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「…煙草吸うんですね」
「ああ…嫌なら消そうか?」
それとも吸う?と箱を取り出すと、いえ、ぼくは…と辞退された。うむ、いい判断である。上司だろうと先輩だろうと吸いもしない煙草を差し出されたら断るべきだ。煙草なんてある意味麻薬と同じなんだから。…いや、喫煙者が言ってもなんだか説得力がないか?
「…ぼくはここに居てもいいんでしょうか」
「急にどうしたの」
「ぼくは、あの時ボートに乗れませんでした。仲間が、戦うと言ったのに」
「…あの時の君の判断は誰にも責められないよ。あの時の状況を考えたら、君の判断が間違ってたとは言えない」
「でも…!」
「フーゴくん。…君の事を誰か責めたかい?」
「…いえ、誰も。誰も…」
「責められたかった?そうすれば楽になれた?」
バッと顔を上げたフーゴくんの顔はどこか儚い。…彼は責めてほしかったのだろう。責められて、そしてそれでも許して欲しかった。叱責されれば、自分の罪が軽くなる気がするから、それでも許されれば受け入れられたと思えるから。何も言われない自分に彼らにとって無価値ではないかと不安にでもなっているのだろう。しかしそれは。
「甘え、だよ」
「…!」
「彼らにとって君は決して軽い存在ではない。あの時ブチャラティは君にも来てほしかったんだと思う。でも、それでも彼は、彼らは君の思いを尊重した。…それは紛れでもなく、君が彼らにとって大切だからだ」
「大切…」
「そう。君を無理やりにでも連れて行くことも出来た。でも、大切な仲間だからこそ強要はしなかった。命令で動くのは仲間じゃなくて部下だからね。…君は彼らにとって大切な仲間なんだと思うよ」
君が彼らの前に現れた時、彼らは純粋に喜んでくれたじゃないか。そう言えばフーゴくんの瞳に薄い涙の膜が張られた。私よりも幾分か高い所にある頭に手を伸ばす。ぽんぽん、と軽く撫でてやれば、しゃがみ込んでしまった。そのままゆるゆると撫で続けていると、湿った声が漏れだす。それに何を言うでもなく残り少なくなった煙草を口にくわえた。
小さくなったフーゴくんを見ながら若いなあ、なんて思ってみたり。まあこの子まだ15歳だもんな。…ほぼ10歳差か、ちょうど私とディアボロと同じくらいの年齢差だ。ディアボロもこんな気分だったんだろうか。フーゴくんと幼かった自分が被る。床で酔いつぶれていた"お兄ちゃん"の事を思い出す。私が落ち込んでいた時、いつも面倒くさそうにしながらも側に居て、時には励ましてくれた。あれで何度救われたか分からない。…今の私も彼の様にこの子の力になれているといいのだけれど。
落ち着いたらしいフーゴくんが立ちあがる。頭から手を退けて空を見た。…男の子だし泣いた後の顔は見られたくないだろう。東の空が大分赤くなった。そろそろ本格的に日が昇る。大丈夫だとは思うが、一応カーテンが閉まっているか確認しようとチラリと後ろを見るとフーゴくんとばっちり目が合ってしまってドキリとする。俯いてるか向こうを向いてるものかと…。
「ナマエさん」
「ん?なに?」
「貴女は…何故そんなに強いんですか」
その言葉に思わず首を傾げた。いきなり何を言い出すのだろうかこの子は。
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