2013お正月 | ナノ
[ 3/6 ]

ようやく賽銭箱の前まで来て賽銭を放り込む。頭を下げ手を叩いて今年一年の無事やら何やらを祈る。目を開けて、名前を呼ぼうとするが、その前に次の人間が間に入って別の方向に押し出されてしまった。
思わず舌打ちをする。ここで横切るのはあまりに無謀だし不可能に近い。力づくでいいならなんとでも出来るが新年早々そんなことをしたら名前に何を言われるか。深々と息をつきながら人の切れ目を探すことにする。


暫く歩くも人が途切れやしない。そろそろ苛立ち始めてくる。大体名前はどこに居るのか。それすら分からないのだ。一度立ち止まり冷静に考える。…待ち合わせ場所となっていた階段下に行くべきだろか。それが一番確実かもしれない。
そうと決めればさっさと歩きだすが、そんな時ふと前に居る一段に目が行った。


「いいじゃん、おれらと遊ぼうよー」

「いえ、あの…連れが居ますから」

「はぐれちゃったんでしょ?この人じゃ会えないって」


だからおれらと行こうよ、と女に絡む男二人。それだけならただのナンパだ。気に掛ける程の事ではない。だが、その女が名前と同じ色合いの振り袖を着ているものだから、名前と被ってしまう。酷く目障りでその集団に近付いて行った。


「おい」

「あ?」


振り返った男がおれを見上げて僅かに怯む。


「こんなとこでくだらねえことしてんじゃねーよ」

「お前に関係ねーだろ!」

「…目障りだって言ってんのが分からねえのか」

「…」


怯みながらもメンチを切ってくる男と視線を合わせる事数秒。結局男達はすごすごと引き下がった。…やれやれだぜ。事は終わったしさっさと残された女に背を向けて歩きだす。女が何か言った気がしたが、そんなことはどうでもよかった。

あんな場面を見てしまったせいか、もしかしたら名前も絡まれているのではないかと気が気で無くなってしまう。足早に進めていた歩を止め、スター・プラチナを発現させた。この人だ。見つけられるとは思わないが何もしないではいられなかった。目を細めながら周りを見渡すスター・プラチナの動きが止まる。何か見つけた様だ。
スター・プラチナの進む方向へ人をかき分けながら進む。屋台と屋台の並ぶ合間に名前は立っていた。しかし、その前に誰か立って声をかけているらしい。


「おい」

「あ?」


先程と全く同じような反応。しかし、振り返った男の顔が真っ青になる。多分今のおれの顔は相当凶悪なものだろう。


「人の連れになんか用か」

「あ、いや、この人混みで一人だから大丈夫かなあ、って」


媚びへつらう様な笑いを浮かべる男に目を細めれば、もう大丈夫そうですね!と言いながら人の波に消えていった。…一発殴っておきたかったが仕方ない。
ぽかん、としていた名前がおれの手を取った。


「…承太郎、人殺しそうな顔してるから止めなさい」

「お前がはぐれるのが悪いんだろうが」


決して名前だけが悪いという訳ではないが思わずそういえば、素直にごめんね、と頭を下げたのだった。

[*prev] [next#]

top