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結局浴室の掃除に燃え始めた名前を放って先に寝室に戻る。ワインを口にしながら読書に励む事数十分。名前が戻ってきたのは日付が変わる少し前の事だった。
「ぴっかぴか!」
「それは良かったな」
「うん!…あー、もうこんな時間かあ」
「随分長い事入っていたからな」
「いやあ、始めたら思いのほか楽しくってね!…年越し蕎麦は諦めるか」
「年越し蕎麦?」
「うん、細く長くっていうことで蕎麦」
「説明がざっくらばん過ぎてよく分からんが、お前は細く長く寄りは太く短くという方が合っているな」
「あー、よく言われます」
乾いた笑い声を上げる名前を手招きで呼び寄せる。近づいてきた名前からタオルを取り上げて髪の毛を拭いた。
「風邪をひくぞ」
「んー…」
聞いているのか聞いていないのか分からないが、とりあえず返答が返ってきたので良しとする。
「今年ももう終わりだねえ」
「最後の日くらい掃除だなんだと騒がずに過ごしたかったがな」
「君が普段から出した本はしまう、書類は纏めてファイリングするとかしてればなにもすること無かったんだけどね」
「…仕事を残していったテレンスが悪いな」
「いやいや、何言ってますのお兄さん」
君が悪いんだよ!と叱りつけてくる名前の脇に手を入れて持ち上げる。そのままベッドの上へと投げてやれば、顔を打ったのか無様な悲鳴が上がった。
「鼻が!鼻がつぶれる!」
「元から潰れてるだろう」
「ああそっか、って酷過ぎでしょ!」
ぎゃあぎゃあと喚き立てる名前の横に寝転がり、うるさい口を塞ぐ。
「んっ…。…こんなことで誤魔化されると思うなよー」
「誤魔化されておけ」
「えー…。あっ!」
ベッドサイドの時計を見て名前が身体を起こす。
「あと30秒で新年だよー」
カウントを始める名前を何をするでもなく見つめる。何が楽しいのかアホの様に笑う名前を見てると無意識に口角が上がるのが分かった。
「0ー!明けましておめでとうございます!」
「ああ」
「今年もよろしくね」
「ああ」
「…DIOもちゃんと挨拶しなさい!」
新年早々文句を言う名前の腕を掴んで閉じ込める。暫くして静かになった名前の顔を上げさせて、少しばかり深いキスをすれば、息も絶え絶えになった。
「君の胸板は窒息死しかける凶器だと知りなさい」
「知った事か。…今年もよろしく頼む」
ぽつりとつぶやいた言葉を聞き逃さなかった名前が驚いたように笑う。それを見るのが嫌で、また胸元に顔を押し付けた。髪から香るシャンプーの匂いと、真新しいシーツの洗剤の匂いが今の長閑さを増長させて。掃除というのもいいものかもしれないと馬鹿な事を思った。
それはまるで幸せを閉じ込めた様な暖かい気持ちというのを知るとは思っていなかった
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