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柵を抜きにして、ね…。書類を纏めながらコーヒーを淹れるフーゴくんの後ろ姿を盗み見る。…こういうとこ本当に気が利くんだよなあ。私が疲れてくると直ぐこうしてコーヒーを淹れたりドルチェ出してくれたり。彼氏というよりは彼女にしたいかもしれない…。
「終わったんですか」
「うぇ!?…ああ、うんとりあえず」
「では少し休憩にしましょうか」
差し出されたチョコレートケーキとコーヒーに舌鼓を打つ。うん、これ凄く美味しい。
「これどこの?凄く好みの味なんだけど」
「そうですか、なら良かった。…貴女が好きそうな味だと思って買って来たんです」
「…あ、そ、そう」
…本当に嬉しそうに笑うものだからなんだか照れてしまう。っていうか良く見てるなあ。…あ、結局どこで買ったか言ってないし。今度自宅用に買いたいのでもう一度店の名前を聞こうとしたが、それより先にフーゴくんが口を開いた。
「今日リゾットさんと居ましたね」
「え?」
「ジョルノに書類を届けに行った時に見ました」
「…ああ、通り道だもんねあそこ」
天気がいいからテラス席だったし、背の高いリゾットは目立った事だろう。ジョルノの代になってから暗殺チームとは名ばかりの平和な日常が続いていたせいで私も彼も危機管理能力が落ちているのかもしれない。気を引き締めなければ。
「何を話していたんですか?」
「…え?えー…」
まさか君の事を相談していたんです、とは言えない。何と言って誤魔化そうか。
「ぼくには話せない事ですか」
「あー、うん。あっちのチームに関わる事だから」
「…そうですか」
「うん、まあそんな大した話でもないし」
そこでこの話題は打ち切られ、明日の予定や終えるべき書類など仕事の話が続く。コーヒーが無くなる頃には話しあいも終わった。今日はこれでやることもない。
「久しぶりに家でのんびりできるなあ」
「いつもお疲れ様です」
「ジョルノにもう少し楽させてくれるように言っといてよ」
軽口を叩きながら二人並んで部屋を出る。じゃあ、と挨拶をしようとフーゴくんの方を振り向いた途端グイッと引っ張られた。よろけた私を抱きしめたまま一瞬時が止まる。フーゴくん、と呼ぼうとした瞬間顔を持ち上げられて頬に柔らかいものが触れた。
「Ci vediamo domani」
また明日、それで挨拶としてのキスだと分かった。挨拶のキスといっても基本的にくっつけずに音を立てるだけのもので、こんな風にされたのは久々なものだから思わず彼が触れた場所が熱くなる。それを見てフーゴくんは満足そうに笑うと颯爽と去って行った。
…なんなんだあいつは!!!!
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