2013お正月 | ナノ
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それから階段を上り境内へと向かう。階段を上り切ることすらうんざりするほどの人に少々疲れてしまう。こういう場は慣れていないと言うか、精神的な疲れが大きい。


「お参り終わったらどっか行こうよ」

「うん。承太郎も大丈夫?」

「ああ」

「でも何時になったらここから出れるのかな」


ぎゅうぎゅう詰めの中グダグダと話しながら今後の予定を決めていく。その時近くの寺の鐘が鳴り始めた。


「今年も終わりだねえ」

「皆来年もよろしく」

「もちろん!任せといてよ」

「花京院はもうすぐ受験だろう頑張れよ」

「こんな時に思い出させないでくれよ…」


嫌そうな顔をする花京院に(名前曰く)悪い顔で笑ってやれば、君は頭がよくていいよなあ、なんて唇を尖らせていた。もうすぐ日付が変わる、そんな時、一気に人が前進した。慌てて名前の手を掴む。流されるまま進んで、止まった時には花京院達は居なくなっていた。


「…はぐれたな」

「うん。…まあ、お参り終わったらさっきの待ち合わせ場所でいいんだよね?」

「ああ。上手く会えりゃいいがな」


この人混みじゃあ大変そうだな、と呟くおれの手を名前が強く掴む。何かと思って見降ろせば、にこりと笑った。


「でもさ、皆でわいわいするのもいいけど、承太郎とこうして二人って言うのもいいねえ」

「…狙ってんのか」

「え、何を?」


随分と可愛らしい事を言う。誘われているのかとも思ったがこの反応を見る限りそうではないらしい。それでなくとも普段とは違う装いに戸惑っているのだから止めて欲しいものだ。
それから人の流れに乗る事数分。そこかしこから明けましておめでとう、の声が聞こえ始めた。


「今年一年お世話になりました」


重厚な音を立てた除夜の鐘の余韻が残る中名前がぺこりと頭を下げる。その頭を軽く叩いた。


「これから一年が始まるのに何で過去形なんだ」


おれの言葉に一瞬ポカンとした後、合点がいったのか恥ずかしそうに笑った。


「そうだよね、除夜の鐘が鳴り終わったからもう年明けたんだよね」

「ったく」

「え、っとじゃあ…去年はお世話になりました。今年もよろしくお願いします」

「…ああ。今年もよろしくな」


相変わらず間の抜けた事を言う奴だが、それを可愛いと思っている時点でおれも大分やられているらしい。そんな自分に苦笑しながらも嫌な気分ではないな、とも思った。

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