>>2017/10/22

「あっ。アンプだ! おいでおいで〜!」

斉木くんのお家に遊びに来ると、だいたい半分くらいはこのトラ模様の猫に会える。スカーフをつけているからどこかの家の飼い猫なのかもしれない。斉木くんは多分そうだからエサはあげなくていい、構わなくていい、目も合わせなくていいって言ってたけど、見かけるとつい声をかけてしまう。大抵は鼻を鳴らしてどっか行かれちゃうけど……。

「わっ……」

き、今日は逃げないぞ!すごい、撫でていいかな……おでこをちょっとだけ……わー! フカっとしててモフっとしてて、かわいい……!

「あ、プシー……あっ」

灰色にハートに見える模様の猫がやってきた途端、アンプはわたしの手をサッと逃れて行ってしまう。アンプの好きな人……好きな猫の、プシーだ。にゃんにゃん言いながら二匹とも行ってしまった。
…………いつも、ちょっとだけ寂しくなる。別に動物に嫌われやすいってわけじゃないけど、好かれやすいってわけでもないんだなあ。



「あれ?」

また斉木くん家の前で猫を見つけた。でも今回はアンプでもプシーでもなく、見たことのない白い猫だった。
変わったサングラス? みたいなのをかけている。なにか目の病気なのかな。
やーでも白い……かわいい……。首輪してるってことはどこかの家猫かな。慣れてるなら触らせてくれたりするかな……。
怖がらせないようにしゃがんで手を出して、精一杯の優しい声で「おいで〜……」と言うと、のしのしあるいて近づいてくる……! うおー! ひいやー! アンプちゃんにはこんなに素直にこられたことなくておろおろしてしまう。でもここで変な動きしたら絶対逃げられる!
わたしのすぐ横まで来て微動だにしない白猫の額を、人差し指でそっと撫でる。本当にぴくりとも動かない。か、かわいい。美人な猫だなあ……。

「あらー名前ちゃん! どうしたのそんなところで?」

顎を撫でるとすこし顔を上にあげる。夢中で撫でたくっていると、お家から斉木くんのお母さんが出て来た! そうだ、わたしは斉木くんに会いに来たんだ。

「くーちゃんならさっき出かけちゃったわよー。もう、女の子を待たせるなんて……。よかったら家の中で待ってる?」
「い、いえ、それは悪いので……あ、猫ちゃん!」

わたしが返事をする前に、白猫が家の中に入って行ってしまった。お母さんはあらあらとそれを見送って、「私はちょっと出かけちゃうけど、ゆっくりしていってね〜」と歩いて行ってしまった。
い、いいんですかそれで!? 息子さんの友達とはいえ他人を家に上げて留守にしちゃって!?
とりあえずわたしが出るならあの猫も一緒に外に出さなきゃいけないし、玄関に入ってドアに鍵をかける。さっき出かけたらしい斉木くんやお母さんが帰って来たらどうしようかと思ったけど、その時はわたしが開ければいい……よね、うん!

「猫ちゃーん……」

リビング、お風呂場、階段……解放されているところはぜんぶ覗いたけどいない。ってことは二階の、「くすおの部屋」と書かれたプレートのかかった部屋。ドアがちょっぴり開いている。

「……お邪魔しまあす」

あ、いた!
斉木くんのベッドの上、お座りしてわたしを見上げている。かわいい。
でもなんていうか、部屋の主の風格があるなあ。もしかしたら斉木くんのうちで飼い始めた猫なのかな? お母さんもかなりあっさり通したし……あ、そういう性格なんだっけ……?
でももし斉木くん家の猫なら、外には出さない方がいいのかもしれない。斉木くんが帰って来てから聞けばいっか。

「おーい、ここじゃなくてリビングで待とうよ」

流石にずっとここにはいづらい。こ、個人のパーソナルスペースっていうか……見られたくないものとか、見つけちゃったらまずいし……。斉木くんも他人にいてほしくないだろうし。
抱っこで連れて行こうと思ったら、するりと枕の方まで逃げられてしまった。あ、き、嫌われたかな。
様子を伺いながらベッドに腰掛けて、今度は遠くから手だけ伸ばす。触らせてくれた! わかったよ、斉木くんが帰って来たらわたしが謝るから〜と唱えながら頭から背中までを手のひらで往復する。わあ、知らない猫にこんなに撫でさせてもらえたの初めて……。表情はずっと涼しげだけど、意外と人好きする子なのかな?

「んふふ……かわいいねえ」

近づくためにゆっくり横になると、枕を半分空けてくれた。わあ、ありがとうございますぅ〜なんてふざけながら寝転がる。あ、これ、斉木くんのにおいだ。男の子ってこんなにおいなんだ……。
重力でのけられた前髪から出たおでこをぺろんと舐められた。……な、舐められた。ザラザラして、すごい、舐められた!

「やーもう、くすぐったい〜」

ああ……自分でもわかる、この猫にデレデレになっているのが……! 斉木くん早く帰ってこないかなあ! ふふふ、斉木くんもわたしみたいに骨抜きにされちゃったら面白そうだな。
猫ちゃんが動いて、わたしの首元の隙間に丁度ぴったりはまる形で入って来た。い、今までこんなに密着されたことないぞ! なんだろ、わたしと相性いいとかかな、う、嬉しい。

「猫ちゃん」

頭を尻尾で撫でられながら、わたしも猫ちゃんの頭や背中をゆっくり撫でる。そうだ、わたしこの子の名前を知らないんだ。斉木くんなら知ってるかな。もし誰も知らないなら、勝手に名前つけて呼んじゃおうかな。

「くーちゃん」

って、それは流石にダメか。どこかの飼い猫だろうし、もう名前はあるだろう。ここまでさせてくれたのは初めてだから調子に乗ったかも。
斉木くん、まだかな。一緒に撫でてあげてほしいなあ……。





「ん〜……」

なんとなく意識が戻る。布団の中だ。あれ、わたし今日、どうやって帰って何時に寝たんだっけ。
……あらゆる違和感にそこで気づいた。

「あっ!」

寝ちゃった!!
慌てて上半身を起こすと、斉木くんのベッドで寝た不届き者には掛け布団が。
そして横を見ると、椅子に座って体をこっちに向けたまま本を読む、斉木くんが……。

「……」

とりあえずベッドの上で土下座しようと思ったら片手を上げて止められた。正座のままどう謝ろうか考えていたら、待たせたことを謝られた。

「あ、ううん、わたしこそ勝手に上がり込んじゃって、しかも寝ちゃって、ごめんね……」

お風呂にも入らないまま、靴下のまま布団に入り込んじゃったしなあ。シーツの弁償とか、す……するべき? あ! 待って、猫いなくなってる!
わたわたしていたら斉木くんが、あの猫は近所の飼い猫だということ、名前はサイで、多分しばらくは来ないだろうと教えてくれた。斉木くんは何でも知っててすごいなあ。

「ん? しばらく来ないって、なんで?」

多分次は耐えられないだろうからだと斉木くんは言う。どういうことだろう。

「そうそう、ちゃんと借りて来たよDVD!」

斉木くんの足元に転がっているわたしのカバンから、今日レンタルしてきたDVDを取り出して斉木くんに渡す。おっ、ちょっと嬉しそう。じゃあわたしは帰るね、ごめんね、と今度はちゃんとお辞儀してドアノブをひねると、次は近いうちに、と後ろから言われて振り向いてしまった。

「えっと……お、怒ってない?」

本を机に置きながら、斉木くんが頷く。

「……わたしも一緒に観ていい?」

わたしの目を見て頷く。

「……うん! またすぐ来るね。ネタバレはナシで!」

よかったー! 嫌われるのは悲しいもんね! 誤解されやすいけど斉木くんは結構優しい。これが窪谷須くんだったら殺されてたかもしんないね! ハハハ! 笑い事じゃねえ!
玄関まで見送ってくれた斉木くんの後ろで、お父さんお母さんがチラチラ覗いているのが見える。挨拶しようと思ったらまた手で止められた。もう外も真っ暗だし、さっさと出て行ったほうがいいね。おやすみ、と言ったらおやすみと返された。友達におやすみを言うなんて修学旅行を思い出すなあ。

斉木家に背を向けて歩き出せば、扉の閉まる音が聞こえた。ふわあ。さっきまで寝てたのにまだ眠いんかい。まだ布団のあったかさが残ってぽわぽわしている。
……ん。

「そうだ、掛け布団、ありがとうね」

わたしが猫ちゃん……サイのふかふかで寝ちゃったときは何にも掛けてなかったはずだ。
なんとなく斉木くんがいる気がして、首だけ横を向けて言った。斉木くんは、結構心配性。
これでもし斉木くんがいなかったらただの独り言になっちゃうから、家に帰ってからメールもしてみた。返事がこないってことは多分斉木くんはあそこにいたんだろう。よかった!






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