NYから5日後


 初夏の爽やかな風が吹き抜けるナポリ市内は、昼間の喧噪を残しつつ気怠げな夕方を迎えた。大きなサッカー試合のない土曜日をどう過ごそうかと人々が楽しそうに話す中、麗しい吸血鬼に仕える執事は先ほどから邸内を慌ただしく歩き回っている。
 大きなテーブルに並べられたカトラリー類は全部で11名分。この度、ようやく縄張りを手に入れた暗殺チームと彼らを親衛隊として側に配属させたDIOのものだ。今日は彼らの昇進祝いのための夕食会をここで開くことになっていた。そうしてテレンスが支度を整えていると玄関で涼やかな呼び鈴が鳴った。急いで足を向ければ、キッチン前の廊下で朝から料理の仕込みを手伝ってくれている夢主と鉢合わせになる。
「お任せ下さい、夢主様。私が出ます」
 エプロン姿の彼女を押しとどめ、テレンスは玄関扉を大きく開いた。
「よぉ、テレンス。元気だったか?」
 そんな風に馴れ馴れしく話しかけてくるのはホルマジオだ。手土産らしいサラミとチーズが入った紙袋をずいっと寄越してきた。
「元気ですよ。あなた方もお変わりがなさそうで……」
 クスッと笑いながらその後に続いて入ってきた男たちを見る。ギアッチョ、イルーゾォ、メローネ、それにプロシュートとペッシ、ソルベとジェラート、最後にリゾットが姿を見せた。
「お招き感謝する」
「いえ、さぁどうぞ奥へ」
 明かりが灯された廊下に彼らを通し、足下に伸びてくる夕日を大きな扉で遮断する。
「テレンスさん、お皿に盛りつけておきます」
 チームの彼らに夜の挨拶を終えた夢主がテレンスの手にあるサラミとチーズを指差した。
「いいですか? すみませんね」
 テレンスはそれらを彼女に預け、食前酒を交わすアペリティーヴォを楽しんでもらうために広いリビングへ9人を案内する。
 酒の入ったグラスに手を伸ばし、オレンジ色に染まった市内と海の風景を楽しむ仲間たちを閉じていく扉の向こうに見届けて、夢主は一人、煮える鍋と何枚もの皿が待ち構えるキッチンに戻った。
 戸棚から大皿を出し、ホルマジオが持ってきたサラミを切って並べていると、背後でドアが開く音がする。包丁を持ったまま振り向けば、シャワーを浴びて身を整えたDIOがあくびを噛み殺しながら入ってきた。
「いい香りがするではないか。愉快な奴らがやって来たらしい」
「おはよう、DIO。リゾットたちならリビングにいるよ。でも窓が開いてるし、太陽もまだ出てるから行かない方がいいと思う」
「忌々しい季節め……」
 日の入りが遅く、日の出が早いこの時期はDIOが活動できる夜の時間が短くなる。まばゆい太陽の日差しを受けて喜ぶ市民たちとは違って、夜を好む吸血鬼のDIOには面白くない季節だった。
「それで、お前は一人ここで何をしている?」
 可愛らしい花柄のエプロンを着た彼女を後ろから抱きしめ、包丁を握る腕をつぅっと撫でた。
「ホルマジオの手土産でおつまみを作ってるところ。DIOも食べる?」
「今はいらぬ。それよりも……私はこちらが欲しい」
 首筋に高い鼻を埋め、深く息を吸い込まれた瞬間、夢主の肩がぴくんと跳ね上がる。吸血鬼の主食である鮮血を望まれていることに気付いても、この後に控えた夕食会の準備を終える方が先だ。
「もう少し後じゃ駄目? せめてご飯を食べてからでも……」
「お前はこの私をまだ待たせるつもりなのか?」
 渋る夢主の首を唇で食みつつ、DIOは不機嫌そうな声を耳に残した。
「私に内緒でニューヨークへ旅立ち、ようやく屋敷にやって来たかと思えば、テレンスとキッチンにこもって料理の手伝いをし始める始末だ。腹の空いた哀れな私を飢え死にさせるつもりか?」
「そんな……」
 毎日くっついて過ごしたベガスからイタリアに戻ると、一転してすれ違いが多くなった。アメリカから戻ってきた夢主がこの屋敷に足を踏み入れるのも久々で、DIOと会えることが嬉しい反面、顔を付き合わせる事に何だか照れてしまう。それでもまさか飢餓を覚える程とは知らず、悪いことをしたと夢主は素直なまでに罪悪感を感じた。
「じゃあ、少しだけ……まだ作業が残ってるから」
 血を失って倒れるほど飲まれるのは困る。そう言って着ていたブラウスのボタンを二つほど外しにかかった。
「分かっている。あいつらが食前酒を楽しむのと同じ事だ」
 夢主の手から包丁を退け、大きな手で安心させるように包み込む。DIOはうっとりとした吐息を首筋に吹きかけながら甘噛みし、鋭い犬歯で柔らかな皮膚を浅く切り裂いた。
「……っ」
 痛みと共にそれだけではない刺激が背中を駆け上がってくる。血の香りに興奮するDIOの吐息が敏感になっている首筋を這い回るからだ。血を吸われるごとに甘美さが増していくこの行為を、いつか心待ちにしてしまいそうで恐ろしい。痛みと悦楽に震える手をDIOが左手で包み込み、滲み出る血を丹念に舐めながら飲み干していく。不意に、それまで腹を抱いていたDIOの手がするするとエプロン生地の上を横切って、スカートに隠された尻を撫でた。
「ちょっと、DIO……やだ、」
 いやらしい手つきに夢主は咎めるような声を出す。DIOはその声を無視し、吸血行為を続けながらフッと笑った。
「ところで……お前がニューヨークで言ったことを覚えているか? 何と言ったかな……素晴らしい言葉だったように思うぞ」
 わざとらしい声にドキリと心臓が高鳴った。言質を取られ、いつかは言われるだろうと覚悟していたが……それが今日、この時とは思ってもみなかった。
「確かお前はこう言ったな? “ナポリに帰れば何でもする”……この私にそう告げた。間違いないだろう?」
「……それは……」
 焦るあまりつい口にしてしまった言葉だ。ニヤニヤと実に嫌味たらしい笑みを浮かべた相手を夢主は困り顔で見上げた。
「まさか……この私に嘘をつく気か?」
 ぴくりと眉が跳ね上がるのを見て小さく首を横に振った。それを満足そうに見下ろしてDIOは再び傷口に唇を寄せてたっぷりと舐め上げる。
「ん……」
 声を殺そうとする夢主の両腕を押さえ込み、抱きしめながら片手はスカートをたくし上げていく。待って、と焦った声が響くより先に、DIOは舌を内耳にねじ込んで悪魔の囁きを放った。
「今日一日、私の言うことをすべて聞き入れてもらおう。なに、悪いようにはしない……」
 耳から脳へ直接響く甘い声に早くも腰から力が抜けそうになる。その一方でDIOの言うすべてを聞くなど、一体どんな恐ろしい命令を下されるのか……考えただけで震えが走った。
「そう怯えるな。吸血以外で痛みを感じることはしないと誓おう。それなら良いだろう?」
 底意地の悪そうな顔で言われても、少しも良いとは思えなかった。相手の言葉に頷いていいものか躊躇いを見せる夢主にDIOはスッと目を細める。
「アメリカまで追いかけた私の真心を、お前は汲んではくれぬのか?」
 やけに恩着せがましいがそれを言われると弱い。心の中で小さなため息を吐き、恐る恐る相手の要求を窺った。
「それで……DIOの最初の命令は?」
「そうだな、まずは……明日の朝までスタンドは使用禁止だ」
 スタンドを無効化させてまで何をさせる気なのか……何だか寒気がしたが、力強い目に気圧されて仕方なく頷いた。
「それから、こちらも不要だ」
 そう言ってDIOはスカートの中で鋭い爪先を動かした。切り裂かれ、はらりと足下に落ちていくショーツを夢主は呆気にとられた表情で見下ろす。
「……えっ!? う、嘘でしょ!?」
「いいや、私は本気だ。何ならこちらも取り外して見せよう」
 つっとブラジャーの肩紐をなぞる相手から慌てて身を捩る。
「やだ、やめてっ」
「フフ、こちらは後の楽しみにしておくか……そう睨むな。自らスカートを上げなければ見えることはない。そうだろう?」
「だけど、こんな姿で……」
 心許なく感じる下腹部に膝をすり合わせ、少しでも隠そうと試みる。まさか、このまま下着ナシで夕食を取らなくてはならないのだろうか……焦る夢主にDIOは楽しそうな表情で口付けてきた。
「奴らのためにつまみを作るのだろう? さぁ、ナイフを持て」
「え、でも……ひゃっ」
 大きな手が太股をなぞり上げて、丸い尻をゆっくりと撫で回す。際どい部分に触れることは無いが、それでもこんな事をされながら作業を続けろといわれても無理だ。
「やだ、DIO……! 他の……他の願いにしてっ」
「フフ……私はテレンスが戻ってくるまで好きにさせてもらう。お前も早く切らねば、何をしていたかバレてしまうぞ?」
 夢主の願いを無視し、DIOは足の付け根をやわやわと撫で上げた。肌を弄ぶ淫らな手は女の体に潜む悦楽のスイッチを的確に、それでいて丁寧に押し撫でていく。
「あっ……ん……だめ、お願い……ッ」
 テレンスが戻ってくるかもしれないキッチンでDIOと戯れるなど夢主には耐えられない。下肢を這い回る手を退けようとするが、すぐにDIOの手が伸びてきてカウンターに置かれた包丁へと導かれてしまった。
「何を言っても無駄だ。さぁ、いい子だからナイフを持て」
「うぅ……」
 その言葉に仕方なく従う夢主を抱きしめて、DIOは唇の端に弧を描く。早く終わらせようと夢主が懸命に包丁を動かす様子に小さく笑いかけ、太腿から柔らかな尻、そこから腰に向かってゆっくりと手を這わせる。
「……! はぁ……っ」
 すでに体中を味見し、何をどこで感じるか指と唇で探り当てているDIOにとって、夢主の息を乱す事など造作も無いことだ。腰を震わせる相手を楽しそうに見下ろしながら、スカートの留め具を静かに外してみせる。
「DIOっ、やだ、もう……!」
 重力に従って落ちていくそれを夢主は片手で必死に食い止めた。その間にもDIOの手はするすると背中を這い回り、背骨をひとつひとつくすぐりながら胸を支える留め具を引っ掻いた。
「えっ……」
 不意に締め付けが緩まったことに驚いていると、DIOの両手が二つの乳房を包み込んできた。
「うそ……っ!」
 包丁を置き、潜り込んできたDIOの手を退かそうとしてもその手は止まらず、優しくも淫らな動きで揉み上げてくる。まだ柔らかな乳首をきゅっと摘み上げて、指の腹でぐりぐりと押しつぶされてしまった。
「っ……んん……あぁ、」
 綺麗な花柄をしたエプロンが波打ち、その下で卑猥な動きを見せる相手の手を思う。下着を奪われ、スカートはずり落ちて夢主の指先にかろうじて引っかかっている程度だ。もう隠せないほどに息を乱してしまっている。こんな場面をテレンスに見られたら……と思うと赤く染まった頬に青みが差した。
「DIO、もういいでしょ……もう、……本当にこれ以上は……いや」
 必死な顔で相手を見上げると、DIOは酷薄な笑いを見せてブラウスの中でわだかまっていたブラを切り払い、床へ落とした。
「私がただの戯れでこんな事をしていると思っているのか?」
 目を見開く夢主にDIOはそう囁いた。
「……違うの?」
「お前は私以外の男から指輪を受け取り、あろう事か左の薬指に身につけてジョルノと夜を共にした。キスマークはないようだが……足を開いて最後まで許したのか?」
 DIOの言葉を理解した瞬間、夢主はカッとなった。
「ゆ、許してない! 何言ってるの、ジョルノと何かあるわけないでしょ! DIOの思ってるようなコト何もしてない……!」
 真っ赤になって叫ぶ夢主をDIOは冷たい視線で射貫く。
「フン……その言葉が本当か否か、それは今から分かる。私への愛が薄れていないのならお前は全てを受け入れるはずだ……これは罰でありその確認だと言っておこう」
「そんな……」
 純粋な親切心から出た行いを、DIOに誤解されていることにショックを受けて言葉が続かなかった。どう言えば信じてもらえるだろうか。ジョルノから何も無かったと説明されても、DIOの疑いが解けなかったら……青白くなる顔をDIOが覗き込んでくる。
「指輪は返したようだな」
「もちろん……だって、ジョースター家のみんなに安心してもらうための小道具だから……」
 その言葉にDIOはピクリと眉を跳ね上げ、スカートを押さえ込んでいた夢主の左手を取った。
「お前は……何も分かっていない」
 ため息をつくような声を残して、引き寄せた手に唇を這わせる。指輪の跡が消えたそこに牙を立てて、流れ出た血を舌先に絡め取った。
「……DIO?」
「今日はこの姿で過ごせ。反論も抵抗も許さぬ」
 厳しい声とは裏腹に指の根元を舐める仕草はとても優しい。
「分かったなら作業を続けるがいい……もうすぐ執事がやってくるぞ」
 羞恥と混乱で乱された夢主の頭の中をその言葉が急速に冷やしていった。



 DIOを側に置いた夢主から切り口の歪んだつまみ類を手渡されたテレンスは苦笑し、服が汚れたからと言って決してエプロンを脱ごうとしない彼女に首を傾げつつも、ダイニングの末席に用意した椅子を引いた。
「今宵はリゾットの幹部昇進祝いだ。好きなだけ飲んで食べるが良い」
 大きなテーブルを取り囲む十人を見渡し、DIOはワインの入ったグラスを視線の高さに掲げる。グラスを鳴らす軽やかな音で夕食の始まりを告げると、あとはもうお喋りの嵐だ。上座にDIOを置き、その手前にリーダーのリゾットが腰掛け、あとはチームに入った順番に並んで下っ端のペッシと夢主が下座に腰を下ろすことになった。ついさっき横暴な恋人の言葉を受け入れて下着を剥ぎ取られてしまった夢主は、官能を灯されたままの下腹部とDIOの手によって尖ってしまった胸の頂を隠そうと、騒がしい中でただ一人、必死になっている。
「? どうした、そんなに背を丸めて……ほら、これ美味いぞ。俺のも食え」
 隣に座ったイルーゾォに話しかけられる度、夢主は貼り付けた笑顔の裏で冷や汗を流し、地獄のような時間が早く過ぎ去ってくれる事を願った。
 そうしてひとしきり食べて飲んで話してを繰り返した後、チームのそれぞれが食後のデザートやコーヒーを片手に庭へ出たり、テレビを付けたりと好きなように過ごし始める。朝から用意したというのにDIOのせいで料理を味わうことが出来なかった夢主も、周りから人が減っていくことに安堵した。
「食べないのか? お前の好きなケーキだろ」
 不意に夢主の頭上からそんな声が降ってくる。さっきまでイルーゾォがいた椅子の背もたれに手を置いて、DIOは愉快そうな表情でこちらの顔を覗き込んできた。
「……DIO」
 誤解されていることが悲しいのに、体は消えない熱を帯びていて苦しい。
「ひどく顔が赤いな……酒を飲み過ぎたか?」
 そう揶揄してくる相手に居たたまれなくなって、夢主は勢いよく立ち上がって背を向けた。ダイニングのドアを抜けたその先でぐっと引き寄せられたかと思うと、廊下の壁に強く背中を押しつけられる。
「どこへ行く」
 閉じていくドアから漏れる光がDIOの赤い目を鮮明に彩った。息を呑む夢主の前で光は消え、足下を照らす淡い輝きだけが廊下に満ちている。
「この私から逃げようとするなど、愚かなことだぞ」
 壁に両手をついたDIOは身を屈め、肩を竦める夢主の耳にそう囁いた。
 色気を含んだ流し目が何も身に付けていない体の内側を滑り落ちていく。ゾクゾクと波打つ背中を壁に押しつけながら、退路を断たれたDIOの腕の中で夢主は相手をそろりと見上げた。
「DIO……あのね、さっきの話だけど……」
 弁明の言葉を紡ぐ唇を整った長い人差し指が押し止めてくる。
「言い訳は聞かぬ。それより足を広げろ」
「えっ? 足……?」
「そうだ。肩幅ぐらいでいいぞ」
 DIOはそう言ってスカートに隠された夢主の太腿を撫で上げた。空気に触れたそこを意識すると、風通りのいい下腹部の状態に改めて頬を染めずにはいられなかった。
「……嫌か?」
 確信的な笑みを浮かべる相手に文句を言おうとする唇を噛む。近くに誰も居ない事だけが救いだと、心の中で言い訳を作りながら夢主はそろそろと少しだけ足を開いた。
「従順だな。さきほどの怒りはどこへ置いてきた?」
 くすっと笑いながらDIOは邪魔なエプロンを外して床に落とした。それからやんわりと太腿を撫で回し、スカートの隙間から際どい部分に指を伸ばしてくる。柔らかな恥丘を揉み、そこから続く渓谷をくすぐってまだ固く閉じた蕾をなぞった。
「あっ……」
「……私に触られるのは嫌らしい」
 とっさに相手の腕を押さえつけた夢主にDIOはそんな言葉を投げかけてくる。躊躇いながらも手を離し、夢主はすぐに首を横に振った。
「嫌ではないのなら、それを言葉にしろ」
 湧き起こってくる羞恥に身悶えしながら夢主はぽつりと呟いた。
「……さ、触って、」
 首まで真っ赤になった相手をDIOはニヤニヤと淫らな笑みを浮かべて見下ろす。
「これが邪魔だ。切り裂いても構わぬな?」
「!? ま、待って……」
 DIOの言葉に夢主は慌ててスカートを守りに入る。下着だけでなくこれまで無くしたら、もう一歩も歩けない。そうして自らめくり上げることになった夢主は、自分の姿を見てますます羞恥に身を焦がした。こんなところで下半身を露出させている事実に目眩がする。どうしてこんな事に……震える手でスカートを握りしめる彼女にDIOはようやく満足そうに微笑んだ。
「ひどい格好だ……淫らすぎてとても直視できぬ」
 そう言いながら身を屈め、夢主の胸を刺す言葉とは裏腹に、甘い香りを放つ下腹部を視界に収めた。
「……っ、え、ちょっと……DIOっ」
「動くな。そのままじっとしていろ」
 楽しそうな口調で釘を刺すと、DIOは媚肉を指で左右に広げていつもするように舌を伸ばした。まだ隠れている秘芽を舌先でつついてくすぐれば、夢主の腰がびくりと震えるのが伝わってくる。床に片膝を付き、そうして秘部に顔を埋める相手を夢主は信じられないような顔で見下ろした。
「っ……、DIO……! こんなところで……やだっ」
「フフ、刺激があっていいだろう? 声を殺さねば中の奴らに聞こえるぞ」
 ぴちゃぴちゃと音を立てながらDIOは至る所に舌を潜り込ませた。ぴたりと閉じた花びらを何度もなぞってこじ開け、蜜が詰まった肉の中を探るように舐め上げる。
「っ……ふっ……んんっ……」
 長らく抱かれていないせいか、それとも、いつ誰かが扉を開けて外に出てくるかもしれない廊下という場所が背徳的すぎるのか、体を駆け抜ける甘い電流は夢主の体と心を悦楽に堕としていく。DIOの大きな手は尻や足の付け根を這い回り、じっとりとした愛撫で肌を揉みしだいてきた。
「あ、やぁ……はぁっ……ん……」
 逃げることも拒否することも出来ず、抗えない快楽をただ身に受け続ける事しか許されない。あふれる蜜を丁寧に舐められ、その度に駆け上がってくる堪らない心地よさを、指を噛んで耐えようとしても声は次々に喉の奥からこぼれてきた。
「ん……っ、……あぅ……」
「食事の最中も物欲しげな顔をして私を見ていたな……いつからこれほど淫乱になった?」
「そんな……こと、」
「違うと言うのか? こんなにも濡らせておいて?」
 そう揶揄しながらDIOは綻びかけている蜜口に指を這わせた。とろとろに溶けたそこは長い指を悦んで迎え入れてしまう。
「はっ、あぁ……だめっ……」
「駄目か? それなら仕方あるまい」
 DIOはすぐに指を引き抜き、汚れた指先をぺろりと舐めた。
「ぁ……DIO……」
 切なく甘い声で名を呼ぶ夢主にDIOはまだ少し埋もれている赤い芽を舌先で転がして、ちゅっと優しく吸い付いてやる。力の入らない体を壁にもたせかけ、腰を揺らめかせつつ前へ突き出してくる彼女をDIOは愛しく思う。
 ぴちゃぴちゃとわざといやらしい音を立てて舐め、舌で押しつぶしては優しく啄む。とろりとこぼれる蜜ごと吸い上げてやれば、夢主の膝は震えて今にも崩れ落ちそうになった。
「ン……ぁ、あぁ……ッ」
 唇を噛んでこもった声を廊下に響かせながら、DIOの広い肩に手を置いて必死で体を支えようとする。それでもざらついた舌で弱いところを様々に責められると、蕩けそうな気持ちよさに夢主の体は素直な反応を返した。
「随分とあふれてきたな……見ろ、私の口元を。こんなに汚してどう責任を取るつもりだ?」
 女の蜜で汚れた顔を見せられて夢主は恥ずかしそうに目を閉じる。すぐにハンカチを取り出そうとする彼女の手を捕らえ、DIOはぐっと体を引き寄せた。
「お前の唇で綺麗にしてくれ」
 驚いた目がDIOと絡み合い、そのうち諦めを見せた。両頬を手で包み込んだ夢主はそろそろと屈んで唇を押しつける。DIOは自身の体液を舐め取る夢主を見上げながら、とろけた花びらに指を這わせ戯れに動かしてもてあそんだ。
「キスはしなくていい」
 その一言で夢主は唇を震わせ、目尻にじわりと涙を浮かべた。そんな相手の様子に胸が高鳴り、甘く疼く自分の性癖にDIOは心の中で苦笑する。言葉でからかっていじめて、勘違いさせて悲しませた後に一転して愛を囁く。安堵と快楽を同時に覚えさせて、決してここから離れないように絡め取る……打算や計略が見え隠れするそんな愛し方しかDIOには出来ない。
「あ……、んんっ」
 奥からあふれてくる蜜をDIOが指でかき混ぜると、それまで唇を寄せていた夢主が再び甘い吐息をこぼした。ちらちらと見えるその赤い舌を思う様に貪って、何もかもすすり飲みたい欲求を堪えながら、DIOは尖ってきた敏感な蕾を指の腹で押しつぶし、強く弾いては優しく撫でて愛撫した。
「あ、いや……、ぁ……ん」
 足の間で淫らに動く指に煽られた夢主はDIOの首を抱きしめて体を大きく震わせた。力が入らず寄り掛かってくる相手を抱きしめ、DIOは指先で軽くつまみ上げる。短い悲鳴を上げる夢主を無視し、どっとあふれてくるとろみを撫でつけながら擦り続けた。
「そ、そんなに、しないで……っ、あっ、だめ……もうっ」
 ぬるついた芽をもう一度なぞり上げると、夢主は身を硬くして絶頂に向かった。そこに達する寸前でDIOはスッと指を引く。上気した顔が切なく歪み、涙がこぼれ落ちる様を正面から眺めた。
「DIO……」
 咎めるような、物欲しそうな声がDIOの下腹部を刺激する。それをまだだと押し込めて、夢主の体を支えながら立ち上がった。
「これも舐めて綺麗にしてくれ」
 蜜にまみれた指を唇にあてがうと、夢主は恥ずかしそうにしながら小さく口を開いた。劣情を宿した舌は熱くDIOを誘惑するように動く。目を閉じて指を咥えるその姿もいつものつたない口淫を思い起こさせ、ぬかるんだ奥に埋め込みたい衝動を煽り立ててきた。
「……もういい」
 DIOは夢主の口から指を戻し、わずかに息を吐いて自身の欲望をなだめさせる。抱くのはまだだ。爆発してしまいそうなほどに高まらせてからの方がより楽しいし、快楽に身悶える夢主をもっと眺めていたいと思う。
「ふやけてしまったな……だが綺麗になった。褒美が欲しいか?」
 褒美という言葉に夢主の目が羞恥と期待できらめく。DIOはその揺れ動く様を楽しそうに見下ろし、相手の言葉を待った。
「ほ……ほしい」
「何が望みだ? 言ってみろ」
 乱されたスカートを元に戻したその上で、夢主は何度も手をもじもじと動かしている。視線をさまよわせた後、そっとDIOの上着の端を掴んできた。
「……キス……して」
 消え入りそうな声がDIOの胸を貫いて甘く焼き焦がした。いつもの長いキスが無いことが不安で寂しかったらしい。抱くのはまだと思ったそばから、DIOはすぐにでも押し倒したい衝動に駆られてしまう。痺れるほどに口付けながら、立たせたままで揺さぶる様を脳裏に思い描くと、もはや我慢は出来なかった。



「おっと! 二人ともここにいたのか……悪い、イイところを邪魔しちゃった? ところでDIO様、二階にビリヤードとポーカー台があるんだって? 最高じゃないか。使っていい?」
 不意にドアを開けて廊下に出てきたメローネは、顔を近づけあっていた二人に向けて勇敢にもそんな声を掛けた。DIOにジロリと睨まれた後、好きにしろという地を這うようなお言葉をもらう。
「アハハ、ごめんよ二人とも。俺ら二階に行くから続けていいよ」
 ……そう言われて続けると思うのだろうか。夢主は真っ赤な顔をDIOの上着の中に隠し、メローネからの楽しげな視線や上から落ちてくるDIOのため息に身を震わせた。
(もう帰りたい……)
 この屋敷でDIOの隣にいる事が今日ほど苦痛に感じることはない。いつもは察しのいいテレンスが二人きりにさせてくれるし、そうでなくてもDIOと居るだけで幸せだったのに今はまったく逆の気持ちだ。
「仕方ない……来い」
 そう言ってDIOは夢主の腰を抱き二階へ向かうよう促してくる。賑やかな仲間たちの声を背後に聞きながら、スカートの奥が見えやしないだろうかとひやひやした思いを抱えて階段を上がっていった。
「俺、ポーカーやりてぇ。なぁテレンス、あんたディーラーやってくれよ」
「構いませんよ。チップを用意するので少々お待ちを」
「チッ、まだベガス気分が抜けてねぇのか? 懲りないヤツ」
「ギアッチョだけには言われたくないな……ま、いいや。ホルマジオとイルーゾォ、それにソルベたちはどーする?」
 メローネはポーカー台に肘を突いて後ろの人を振り返った。
「おぅ、いいぜ」
「俺らも参加する」
 赤ら顔のホルマジオとソルベ、ジェラートは空いた椅子に腰掛け、懐から金を出してテレンスが用意した何枚かのチップと交換しにかかる。
「俺はパス。ビリヤードの方がいい。プロシュート、確か得意だったよな?」
「そこそこ、な……まぁ嫌いじゃあねぇ」
 イルーゾォとプロシュートは壁に立て掛けられていたキューを手にとった。ペッシは散らかっていたボールを集めて三角のラックの中に収めている。リーダーのリゾットは近くの椅子に腰を下ろし、プロシュートとイルーゾォのプレーを眺めることに決めたらしい。
 そのうちチップのジャラジャラという音やボールがあちこちに跳ね返る軽やかな音が部屋に響き始める。遊びに興じる彼らに背を向けた夢主は多くの書籍が詰め込まれた本棚を前にしつつ、ゆったりとした読書用のソファーに腰掛けた。小さなテーブルに並んでいた雑誌を胸に抱き、隣に腰を下ろしたDIOを恨めしそうにちらりと睨む。
「どうした? そんなに小さくなって」
 クスクスと笑うその美しい口元がどうにも憎たらしい。DIOの手によって厚手のエプロンをなくした夢主のブラウスはなめらかな生地に擦られて尖ってしまった小さな影が映っている。それを知っているDIOが揶揄してくるが夢主は見えないよう雑誌で胸を押さえ込んだ。
「本は読むためのものだ。枕ではないのだぞ」
 そう言ってDIOは夢主の腕から雑誌をスッと取り上げてしまった。すぐに隠そうとする相手の腕を遮り、指先で胸を下からすくい上げると硬くなっている頂を弾いた。ぴくんと小さく跳ね上がる様子をDIOは楽しそうに見下ろしてくる。
「……いつまでこんなことが続くの?」
 背後の仲間たちに聞こえないよう夢主は小さな声で不満をこぼした。
 しっとりと濡れた秘部を不快に感じながら夢主は少しも満たされない惨めな気持ちを味わっている。まさか明日の朝までこんな戯れが続くのだろうか、そう思うと泣きたくなってきた。
「苦しいか? では少し楽にしてやろう」
「えっ……あ、やだ……」
 発情した雌の匂いを放ちながらうっすらと頬を染めこぼれる吐息は淫らで甘い。もっと触れて欲しいと願うような潤んだ目に見つめられて、男が手を出さないでいられるだろうか。DIOは丸い肩を引き寄せて抱きそのまま腕を胸へと伸ばす。ブラウスの上から大きな手で包み込み、揉みほぐすように動かせば夢主は体を大きく震わせ、唇を強く噛んで声を漏らすまいとした。
「誰もこちらに気を掛けてはいない。安心するがいい」
 小さなリップ音と共に耳の奥へそんな言葉が囁き込まれてしまう。夢主はソファーの座面に爪を立て、鼓膜から脳へと響いてくる甘い刺激に耐えようとする。DIOの手は淡い色をした生地を揉み、浮かび上がる小さな突起を爪先でツンと弾き、指の腹でつまみ上げて優しく嬲っていく。
「ふ……っ……、ん、」
 DIOの胸に寄り掛かり、彼の服の裾をきつく握りしめながら夢主は必死で声を殺した。部屋の反対側ではポーカーに勝って喜ぶホルマジオの声やギアッチョの不機嫌そうな舌打ち、プロシュートとイルーゾォがキューでボールを突き、それぞれのポケットに落とす度にペッシが歓声を上げている。そんな彼らに気付かれたくない。人前で淫らな気分になっている事など絶対に知られたくなかった。
「DIO……やだ……お願い」
 胸を揉み、乳首をつまむ手を押さえてみるがDIOは妖しく笑うばかりで淫猥な行為を止めるどころかさらに深みを増してくるようだ。向かい合うように上半身の向きを少し変え、DIOは肩を抱いて胸に伸ばした腕とは逆の手を夢主のスカートに忍ばせてきた。ビクッと体を震わせる夢主の太腿をすぅっと撫で、もはや隠せないほどにじっとりと濡れたそこへ指を潜り込ませてきた。
「閉じるな。足を開け」
 きつく膝を合わせる夢主へDIOはそんな言葉を言い放つ。目を見開く相手の耳を甘噛みし、同じ言葉をそこへ注ぎ込んだ。
「何度も言わせるな……今日は私の言うことを何でも聞いてくれるのだろう?」
 DIOは夢主の目尻から落ちる涙を舌ですくい上げ、渋々と力を抜く足を褒めるように優しく撫でる。奥へ滑らせた指に蜜をたっぷりと絡めると感じていることを主張する小さな芽を擦り上げた。
「っ……、ぁ……!」
 強すぎる刺激に煽られて夢主はDIOの胸に顔を埋めて声を殺す。その震える背中を抱きながら、DIOの指は敏感な芯芽をくるくると撫で回した。少しずつ露わになるそこへ花唇からあふれた蜜を擦りつけ、いつもするように淫らな愛撫を繰り返す。時々、打ち震えて跳ね上がる腰と足をDIOは楽しそうに見下ろしながら指で突起を押さえ込み、周囲を丁寧に撫でて感じやすい先端を押しこねてやった。
「ひ……、ぅ……ん……っ」
 弾かれてつままれて、様々にもてあそばれるそこからじぃんとした痺れが体中に広がっていく。夢主はDIOの上着を強く握りしめ、逞しい胸に顔を押しつけながら抗えない甘い快楽の波に流されていくのを感じた。
「ぁ……、ん……」
 勝負に一喜一憂する仲間たちの楽しげな笑い声が淫らに霞む夢主の頭の中で響いている。同じ部屋の中でいやらしい気分になっている自分を恥じつつも、満たされない体の欲望はもはや理性では抑えきれなかった。
「DIO……、っ……!」
 身を震わせながら声を殺し、それでも小さな喘ぎを漏らしてしまう相手をDIOは愛しげに眺めた。あふれる蜜でたっぷりと濡れたそこはくちゅくちゅと小さな水音を響かせながらDIOの指に吸い付いてくる。誘い込まれるまま綻びきった花びらに長い指を差し入れ、ざらついた肉襞をゆっくりとかき分けていった。
「ぁ……だめ……っ」
 身を硬くして首を横に振る夢主に微笑みかけてDIOは探り当てた一点をぐりぐりと強く押しつぶす。
「……!」
 その瞬間、耐えに耐えていた絶頂が怒濤のように奥からこみ上げてきて、夢主は目眩がするほどの悦楽に体を大きく震わせた。奥歯を強く噛み、漏れそうになる悲鳴じみた喘ぎ声を必死に呑み込もうとする。声の代わりに次々と涙があふれて、DIOのシャツに吸い込まれていった。
「……達したようだな」
 指に感じる強い収縮感にDIOは満足そうに呟いた。ひくひくと淫らな動きをするそこは、指をしっかりと咥え込んで離さずそれでいて物足りなさそうに蜜をこぼしている。
「気持ちよかっただろう?」
 奥からあふれてくる愛液を絡めつつ花唇からずるりと引き抜いた指をDIOは見せつけるようにしながら舐めた。
「は……ぁん……」
 体中に広がる甘い痺れに切ない声を漏らし、力の抜けきった足を震わせながら恥ずかしそうに閉じた。チームの彼らが居る場所で、まさか絶頂を迎えてしまうなんて……夢主は背徳感と羞恥に全身を焦がしつつも、ようやく味わえた甘美なひとときにうっとりと目を閉じた。
「あーあ、負けちまった。くそぉ、ついてねぇぜ……DIO様、この酒飲んでいい?」
 ポーカー台から離れたメローネがふらりとバーのあるこちらへやってくる。一本のウォッカボトルを掲げながらソファーで夢主の肩を抱くDIOに向けて話しかけてきた。
「最初に言っただろう。好きにしろと」
「ディモールト・ベネ! 俺は太っ腹な上司を持てて幸せだよ」
「おいおい、一人で飲む気か? 俺にも寄こせ」
 後からやってきたホルマジオがメローネの頭を小突いて磨き抜かれたショットグラスを手に取った。
「ん? 夢主のヤツどうした? 珍しく恋人らしいことしてるじゃねぇか」
「ホントだ。いつも恥ずかしがってキスもしないくせに……あーあ、真っ赤になって。こりゃあ酔いつぶれてるな」
 DIOの胸へぴたりと寄り添う夢主の姿にホルマジオとメローネはそんなからかいの言葉を投げつける。
「おーい、リーダー。夢主ってば酔いつぶれちゃってるよ。どーする?」
「この馬鹿、どうするもねぇだろ。放っておけ。なぁ、DIO様」
 酒を呷るホルマジオに聞かれてDIOは苦笑を浮かべる。
「フフ……そうだな。起こすのも可哀想だ。私のベッドへ寝かせておこう」
 DIOは体を強張らせている夢主の髪を撫でると、額に向けて優しい口付けを落とした。



 両腕に夢主を抱え上げたDIOはテレンスが開けた寝室のドアを静かにくぐり抜ける。
「後は私にお任せ下さい」
 執事は淡い間接照明を一つ灯してから一礼し、扉を閉めて騒がしい客人たちが待つ遊戯室へ戻っていった。
 夢主の体を寝台に置くと彼女はすぐさま大きな枕を抱え込んでそこに顔を埋めてしまった。すすり泣く相手から靴を脱がしつつ少々やり過ぎたかとDIOは苦笑する。
「夢主……こちらを向け」
 優しく声を掛けても彼女は首を横に振るばかりだ。
「先ほどの褒美をまだ与えていないが……もう必要ないのか?」
 向けられた背中を指先でなぞり上げてDIOは耳元へそんな囁きを残した。今日ここに来てから体に触れることはあっても口付けは交わしていない。柔らかな唇を啄む心地よさを夢主以上にDIOが望んでいる。
「……意地悪」
「それは私にとって褒め言葉だ。さぁ、その酷い泣き顔を見せろ」
 DIOは枕を奪って相手の体の上に覆い被さると、両手で夢主の頬を包み込んで肌の上を伝い落ちていく涙を拭った。潤む目元に唇を押しつけ、切なそうに寄せられた眉の間にもキスを落とす。擦りすぎて赤くなった鼻の頭をかすめた後でようやく唇を触れ合わせた。
「ぁ……ん、……」
 待ち望んだ唇の感触に夢主は甘い声を漏らした。優しく押しつけられちゅっと軽く啄まれる。唇の形を舌先で二回なぞった後、するりと中へ潜り込んできた。褒美と言うだけあって労るような口付けは深さを増し、夢主の舌を舐めてねっとりと絡めてくる。あふれる唾液が重なり合う二人の唇からこぼれシーツの上へしたたり落ちていった。
「ん……あぁ、っ……」
 そのうち絡めていた舌は誘い出されDIOの口内へ招かれてしまった。吸血鬼が持つ鋭い牙を感じながら夢主は口付けが与える激しすぎない心地よさにうっとりと浸った。それまでの苦しみや恥ずかしさは溶け出して喉の奥へと消えていく。DIOの肩へそろそろと腕を回すときつく抱きしめ返されて、ようやく心が安堵を覚えた。
「あぁ……DIO……」
 とろけるような甘い声を耳にしたDIOは熱心に口付けながら再びスカートの中へ手を忍ばせる。めくれ上がったそこは熱く潤みきっていて、内股を濡らしながら男を待ちわびているようだった。
「フフ、すごいな。まるで漏らしたみたいだぞ」
 DIOに言葉で辱められて夢主は頬を染めた。内股を合わせるとぬるぬるとした体液がまとわりつき、空気に触れるとすぐに冷えてとても不快なことになっている。
「邪魔だな……脱げ」
 DIOはブラウスのボタンをなぞりながらそんな命令を下した。いつもはDIOの爪であっという間に裸にされているので夢主は自ら進んで脱いだことがない。躊躇いながらボタンに手を伸ばし、それでも気恥ずかしさから救いを求めてDIOを見上げてみる。
「切り裂かれるのは嫌なのだろう?」
 クスッと笑うその顔はとても意地悪だ。絡みつくような視線を避けるために夢主は横を向いて震える手でボタンを一つずつ外した。DIOはようやく露わになった腹部へ手を置いてゆっくりと時間を掛けて胸へと移動させる。
「……んっ」
 ぞわぞわとした刺激に堪えられず小さく喘いでしまう。DIOはそんな夢主の姿を見つめながら淡い色をした胸の先端に吸い付いた。
「……っ、あぁ……っ」
 何度も弄ばれて敏感になっているそこに暖かな舌が絡みつく。キスしたときに触れた犬歯で優しくしごかれた後、しつこい程に舐められてしまう。腰に重く響いてくる痺れに我慢が出来ず夢主はDIOの髪に指を絡めて背中を仰け反らせた。
「ふっ……やぁ……」
「いい声だな……次はこちらだ」
 DIOは胸を甘噛みしながらシワの寄ったスカートに夢主の手を導かせる。指の先まで快楽に染まった手でそっと留め具を外し、夢主は腰をわずかに上げてスカートを脱いだ。
「……DIOは?」
「私はこのままでいい」
 いつも半裸で過ごしているくせに今日に限って脱がないらしい。一人だけ裸に剥かれた夢主は心許なさと恥ずかしさで泣きそうになりながらシーツの上で体を小さく縮めた。
「足を抱えて広げろ。私によく見えるよう、大きく」
「そんな……それも命令なの?」
 恐々とDIOを見上げれば美しい顔を持った悪魔が微笑みかけてくる。
「違うと思うか?」
 足の付け根を汚すとろとろの愛液をかき混ぜてDIOは長い指を秘所に這わせてくる。先ほど指で達した花びらを撫でて狭い隘路へ押し込んできた。
「あっ……」
「これほど濡れているのだ。痛みはないだろう? さぁ、開いて私に全てを見せろ。でなければずっとこのままだぞ」
 埋め込んだ指を小さく動かしてざわめく内部の肉を刺激する。満たされない子宮の奥がずくんと疼いて羞恥に身悶える夢主の心を揺り動かした。
「……っ」
 明日の朝、思い出して絶対に後悔すると分かっていながら、快楽に乱された思考はDIOの言葉に従った先を求めている。夢主は震える両手で足を抱え、ゆっくりと左右に開いた。
「フフ、これに懲りたら、自分の言葉に責任を持つことだな……」
 淫らな姿をさらけ出す夢主を見下ろしてDIOはその光景を脳裏に焼き付ける。膣から引き抜いた指でベルトを外し、下着の奥で窮屈そうに押さえられていた己を取り出すと、真っ赤に頬を染めた相手へ見せつけるようにしながら濡れた花唇へ硬い切っ先をあてがった。
「はぁ……」
 物欲しそうに顔を淫らに歪ませる夢主の膝裏を抱え、ぐいっとことさら大きく左右に割り開かせる。今更ながら秘裂を隠そうとする手に肉茎を擦りつけDIOは妖しく笑った。
「フン、強情なやつだ……私を受け入れるのがそれほど嫌なら仕方がない」
「あっ……ちが……」
 恥ずかしさが堪えきれなかっただけで拒否したわけではなかった。誤解させたと焦る夢主の蜜口の上を硬茎がゆっくりと滑って小さな突起を擦り上げた。
「ふ……っ、あぁ……!」
「すごい濡れようだな……恥ずかしくはないのか? 大勢の前で淫らに達して、まだ奴らが隣に居るというのにこうして喘ぐとは……本当に聞こえてしまうぞ?」
 DIOの言葉に夢主は首を横に振って唇を強く噛み締める。シーツをきつく握りしめて震える相手にDIOはほくそ笑んだ。
「無駄なことを……」
 そうされればされるほど無理矢理にでも喘がせたくなるではないか。DIOは愚かで可愛い夢主の唇を奪い、舌を潜り込ませながら綻びきった花唇に己の肉茎を擦りつける。
「ん、うぅ……! あぁっ……いや、声が……」
「聞かせてやれ。あいつらなら喜んで耳をそばだてるだろう」
「そんな……やだぁ……っ、んん……」
 切なく泣き濡れる秘部の表面を灼熱の楔がなぞり上げる度に、夢主の息は乱されて甘ったるい声が漏れてしまう。そうでなくてもDIOの舌が深く潜り込んで快楽を喉の奥から引きずり出されるようだ。
「いやらしい顔だな……腰が揺らいでいるぞ。いつものように早く素直になれ」
 ニヤニヤと笑いながら少しだけ先端を花びらに埋め込んでみせる。甘い吐息をこぼしながら身を震わせ、涙を流す相手にDIOの腰が疼いた。
「あぁ……DIO、もう……っ」
 とろけた膣奥が切なく動いて欲しがっているのが自分でもよく分かる。膨れ上がった劣情は今にも弾けてしまいそうだ。もはや堪えきれず、限界だと夢主が腰を揺らして求めてもDIOはそれをついっとかわして身を離した。
「どこに何が欲しい?」
 舌なめずりを見せる相手に夢主は泣きたい気分になってきた。
「い、いわなきゃ……だめ?」
「夢主……もう分かっているだろう? さぁ、その口で私を求めろ。私をここで果てさせてくれ」
 足を開かせたその先でDIOは軽く腰を動かして花びらの入り口に陰茎の先でキスをする。びくんと跳ね上がる脚を撫でながら淫らな言葉を待った。
「ぅ……あの……、」
 何度も躊躇い、逡巡して、身に抱えた欲望に心が負けるその姿をDIOはうっとりと見下ろした。
「ここに……DIOが欲しい……」
 夢主は指でそっと媚肉を割り開きながら短い言葉をようやく口にした。
「……それだけか?」
 あまりに控えめすぎる淫語にDIOは苦笑する。それでも一大決心をして頑張った方なのだろう。まだまだ色々と教え込む余地は残されているようだ。
「好きな人に愛して欲しい……それだけじゃだめ?」
 真っ赤になって涙を潤ませる夢主にDIOはしばらく目を瞬かせて惚けてしまった。次第にゆっくりと甘い思いが胸から迫り上がってきてDIOの体と心を優しく包み込んでいく。
 熱い吐息を夢主の胸にこぼしてDIOは困ったように微笑む。淫らに誘い込んで快楽の闇に堕としたいと思っても、いつの間にか落ちているのは自分の方だ。
「まったく、お前というやつは……」
 DIOは激しく唇を奪いそのままの勢いで濡れた蜜口へ己を埋め込む。狭くぬかるんだそこを押し広げながら腰を進めると、夢主は身を大きく震わせて早くも絶頂に向かったようだ。
「ん……、ああぁ……っ!」
 艶めいた喘ぎが喉の奥からあふれ二人の間で密やかに響いて消えた。貫かれたところから途方もない快感が生まれて夢主の体を駆け巡り、脳の奥を熱く痺れさせてしまう。全ての感覚をさらわれてDIOの腕に縋っていた手から力が抜け落ちた。溶けた砂糖に身を浸すような気怠い感覚がまとわりついてくる。
「随分と我慢させていたようだな」
 甘ったるい息を吐いてとろけきった顔をする相手に苦笑をこぼし、DIOは上下する胸に唇を落とした。きつく締め付けて収縮を繰り返すそこにぬちゃぬちゃと淫らな音を立てながら顔を覗き込む。
「あっ、ん……だって……DIOが……」
 様々な場所でいやらしい悪戯を受け続けていたのだ。DIOの指によって感度を高められた体はようやく満たされた悦びに今も喘いでいる。
「私ではなく、お前が悪いのだ」
 ずっと触れていたいと思う柔らかな体に心地よい香り、そして何よりも苛めてからかいたくなる真っ直ぐな心が悪い。DIOは相手の首筋に顔を埋め何度も啄むように肌へ口付ける。
「はぁ……んぅ……」
 耳元で夢主が切なく喘いで未だ熱い欲を宿した腰を揺らすのを感じ取った。
 DIOは広げた足の間へ緩やかに腰を打ち付けて、悦びにうねっている肉襞を突き上げてやった。二人の体液が混じり合ってぐちゃぐちゃとひどい水音が響いている。繋がりあうところに視線を落とすと夢主の奥からあふれ出た蜜でDIOの衣服はしっとりと濡れ汚れていた。
「あぁ……どうしよう……すごく、いい……」
 押し寄せてくる快楽に抗えず夢主は涙をこぼしてDIOの胸に縋り付く。いつもの逞しい胸板を求めて上着に手を差し入れ、仕立てのいいシャツに額をすり寄せた。
「夢主……」
 緩やかに動かしていた腰の動きを早め、奥深くまで一息に擦り上げる。勢いよく押し出された蜜が夢主の秘部から白いシーツにぱたぱたと伝い落ちた。
「ああぁ……あっ、はぁ……っ」
 快楽に背中を仰け反らせる夢主を抱きしめDIOは容赦のない抽挿を繰り返す。赤く熟れた媚肉の奥で、硬く屹立した雄を咥え込む花唇が淫らに震えている。DIOはそれらを舌なめずりしながら眺めて、むき出しにされた秘芽を指先で優しくつまみ上げた。
「っ! ああ、だめっ……!」
 感じすぎて辛いのだろう。首を振って嫌がる夢主の姿に煽られながらDIOは深く腰を打ち付ける。奥から溢れてしたたり落ちる愛液に肉茎を絡め、締め付けてくる蜜路の甘美さに思わずごくりと喉を鳴らした。
「んん……、DIO、はぁ……」
 吸血してくれと、自ら誘うように仰け反る首筋へDIOは牙を立てる。子宮に響く最奥と充血した芽、それから敏感な首筋を同時に責められて夢主の体は堪えがたい快楽にゾクゾクと打ち震えた。
「ひ……ぅ、」
 もはや喘ぎ声も出せないまま唇を震わせて絶頂に向かった。
「素晴らしい……実に……」
 離すまいと締め付けてくる肉襞にそんな感想を述べたDIOは、悦楽に痺れきった夢主の体の奥深くにたっぷりと白い精を放った。



 先ほどから暖かな水がゆらゆらと揺れて夢主の体を包み込んでくる。重い目蓋を押し上げると金色に輝くシャワーヘッドが湯船に浮かんでいるのが見えた。
 いつの間にお風呂に? そう思って夢主が身動ぐと、腰に回った腕が抱きすくめてきた。
「起きたか?」
 耳元で声がして振り返れば髪を濡らした裸のDIOと目が合った。
「気絶するほどに良かったらしいな」
 あれからさらに二度も体を重ね合わせた結果、夢主は途中で意識を飛ばしてベッドに沈み込んでしまったようだ。クスッと笑われると途端に恥ずかしさがこみ上げてくる。
「いい具合だったぞ」
 DIOはそう言って笑うと、背中を丸めて逃げようとする相手を引き寄せて自身の腹へぴたりと寄り添わせた。顔を隠す左手を取り上げると噛んで傷を付けた薬指に舌を伸ばし、再び牙を立てようとする。その行為に怯えを見せた夢主は背後を振り返って相手の端正な顔をそろそろと見上げて問いかけた。
「DIO……まだ怒ってる? ジョルノとは本当に何も……」
「分かっている。何も無かったのだろう? もしこの体に触れていたら……その時はたとえ息子でも八つ裂きにしてくれる」
 血のように赤い目がぎらぎらと光を放ち夢主の竦み上がる心を射貫いてくる。
「何度も言っているだろう。お前は私のものだと……ジョルノはもちろん、忌まわしいジョースター家になど身を寄せるな」
 そもそもジョルノと何かあったなどDIOは思ってもいなかった。彼女には己しか見えていないことは確かだし、ジョルノも女に飢えるほどの生活を送っているはずがない。必ず帰ってくるのならどこに遊びに行こうとも構わない。だが……ジョースター家だけは駄目だ。決して相容れることのない一族に身を置き、DIOの手が届かないそちら側に染まることだけはどうしても許すことが出来ない。
「私の側にいることを許しているのはお前だけだというのに……」
 夢主の魂を求めるDIOの周りは以前とは比べものにならないほど潔白だ。勘違いさせそうな輩はすべて切り捨てたし、広い屋敷の管理を執事ただ一人に任せ、どれほど忙しくてもメイドを雇うことはない。
「誰にも心を許すな。何も残さずどこかへ行くな。何があっても必ず私のところに戻ってくると、そう誓え」
 鋭い視線が恐ろしいのに夢主の胸は暖かいものであふれてしまう。好きな相手から冷たい口調で放たれた言葉は、私だけを愛して孤独にさせるな、そんな風に聞こえたからだ。
「でなければお前の大切なものを一つずつ壊してしまいそうになる」
 力で奪うことしか知らないDIOの引き止め方は脅迫そのものだった。
「それなら……DIOはどうやって自分を壊すつもりなの?」
 夢主は小さく笑ってうっすらと血が滲む左手をDIOの指と絡めた。
「心配かけてごめんなさい……でもどこで誰と居ようと、DIOのことしか考えてないよ」
 愛してるから。小さな声でそう呟くとようやくDIOの額に寄った眉が解かれた。あまりに言葉や態度で示さないのでそれが不満だったのだろうか。
 照れ隠しなのか何なのか、DIOは夢主の肩に顔を押しつけて、お湯で濡れた肌を甘噛みしてくる。
「フン……いいだろう。ひとまずアメリカでのことは許してやろう。だが次は無いぞ……私以外と夜を共にするなど許さぬ。ジョースター家とも縁を切れ。いいな」
「……手紙やメールも駄目なの?」
「駄目だ」
「そんな……」
 DIOの厳しい言葉に夢主は悲しくなってくる。ジョルノは手綱を握れと言うが、これほど尊大でワガママな相手にどうすればそれが可能になるか教えて欲しいくらいだ。せめて年に数回くらいは連絡を取ることを許可して欲しい。徐倫や静の成長を遠くからでも見守りたいと思う。
 そうして悩んで考えた末に夢主はDIOと絡めた手をぎゅっと握りしめた。
「お願い、DIO……もう一度だけ何でも言うことを聞くから……それくらいは許して?」
 可愛いおねだりを口にしながらこちらの顔を窺う様子に、吸い付いてくる最奥で果てたDIOの腰がざわめき立つ。
「まったく……余計な言葉を覚えたものだな。チッ……手紙だけだぞ……」
「本当? ありがとう!」
 許しが出て喜ぶ声がバスルームに反響する。
 そんな夢主をきつく抱きしめたDIOは小さなため息を相手の背中に落とした。実に喜ばしいおねだりだが、ジョースター家のためというのがいまいち気にくわない。それでも恋人に甘いことを自覚している彼は、嬉しそうな夢主の首筋にキスをしてひとまず溜飲を下げることにした。

 終




- ナノ -