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突き刺さるような寒さの中、マフラーに顔を埋める様にして歩を進める。もうすぐ日付の変わる時間だと言うのに道には多くの人が歩いていた。それどころか目的地に近づく程に人だかりが増える。だが、それも今日ばかりは当たり前の光景だ。今日は12月31日。あと数十分もすれば年が明ける。目的地である神社に行けば今よりも更に騒がしい状況に置かれるだろう。
ぶつかりそうになるのを避けながら神社に向かう最中見慣れた後ろ姿を見つける。
「花京院」
「承太郎」
ぽん、と肩を叩くと、振り返りながら笑う花京院。
「ジョースターさん達はどうしたんだい?」
「じじいならおふくろたちと一緒に先に行ってるぜ。ったく、はしゃぎやがって。年の割に落ち着きのねーじじいだ」
「ジョースターさんらしいじゃないか。ポルナレフの奴は?」
「駅までは一緒に来たんだがな…。ナンパしてくるとよ」
「…あいつの煩悩は鐘の音くらいじゃ落とせそうにないな」
苦笑する花京院に同意を示す。ポルナレフの女好きが今後治るとは思えない。…もしかしたら先に行った自分の祖父も今頃着飾った女に目を奪われて妻子に詰られているかもしれんし。そう思うと少しばかりげんなりする。
「どうしたの?急に黙って」
「いや、めんどくせえ事にならねえといいと思ってな」
「…うーん、名前ちゃんがいる時点で厳しいんじゃないかな?」
「友人も居るしな」
そういえば花京院が照れた様な顔をした。名前の友人である友人と付き合い始めて数ヶ月経つのに初心な事だ。
他愛もないことを喋りながら神社の階段の前に辿りつく。周りを見渡していると声をかけられた。
「空条!典明!」
その声に花京院がきょろきょろと辺りを見回す。…犬の様だと思ったのは黙っておこう。
「やー、あれだね。空条は目印に丁度いいね!な、名前!」
見つける前に来た友人がからからと笑いながら後ろを見る。友人の背からひょこりと名前が顔を出した。
「承太郎、こんばんは」
「ああ」
「ね、どうよ!可愛いでしょう!着つけ頑張っちゃったわよー」
名前を押し出した友人が胸を張る。言葉の通り二人は振り袖を着ていた。普段露わになっていないうなじの白さや、どこか女性らしく感じられるその姿に一瞬言葉を失う。
「ふふー声も出ない感動か!」
「うるせえよ」
「あの、友人さんも似合ってますよ」
顔を赤らめながら褒める花京院に友人が可愛いと騒ぎ出す。その間に上から下まで名前を見回した。…似合っていると言うべきだろうか。
「…まあ、お前もそれなりじゃねーか」
花京院の様に素直には言えなかったが、そういえば名前が嬉しそうに笑った。
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