>>2015/12/02
「こんにちは〜、苗字名前さん!いつもトド松がお世話になってますぅ」
トド松くんとデートの待ち合わせ場所に着いて数分、待ち人は来た。にこにこと、いや、にやにやと嫌な笑みを浮かべた、彼と同じ顔の男性を三人も連れて。
「おお〜!スマホで見たちっちゃい写真よりカワイイじゃん!」
「ち、ちょっと、もう気が済んだでしょ」
「バカ言うんじゃないよトド松。僕らはお前が彼女さんに嘘ついてないか心配で来たんだよ」
「善意百パーセント……」
「悪意の間違いでしょ……」
彼に五人のお兄さんがいることは聞いていたし、六つ子だということも知っていたけれど、会うのは初めてでびっくりしてしまった。それぞれ赤、緑、紫のパーカーを着たお兄さん(仮)方は、中心で小さくなっているトド松くんを囲んで、ついとわたしに視線を向けた。
「名前さん。トド松のこと、どれくらい知ってる?」
「お、おそ松兄さ……」
「どれくらい……とは?」
お兄さんがたの名前ははっきりとは覚えていないけれど、どの名前にも松がついていたことは覚えている。トド松くんの家族で間違いないらしい。(仮)は外そう。
トド松くんに挨拶をするより前に、赤いパーカーのおそ松お兄さんが舐めまわす様にわたしを見つめる。正直、ちょっと気持ち悪い。
「コイツ無職だよ」
「え?……あ、はい、知ってます」
「え!?えっと……お、俺達も無職だよ!」
「あ、それは初耳です……」
「やめろバカ!恥さらしてどうする!……すみませんね名前さん」
「いえ……」
「……あと、こいつ。この歳で夜中にトイレ行けなくて、いっつもこの人を起こしてついてきてもらってますよ」
この人、と紫の人が緑の人を指さした時、赤くなったり青くなったりしていたトド松くんの顔が、今ムンクの叫びみたいになった。
「そうなんですか」
「え!?反応薄っ!これも知ってた!?」
「いえ、初めて知りました」
「……名前ちゃぁん……」
「……引かないの?」
「はい。えっと、一松さん。わたしはトド松くんとお付き合いさせて頂いてます、苗字名前です」
と頭を下げて気付いたけど、そうだこの人たちもうわたしの名前なんて知ってるし彼女だってこともとっくに知ってるんだ。いかん。わたしも結構テンパってるっぽいぞ。
「名前知ってるの……?」
「はい。トド松くんから聞いています。えっと、そちらのお兄さんはチョロ松さんでしたよね?」
「エッ!?はっ!はい!」
トド松くんのスマホで見せてもらった画像の記憶を頼りに思い出す。名前を間違えてないか不安だったけどあっていて良かった。面白い名前だと思ってたんだ。
「それと、おそ松さん。わざわざありがとうございます。でもわたし、そういうところも含めてトド松くんのことが好きです」
「えっ、わ、や、名前ちゃん……!」
「ええっ?で、でもほら、トド松って自撮りとかしまくるし」
「わたしもたまに一緒に写ってます」
「男なのに風呂入る時胸隠すしむだ毛処理とかするし」
「それは男女関係なく個人の自由だと思います……」
「肝心なとこでやたら冷たかったりするし!!」
「気を遣いすぎず付き合うことができていいことだと思います」
「…………マジかよ……」
本心だ。口元に手を当てたトド松くんが目をうるうるさせながら頬を紅潮させて見つめてくる。「ほら!こういうとこあるし!!」とチョロ松さんが指さすけれど、そんなあざといところも含めて、
「わたし、トド松くんが好きです。……わたしじゃダメでしょうか?」
「ダメじゃないよ!ダメなわけないよーっ!!」
わーっ!と三人を振り切ってわたしに駆け寄ってきたトド松くんを、彼らは唖然と見つめた後、わたしたちに背中を向けてひそひそ話を始める。
「おい、おいおい予想外だぞ!」
「ぼ、僕も知らなかったよ、まさかあんなに……」
「……女は強し……」
「ま、丸聞こえなんですけど……」
「いいよっあんなの構わなくてさ!こないだ言ってたジュース屋さん行こうよ!もー何でも付き合っちゃう!」
「え、ホント?でもお金あるの?」
「こないだ料理屋でバイトした分入ってるんだ。一瞬でクビになったけど」
「ええ〜……大事にしなよぉ」
「今名前ちゃんと楽しく遊ぶこと以上に大事なことなんてないの!いいの!」
さっと腕を組んで、わたしたちもお兄さん達に背を向ける。あのままほっといていいの?と首だけ回して後ろを向くと、彼らも顔だけこちらに向けて、目が合うと気まずそうに手を振ってくれた。トド松くんと組んでいる反対側の腕を振る。
「楽しそうなお兄さん達だね」
「あれを見てそう言える、そんなところも好きだよ」
……照れるなぁ。