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「では、行ってきます」
「父さんは本当に行かないの?」
「ああ、仕事が残っているからな。気を付けて行きなさい。…ジョルノ」
「はい」
「名前のことは頼んだぞ」
「分かってます」
もう、そんな子どもじゃないわ!と叫ぶ姉さんの背を押して外に出る。一歩外に出た途端吹いてきた風に身を縮こまらせた。
「寒いですね…」
「ね…」
「…戻りましょうか」
「…だ、だめよ!」
もう既に炬燵が恋しい。ぼくの提案に一瞬間が空いた所から姉さんも少し靡きかけたらしいがなんとか踏みとどまった。
「ほら、行こう?」
前を歩きだす姉さんに渋々ついていく。マフラーに顔を埋めても寒さは隙間から入り込んできた。進むにつれて人がぽつぽつと増えてきたので、姉さんの手を取った。
「…随分冷たいですね。カイロはどうしたんですか」
「もう無くって」
当然持っていると思っていた姉さんが苦笑する。ついぼくは眉を顰めてしまった。ぼくの両ポケットではカイロが熱を与えている。これは出る直前に姉さんがぼくに渡したものだ。どうやら自分の分までぼくにくれたらしい。
「ならひとつずつ持てば良かったでしょう」
「それだと片方寒いでしょう?」
そう言う自分は両方とも寒いだろうと言いたいのを堪えてため息を一つ。手を繋いでいる方のポケットからひとつカイロを取り出す。
「これ左側に入れてください」
「でも、ジョルノの手が…」
「こうすれば問題ないでしょう」
受け取らない姉さんに痺れを切らして手を回して放り込む。そしてもう一度繋ぎ直した手をぼくのポケットに突っ込む。先程までカイロを入れていたのでまだそこは暖かかった。
「…あったかいね」
「そうですね」
「…怒ってる?」
「少し」
「ご、ごめんね」
ピタリと歩みをとめたぼくと同じように止まってこちらを見上げてくる。
「次から…」
「次から?」
「次からぼくと歩く時に一つしかなければこうして歩けばいいんです。だから身体を冷やす様な真似はしないでください」
自分でも少々ぶっきらぼうになってしまったかと不安になったが、嬉しそうに笑う姉さんを見るに心配しているという意図は無事伝わったようだ。
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