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まるで人がゴミのようだ、なんて往年の名台詞を言ってしまいそうな長蛇の列。まあ、その中の一員である以上ぼくと姉さんもまたゴミということになってしまうので言わないが。
「混んでるねー」
「それなりに大きい神社ですからね」
「賽銭箱見えないわね…」
人に流されてしまいそうな姉さんの手を強く握る。いくら携帯があると言ってもこの人混みの中じゃはぐれたらそう簡単には会えないだろう。
「でも日本人って不思議よね」
「なにがですか?」
「だってお寺の鐘の音で新年を迎えて、次は神社で初詣でしょ?ほんの一週間くらい前にはクリスマスではしゃぐし」
「…確かに言われてみればそうですね」
すっかり馴染んでしまっていたが改めて考えると不思議な国だ。懐が深いというか、大らかというか。まるで隣に居るこの姉のようだと思ってつい吹き出してしまう。
「どうしたの?」
「…いえ、なんでもありませんよ」
「本当?」
「ええ、勿論です」
疑うようにこちらを窺う姉さんに大きく頷いておいた。
「あ、ジョルノ甘酒があるわよ!」
「ぼくら未成年ですよ」
「甘酒はアルコール入ってないわよ?」
「そうなんですか?」
「ええ」
「でも列から離れるので後にしましょう」
「じゃあ私が取ってくるよ」
「この人波を両手が塞がった状態でかき分けて戻ってこれますか?」
「…無理、ね」
「そうですね」
甘酒は引き下がったものの焼きそばやらわた飴やらの出店を見る度に行きたがる姉さんをあの手この手で引き留める。普段はそれなりにしっかりしているというのに。どうやら普段と変わりないように見えてもこの雰囲気に流されているらしい。絶対に離さないぞ、ともう一度手を握り直した。
漸く賽銭箱の側に来た時には内心もうぐったりとしていた。
「はい、25円」
「ありがとうございます。…なんで25円なんですか?」
「二重に御縁がありますようにって25円らしいよ」
語呂合わせって奴ね、と笑う姉さんから賽銭を受け取りながら今既に周りに溢れている奇人変人を思い浮かべる。…姉さんには悪いが別にもうこれ以上の円とやらはいらないな、と思ったのだった。
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