33333hit小説 | ナノ
木枯らしの吹く中、公園のベンチに座り身を縮こまらせる。日が落ちていくのを眺めながら早く帰らないとホリィママが心配するだろうな、と思いつつも腰を上げる気にならない。小さくため息をつきながら足元を見降ろす。視界に入った脱ぎ捨てられたスニーカーと腫れあがった足首を見ながら今度は深々とため息をつくのだった。


散歩がてら公園に来てのんびり読書をし始めたのは良かった。少々肌寒かったが日差しのおかげで少し経てば心地よい暖かさを感じられたし。
いい気分で本を読み始めて数十分。本の世界に没頭していた私を現実に引き戻したのは子ども達の騒ぐ声だった。

本から顔を上げて周りを見渡すと、少し離れた所で数人の子供が半泣きになりながら木の上を見上げていた。視線を上げれば、木の枝の上に子猫がしがみ付いている。どうやら登って降りられなくなったらしい。一人も子供が助けに行こうとするが上手く登れないようだ。まあ、まだ小学校に上がったばかりにしか見えない子に剪定された木を登るのは難しいだろう。本を閉じてベンチから立ちあがって子どもたちに近づいて行く。
さて、どうするべきか。ただ子猫が降りられないだけならスタンドで降ろしてもいいが、周りに子どもが居る以上そうはいかない。まあ、あの年頃なら奇妙なことが起こっても気にしないか、大人に言っても勘違いで済まされるとは思うが…。
少し迷ったが木を眺めてなんとかいけるだろう、という結論に達した。


「ちょっと退いてくれるかな?」


木の周りに居る子供達にそう声を掛けるとキョトンとした顔に見つめられる。それに構わず木の枝に手を伸ばしてみれば一番下の枝に手が届いた。何度か引っ張るが折れそうな雰囲気はない。足がかりになる瘤もあるしこれならなんとかなるでしょ。よし、と意気込んで木に足を掛けると一人の子供が、助けてくれるの?と小さく呟く。それに下手糞なウィンクを返して地面を蹴った。
木登りをするのは久しぶりなので上手く出来るか不安だったが案外身体が覚えているもので。するすると登って子猫の側まで辿りつく。子猫に手を伸ばすが警戒して近づいて来ない。これは捕まえるしかないか…。子猫の居る枝まで登って再度手を伸ばすと子猫は毛を逆立てながら後退した。つまり―枝の細い方へと。ふらりと揺れた子猫に子どもたちが悲鳴を上げる。しかしなんとか落ちずに済んだ。子猫は後退することもこちらに来る事も出来ずに威嚇するように歯を向くことしかできない。
落ちなかったことにホッとしながらどうしようか頭を悩ませる。近づけば今度こそ落ちかねないし、慣れるまで待つとしてもどれだけ時間がかかるのだろうか。やはりスタンドを使うしかないか、ため息をつきたくなったその時強い風が吹いた。足場の悪い所に居た軽い子猫はバランスを崩し、真っ逆さまに―。
慌てて身を乗り出してなんとか捕まえる。手の中の温かな存在に安心したのもつかの間。ミシリっと嫌な音がする。…良く考えなくても、不味いぞこの状況。体勢を立て直そうとする前にバキっと音を立てて枝が折れた。

全身に鈍い痛みが走るのを感じながら腕の中を見れば、先程あんなに警戒してたくせに今は心配そうな顔をしている子猫に脱力する。…下敷きとかにしなくて良かった。上半身を起こしながら周りを見ると子どもたちが心配そうな顔をしている。あらら、泣いちゃってる子もいるよ。
落下に巻き込まなくて良かったと思いながら腕の中の子猫を差し出す。


「はい、助けてきたよ」


にこりと笑顔を向けてやれば漸く安心したのか、近くに居た女の子が笑いながら受け取ってくれた。


「だいじょうぶ?」

「うん、大丈夫だよ。…もうすぐ暗くなるからもう帰りなさい」


はーい、といい返事をする彼らを見送りながら素直に帰ってくれてよかったと息を吐く。投げ出された右足首からズキズキと鋭い痛みを感じていた。



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