06


 ジョースター夫人お手製の家庭料理とTボーンステーキがダイニングのテーブルに並ぶ中、観光を終えた護衛チームを呼んだジョースター家はまた一段と賑やかな夜を迎えた。
 花京院と承太郎、それに徐倫、外から帰ってきたジョルノと夢主が加わった盛大なサプライズパーティはきっと全員の記憶に残っただろう。
「うー……もう飲めねぇ……」
「気持ち悪ぃ……」
 生まれ故郷のイタリアへ向かう機内で袋を手にしたミスタとナランチャは朝からずっとこの調子だ。ジョセフに飲まされ続けたブチャラティもソファーに腰掛けて痛む頭を押さえている。
「何だ、お前たち……だらしがないぞ。たかが二日酔いくらいで!」
 と元気に叫ぶポルナレフだが、いくら酒を飲もうと酔うことのない魂の状態だから言えることだ。
「確かに飲み過ぎですよ、ブチャラティ。これ頭痛薬です」
 唯一、量を制限していたフーゴはてきぱきと動いてブチャラティを介抱する。アバッキオが無言で薬と水を要求してくるので仕方なく彼にも薬を分けてやった。
「まったく……無事なのは僕とジョルノだけじゃないですか……」
 フーゴは呆れ顔で周囲を見渡し、一人離れたところでのんびりと紅茶を傾けているジョルノに視線を向けた。
「僕はまだ未成年ですからね」
 その言葉を武器にジョルノは酒を断り続けていた。承太郎と今後について詳しく語る必要があったのでそれも考慮してのことだ。
「お前たちが本物の恋人だろうと、偽物だろうと別にいい。ジョースター家はすでにお前を迎え入れているからな。そしてナポリでの財団の活動を見逃してくれる代わりに、俺たちも組織に協力する。ただし……悪事の片棒は担がねぇぜ。そこだけはお互いハッキリとしておこう」
 騒がしいダイニングから離れ、夜が訪れたテラスでの会話だ。ジョルノは彼の言葉に頷き、改めて握手を交わした。
「それからあいつには悪いとは思うが……これもお互い様だ。彼女をよろしく頼む」
 知らないところで勝手に決められた事に彼女は怒るかもしない。本人が財団の動向に気付かず何も知らないことだけが幸いだろう。
「任せて下さい」
 ジョルノはふふっと笑って、静を抱き上げ徐倫と楽しそうにお喋りをする夢主を窓の向こうから眺めた……
「花京院や承太郎、ジョースターさんにも会うことが出来ていい旅だったな」
 ポルナレフが感慨深げに呟きながらこちらを見上げてくる。彼は彼でジョセフや花京院たちと長くお喋りが出来て楽しかったのだろう。ジョルノはそうですね、と答えて空になったカップをテーブルに戻した。
「そう言えば……夢主はどこに行った?」
「彼女なら寝室ですよ。落ち着いたら出てくるでしょう。案外、泣き疲れて眠っているかもしれませんね」
 ジョースター邸を後にする今朝、それぞれから別れのキスとハグを受けた途端、堪えていた涙が我慢しきれなかったらしい。寂しくなるわと涙を拭うスージーと徐倫、もらい泣きをするローゼス、どうしてみんなが泣いているのか分からない静、最後に駆け寄ってきたイギーを抱きしめて夢主はむせび泣きながら楽しい二年を過ごしたジョースター家を去った。
 その彼女は車内では鼻水をすすり上げる音を響かせ、機内に乗り込むと涙でぐしゃぐしゃの顔を恥ずかしそうに隠し、逃げ込むようにして寝室へ去ってしまった。
 一方は大粒の涙、もう一方はうめき声と嘔吐を響かせながら豪華な飛行機は空を飛んでイタリアへ戻っていく。
「……確かにいい旅でした」
 暖かく迎え入れてくれたジョースター家の人々、承太郎の率直な物の言い方、組織が手に入れた情報の数々、それから夢主と共にマンハッタンを巡った観光地……ジョルノはソファーに身を預け、窓の外に流れゆく白い雲とどこまでも青い空を美しい笑みを浮かべて見送った。

 終




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