2013お正月 | ナノ
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噎せ返る様な酒臭さの中むくりと身体を起こす。


「…うわあ、阿鼻叫喚」


思わずそんなことを口走ってしまったのを責めないで頂きたい。なんせ目の前には飲み過ぎて潰れた男達がゴロゴロと転がっているのだから。誰も吐いたりしてないことが唯一の幸運だとさえ思えた。見回せばあちらこちらに転がった酒瓶と所々零れてシミになっている絨毯に頭が痛む。まあ、今日は片づけを一人でしなくてはならない、という訳ではない。むしろ気兼ねなくこき使える奴らが居るのだから気楽なものだ。
グッと一伸びしてソファから身を起こす。足元に居たディアボロを踏みそうになったがギリギリで回避した。床の上で直に寝る彼らを見て思わずため息をつく。ああ、どうしてこうなったんだったかな…。


始めは暗殺チームの子たちと年を越す予定だった。ついでにディアボロとトリッシュも呼ぼうと思い立ち、誘いに行った所トリッシュはブチャラティ達と過ごすという。トリッシュの気持ちは知っていたし、ディアボロは悔しそうにしていたが、まあ彼だけ誘えばいいと思った。しかし、この会話をブチャラティも居る所で話したのが不味かったのだろう。優しい彼は未だに気まずい親子関係を修復できるように願っていたらしい。つまり、私達と過ごすようにトリッシュに勧めたのだ。あの時の彼女の表情を思い出すと胸が痛む。
姪の様に思っているトリッシュが悲しい顔をするのは耐えられず、結局うちとブチャラティチームで合同で年越しパーティーを開くことにしたのだ。まあ、そこまでは良かった。

しかし、今年は家に戻るのかという承太郎に今日の事を説明すれば、おれも行くなどと世迷いごとを言われた。しかも典明君達も引きつれて。流石に遠慮してほしかったが、久々にポルナレフに会いたいと言われれば文句も言えない。なんせ彼らを引き離したのはディアボロであり、率いてはパッショーネという組織全体なのだから。なので仕方なく了承した。
だが承太郎はそれをDIOに自慢とも言える口調で報告して下さったらしい。本当にありがとうございました、ふざけんな。何年前の喧嘩引きずってんですかちくしょうめ。あの我儘帝王がそんな事を言われて怒らない筈もなく。結局彼らも集まることになってしまった。その数余裕の二十人越え。幹部会議に使う館を使ってもギリギリという大人数っぷりとなったのだ。


「唯一の救いと言えば死人が出なかった事か…」


いや、本当に冗談でなくそう思う。多少の取っ組み合いも見られたがそれも酒の肴になる程度のもので。彼ら(主に承太郎とDIO)も大人になったのだなあ、なんて感慨に耽ってしまう。
うんうん、と一人頷きながらベランダに向かう。ついでにまだ中身が残っていたウィスキーとグラスを一つ手に取った。…飲み過ぎかとは思うがまあお正月ですし?たまにはいいよね、うん。

厚い遮光カーテンをくぐり、窓を開く。空はまだ暗いが遠くがぼんやりと明るくなっていた。もう夜明け間近なのだろう。初日の出を肴に一人飲むというのも中々乙なものだ。ポケットから煙草を取り出し火を付ける。立ち昇る紫煙を眺めながらぼんやりと去年一年を振り返ってみた。
春にはジョルノ達とディアボロの諍いが有り、それがなんとか上手く収まったと思ったら次は引き継ぎやなんやらの書類地獄だった。漸く一段落着いたと思えば、外交上の問題に駆りだされ…うん、忙しいながらもそれなりに満足のいく一年だったと言えるだろう。なにより誰も失わずにこうして騒げる、それだけで僥倖というべきだ。


「出来れば今年はのんびりしたいけどねえ…」


ま、それもどうせ叶わないのだろう、と笑ってしまう。全く、楽しい人々に囲まれてしまったものだ。肺に溜まった煙を吐き出しながら一人で笑う私の姿は珍妙だろう。吸い終えた煙草を消しながらそんな風に思っていると後ろの窓が開いた。


「…おや、フーゴくん」

「ナマエさん」


振り向くとそこにはフーゴくんが立っていた。目を瞬かせる彼にとりあえず中が冷えてしまうから窓を閉めさせる。


「起こしちゃったのかな?」

「あ、いえ…。なんだか今日は眠りが浅くて」

「ああ。まあ、あれだけ騒げばそうなるかも知れないね」


思い返すとフーゴくんはあまり飲んでいなかった気がするし。ふと手に持っていたウィスキーの存在を思い出す。トクトクと空いたグラスに注いで差し出した。


「良ければどうぞ。私が使ったグラスだけど」

「え?あ…」

「ん?新しいの出そうか?それとも他の飲み物がいい?」

「あ、いえ…頂きます」


おずおずと口を付けるフーゴくんを横目に新しい煙草に火を付けた。

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