。残りの四人は明日になるけど、それでもいい?」
 多くのイタリア人男性が声を揃えて「Si!」と叫ぶのを他の乗客たちは一体何事かと注視する。そして次の駅へ着く間に、それまでイタリア語で会話していた彼らが急に流暢な日本語を話し始めるのを聞いて、車内が密かに軽いパニック状態になったことを夢主たちは気付かなかった。



「チャオ! 君たちがあまりに可愛いから吸い寄せられちゃったよ。俺たち初めて日本に遊びに来たんだけど、仲間のガイドが道を間違えちゃってさ。悪いけどそこまでの道を教えてくれないかな?」
 金髪に彫りの深いハッキリとした目鼻立ち……どう見ても日本生まれで無さそうな相手がスラスラと日本語を話すのを呼び止められた女の子たちは驚きを隠さずに見上げている。
「怪しいモンじゃないよ。俺、メローネ。仲間と買い物に行く途中なんだ。ほら東京はすごくファッショナブルだろう? イタリアも同じくらいそうだけど、こっちのデザインも勉強しておきたいと思ってね。君たちの服、すごく素敵だ。とっても似合ってるよ。どこで買ったの? 男物でいい店知ってるなら一緒に行かないか?」
「……おい、誰かあの野郎の口を閉じさせろ……」
 低い声でそう言うのはギアッチョだ。ホルマジオとイルーゾォもそれに同意したところでプロシュートがメローネの後頭部を強く叩いた。
「国が変わっても見境のねぇ野郎だ。ガキ相手に口説いてんじゃねぇよ」
「えっ、まだ子供?」
「そいつらが着てんの学生服だぜ?」
「あ、そうなの? みんな着てるから流行ってるのかと思った……なんだァ」
 チャオ、と軽く手を上げ笑顔で去って行くメローネを女子高生たちは呆気にとられた表情で見送る。残念そうな声が後ろで響いたが、すぐに雑踏に混じってかき消されていった。
 行き過ぎていた道を戻り、何とか目的地に辿り着くとそれぞれの階を目指して十人はバラバラになる。イタリアには無いデザインで可愛いお洒落な服に夢主が目を輝かせていると、
「次はいつ来られるか分からない。今のうちにたくさん買うといい」
 そう言ってリゾットはさり気なく荷物を持って夢主の両手を自由にしてくれた。
「ありがとう……でもリゾットこそいいの? 折角の観光なのに……」
「気にするな。それに俺はこういった雰囲気に慣れていないからな」
 店員と親しい挨拶や日常会話も無く、商品を自由に手に取り、着替えて気に入らなければすぐに次の店に行く。コミュニケーションの少ないやりとりは合理的だが、どこか味気なく冷たい印象を彼に与えたようだ。
「いつものお店が恋しい?」
「まだ二日目だぞ。ホームシックになるには、いくら何でも早すぎるだろう」
 店員と客がリゾットをちらちらと見つめる中、二人は小さく笑い合う。
「きっと今頃、プロシュートたちは大騒ぎだね」
「またホルマジオの力を借りるだろうな。何をしにここへ来ているのか忘れているに違いない」
「買い物だって日本を知るための勉強になるよ。リゾットはどう? 日本は好きになれそう?」
「そうだな……ここは騒がしく、豊かで、驚くほど治安がいい。住むには便利だろう。だがバールが無いのは困るな……」
 いつものバリスタが注いでくれるエスプレッソが飲みたい。彼の不満は今のところそれだけだ。
「じゃあこの後はコーヒーショップだね。お昼もそこで済ませちゃう?」
 仲間たちはまた肉が食べたいと騒ぐかもしれない。リゾットは頷きながら異国の地に適応していく彼らを思い浮かべた。
「……お前、待たせておいてそれだけか?」
「プロシュートが買いすぎなだけだと思うけど……」
 プロシュートがペッシに持たせた紙袋は十二、それに対してリゾットが持っているのは三つだけだ。
「なぁそれより、この後どーする?」
 多くの荷物を手にしたメローネは二人の間に割って入り、リゾットと夢主の顔を窺った。
「俺としてはもっと買い物したいし、せっかく日本語が話せるんだから、もっとあちこち行ってみたいって思ってるけど」
「そりゃあオメーはいいだろーよ」
 まだイタリア語しか話せないギアッチョは不満顔だ。
「大勢で移動するのは確かに目立つからな……」
 それに行きたい場所もメローネと夢主ではまた違ってくるだろう。リゾットはちらりと彼女を見下ろして決断した。
「ここで二手に分かれよう。会話が出来るとはいえ面倒事を起こすなよ。何かあれば俺か夢主に連絡を入れろ」
「さすが話が早いね、リーダー! 大丈夫、スタンドなんて使わないよ」
「こいつらと一緒か……チッ、仕方ねぇ。行くぞ、ペッシ」
「兄貴、まだ買うつもりですかい!?」
 片手を上げてさっさとその場を後にするメローネとプロシュートたちを、ソルベとジェラートが肩を竦めつつ追いかけて行った。
「あいつら野放しにして大丈夫か?」
「そう思うならお前がお守りをしてやるといい」
「ゲッ、冗談だろ? それだけは遠慮するぜ」
 ホルマジオは両手を軽く上げてすぐに拒否を示した。
「奴らは奴らで好きにするだろ。それで俺たちはこれからどこに行くんだ?」
 イルーゾォは夢主が持つ観光案内を指でつついて広げさせる。
「みんな行きたいところはないの?」
「観光名所はもう十分だ。人が多くて疲れるだけだからなァ」
「買い物もウンザリだぜ……あいつらジロジロ見やがって、俺らは見せモンじゃねぇぞコラァ」
 いい男たちが大勢居るのだから仕方が無いだろう。目の保養役を果たして疲れているギアッチョを落ち着けるカフェで休ませた方がいいかもしれない。
「俺らはいいから、お前はどこか行きたいトコはねぇのかよ」
 ホルマジオの声にリゾットとイルーゾォ、ギアッチョの視線が夢主に集中する。観光雑誌に付箋はたくさん貼ってあるが、そのどれもがチームのためのものだった。
「無いって言うなよ。言ったら今後のドルチェは全部俺が食うからな。もう新作のジェラートも買ってきてやらねぇ」
「えっ! ギアッチョ、そんなの狡いよ……」
「何か一つくらいあるだろ。女のトイレ以外ならどこでも構わねぇぜ。なぁ?」
 ホルマジオはイルーゾォに同意を求める。
「夢主も久々の日本だろ? 楽しめばいいさ」
 喜ばせたいと願うDIOの思いは彼だけのものではない。チームの自分たちもそうだ。心安らぐ暖かい場所を作ってくれる夢主をどうにかして喜ばせたいと思う。
「そう……? あのね、実は一ヵ所だけ行ってみたいところがあって……。雰囲気的にDIOと行くのは諦めていたんだけど……」
 言いにくそうに呟く夢主にホルマジオとイルーゾォは破顔した。
「何だ、あるのか!」
「ならそこに行こうぜ」
 彼らに腕を引かれ、渋っていた夢主も歩き始める。
「行きたいなら最初に言えっつーの。俺らに遠慮なんかすんじゃねぇぞ」
 ギアッチョに軽く小突かれてしまった。
「ごめんね、だって……」
「言い訳するな。仲間だろーが」
 それだけを言ってプイッと横を向くと、少し驚いた表情のリゾットと目が合ってしまった。ギアッチョが慌てて視線を戻すと今度はイルーゾォたちにニヤニヤと笑われてしまう。
「クソッ、んだよお前ら……! いちいち見てんじゃねぇぞッ!」
 ホルマジオの足を蹴り飛ばそうとするギアッチョに夢主は嬉しそうに……でも決して声を立てずに笑った。



 とても優しい雰囲気でまとめられた店内で、毛むくじゃらのふわふわした店員が五人を愛らしい鳴き声と共に出迎えてくれた。その瞬間、ギアッチョの顔が引き攣るのを夢主は見てしまった。四人の強面なイタリア男性が淡い色のソファーにぎこちなく腰掛ける姿に、この店を選んだ夢主は少しだけ後悔する。
「ごめんね、みんな……」
 猫じゃらしを手に謝られては怒る気にもなれない。
「お前の行きたいところっつーのはココかよ……」
「キャットカフェ? 猫に金を払うのか? 東京には変わった店があるんだな……」
 ホルマジオは呆れ顔で、イルーゾォは珍しそうに明るい店内を見渡した。
「ペットを飼いたいのなら……言えばいつでも許可を出したぞ」
 渋い表情のリゾットに夢主は慌てて首を横に振る。
「人気みたいだから、ちょっと体験してみたかっただけ。ホルマジオの猫が遊びに来てくれるし、あの部屋で飼いたいわけじゃないよ」
「そうか……ならいいが……」
「毎日、メローネとギアッチョの相手してるんだ。それで充分だろ」
 ホルマジオは慣れた動きで猫のおもちゃを動かし、飛び付いてきた子猫を軽くあやす。
「俺は猫じゃねぇ」
 ムッとした表情でギアッチョが文句を言うと、
「お前のスタンドに付いてるだろ。可愛いお耳がよォー」
 ホルマジオは両手を頭に乗せてぴょこぴょこと猫耳のように動かした。
「テメェ……」
 青筋を立たせるギアッチョを見て夢主とイルーゾォがすぐに二人の間に入る。
「ギアッチョ、ほら子猫! 可愛いでしょ? 猫のおやつ買ってくるから一緒にあげよう?」
「大人しくしてろよな……せっかく夢主が楽しんでるってのに……DIO様の言葉を忘れたのかよ? ……あっ」
 そこまで言ってからイルーゾォは手で口を押さえ込んだ。リゾットは眉間に皺を寄せ、ホルマジオは笑いを隠さない。ギアッチョも言葉にはしないが口を滑らせたイルーゾォの足を強く踏みつけた。
「DIOが何?」
 猫じゃらしにじゃれつく子猫をそのままに夢主は横を向いたイルーゾォの顔を覗き込む。
「何でもねぇよ。忘れろ」
 ギアッチョにそう言われてはますます気になってしまう。視線を合わせてくれないホルマジオとイルーゾォは諦めて、チームリーダーのリゾットに向き直った。
「DIOに何か言われたの?」
 不安そうに、しかし真っ直ぐに見つめられてリゾットは目を逸らすことが出来なくなってしまった。彼の横でふわふわの大きな猫が毛繕いをする音だけがその場に響く。
「……言えないようなこと? まさか、日本で最後の思い出を作れとか……?」
 短い間に考えて導き出した最悪の答えを想像すると、堪らず涙が盛り上がってくる。それを見て何か勘違いしていることを理解したリゾットは珍しく焦った様子ですぐに口を割った。
「違う、そうではない。お前の望みを聞いてただ喜ばせてやりたいと……それだけを願われた」
「……?」
「つまり、好きな女の喜ぶ顔が見たいって事だ」
 ホルマジオの補足を聞いて涙は引いたが、それでも不審そうに夢主の眉は寄せられたままだ。
「……日本に連れてきたのはそれだけのため? じゃあ取引も嘘?」
「いや、それは本当らしい。ただ君がメインで取引はそのおまけらしいけど」
「それならそうと……言ってくれればいいのに」
 最初に告げてもらえれば、さらうように飛行機へ乗せなくてもよかったはずだ。
「言ったところでお前はすぐに遠慮するだろーが」
 ギアッチョは馬鹿馬鹿しさに顔を顰め、夢主の眉が寄った額を指で弾く。
「ギアッチョの言うとおりだな。君は驚くほどワガママを言わないから、俺たちも毎日を楽しんでいるか不安に思うんだぜ?」
「え……、そうなの?」
 今気付いたように呟くと、ホルマジオはソファーに肘を突いて呆れたように笑った。
「料理は上手くても、お前は男に甘えることを知らねぇからなァ」
 DIOにもチームにも、もう充分なほど甘えていると思うのだが……夢主はこれまでを思い返しながら悩む。
「迷惑を掛けたなんて思わなくていいぞ。謝罪も必要無しだ」
 謝ろうとする夢主より先にホルマジオが笑いながら口を挟んだ。
「それより俺がサプライズの内容をバラした事、DIO様には内緒にしてくれよ? 出来ればこの話も聞かなかった事に……」
 こんな事で怒りはしないだろうが、気まぐれなDIOの事だ。イルーゾォは夢主にそんな保険を掛けておいた。
「うん、分かった。色々とごめんなさい……」
 謝罪は要らないと伝えても、結局謝ってしまう生真面目な彼女にホルマジオは肩を竦めた。
「なぁ、夢主……深く考えんな。お前はこいつらのようにすり寄って素直に甘えた声を出してりゃいいのさ。後は時々ツメを立てて、可愛いワガママを言えばいい。男は頼られてこそ満足する生き物なんだぜ」
 ごろごろと喉を鳴らす猫を優しく撫でながらホルマジオはウインクを飛ばしてくる。その気持ちの悪い仕草にイルーゾォとギアッチョが大げさに吐く真似をするのを見て、夢主は笑いが堪えきれず小さく吹き出してしまった。




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