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「名前、暇だ」
「それは君が働かないからでしょうが」
客間に入れば、豪奢なソファの上に本を顔に乗せて横たわったDIOが居た。その姿に呑気なものだと苦言を呈したいが、先程名前に暇つぶしだと言った手前何も言えない。
「君にお客さんだよ」
「ん?ああ、承太郎に花京院か。久しいな」
「言われるまで気付かねえとはボケたんじゃねえか」
「ふん。名前が私にとって迷惑な奴を連れてくる筈が…あったな。忙しい時分に迷惑な奴らだ」
「たった今暇だとぼやいてたじゃねーか」
バチバチと火花を散らすおれとDIOを放って名前と花京院は二人お茶の準備をしていた。
「ほら、紅茶淹れたから二人とも座りなさい」
その言葉に当たり前の様に名前の右隣に座るDIOにムッとする。名前の左隣にどさりと座れば不思議そうな顔をした。
「あっちの方が広いよ?」
「そうだ、邪魔だぞ」
「ここに座りてえんだよ」
そう言えば困ったように笑いながら名前は紅茶を啜った。逆側ではDIOが何かを喚いていたが気にしないことにしておく。
「DIO、今日来た理由なんだけれど…」
カップの中身が半分を切った所で花京院が本題を切り出した。渡した書類を中心に話が進んで行く。付き添いで来ただけで仕事の事にはノータッチの為暇になった。隣に居た名前は時たま口を挟みながらのんびりとした様子だ。
「…お前大掃除はいいのか?」
「ん?ああ、じゃあ書庫の片付けでもしようかなあ。…承太郎もおいで」
立ちあがって一度伸びた名前が振り向いて笑う。言われた事が理解できずにいるおれの手を取って名前は歩きだした。
「なんでおれまで…」
「だってあそこに居ても暇でしょう?」
手渡される本を本棚にしまいながら文句を言えば、さらりと流される。確かに名前の言う通りだが、DIOの散らかしたものもまじっていると思うと文句の一つも言いたかったのだ。
「あ、これこれ」
差し出された本はおれが探していたものだった。絶版で入手困難だったため諦めかけていたのだが…。
「よくあったな」
「あの人色々読み漁るから」
伏し目がちに微笑む名前の顔がとても優しいものだから胸が痛んだ。名前が微笑みかけているのは自分ではなく、DIOだ。今の名前とDIOの関係を考えればそれは致し方ないもので。だけれど、慈愛に満ちたその表情をあの男が独占しているのだと考えると酷く苛ついた。そんなおれの思考を名前が遮る。
「…なんで順番通り並べるってことが出来ないのかなあ」
おれが入れた本は自分で言うのもなんだがてんでバラバラだ。しかし、系統はそろえているし、そこまで困るものでもないだろう。そう言えば名前は見栄えとか探す手間とか色々あるでしょう、と口を尖らせる。やらせたくせに文句を付けるな、と言いたかったがもう、と苦笑する名前が子どもに向ける様な、優しく愛おしげなものだったから何も言えなかった。
(本当はお前が妹なのにそれをたまに忘れてしまいそうになる)
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