承太郎が立ちあがった瞬間視界が一気に高くなって慌ててまわした腕に力を込める。た、た、高い!申し訳なさや恥ずかしい気持ちなんて思わず吹っ飛んでしまう高さだ。普段DIOに抱き上げられてもここまで高いと思った事はないのに、承太郎の背中から見る世界は妙に高く、広く見えた。
「おい、苦しいだろ」
「あ、ごめん!」
腕の力を緩めると承太郎が歩きだす。連動するように揺れる視界に再度しがみついてしまったのは仕方ないと思いたい。
「安心しろ、落としゃしねえよ」
「う、うん…」
それでも怖いものは怖くて、思わず承太郎の首筋に顔を埋めた。…詰襟に鼻をぶつけて地味に痛い。ちょっと涙目になりながらぼんやりと昔を思い出す。こうしておんぶされたのなんて何時振りだろうか。イタリアに行ったばかりの頃はおじいちゃんがちょくちょくおぶってくれてた気もする。しかしそれなりに高齢だったし、遠慮してた様な覚えもあった。ああ、でもディアボロにはちょくちょくやってもらってた気がするな。おぶってもらったまま走らせたり、結構酷な事やらせてた気がする。
「おい」
「んー?」
「起きてたか」
「この状況では寝ませんよお兄さん…」
「急に静かになったからな。よくおぶられたまま寝てるガキが居るだろ」
「そこまでガキじゃないし!あ、てか重くない?大丈夫?」
「今更だな。別にお前一人ぐらい乗せてても乗せてなくても変わらねーぜ」
「力強いお言葉ありがとう。…承太郎」
「ん?」
「迷惑掛けてごめんね。後ありがと。承太郎が通りかかってくれて本当に助かったよ」
「…次からは無茶すんなよ」
「うーん…。出来る限り頑張りマス」
「…信用ならねーな」
呆れたようにため息をつく承太郎にまた顔を埋めてスルーしておく。あ、今回は鼻ぶつけなかったよ!鼻をいい香りが擽る。いい匂いの美形男子高校生ってなんて高スペック、なんて少々馬鹿な事を考えてしまった。これ以上顔を埋めているとにやけ面になってしまいそうなので横を見れば、上の方に一番星が輝いていた。それを見てふと承太郎の首筋にあると言う痣を見てみようという気になった。だってこんなチャンス滅多にないし!
「なにしてんだ」
「…首筋覗いてる?」
「…落とすぞ」
「やめて!お尻が割れちゃう!」
「元から割れてんだろ…」
冷静に突っ込みを返す承太郎にしぶしぶ見るのを諦める。…まあ湯上りでタンクトップ一枚とか、そんな時もあるだろうしその時まで待とう。
「なあ」
「なにー?」
「…本当にあんま無茶すんな。おふくろが心配するぜ」
「…承太郎はしてくれないの?」
顔が見えてたら恥ずかしくて言えないが、今は後頭部しか見えない。ちょっと位悪乗りしてもいいだろう。どうせ無視されるのが関の山だし。…そう、思っていたのだが。おれもしてるに決まってるだろ、なんて言うものだから蚊の鳴く様な声でありがとう、と言うしかなかった。
君の言葉は魔法
たった一言でこんなにも嬉しくなれるなんて!
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