「お疲れ様です」
「…ああ、すまないな」
ソファに座り差し出された水を煽る。酔いつぶれたメンバーを部屋に運び終わって漸く一息つけるようだ。部屋を見渡せば先程まで足場もない程に汚れていたが今は少々雑然としているという雰囲気になっている。自分がメンバーの世話を焼いている内に名前が片しておいてくれたのだろう。
「お前こそ疲れただろう」
未だに止まらず床に転がった酒瓶を拾っているナマエに声をかければ、ぱちりと瞬きをした。
「そんなことないですよ?」
「そうか?」
「これくらいで疲れてたらここじゃ勤まりませんよ。それに仲間と騒ぐのは楽しい方が勝りますし」
くすくすと笑うナマエに感心する。自分は仕事よりもあの騒がしい面子を纏める方が余程疲れてしまう。もちろん楽しくない訳ではないがいかんせん元気が有り余ってる様な奴らだ。今日だって何回周りの家具の心配をしたか分からない。思い返して眉間にしわが寄るのを目撃したらしいナマエが困ったように笑っていた。
「リーダーは折角のナターレなのにそんな顔して勿体ないですよ」
「勿体ない、か」
「ええ。…こうして私達が皆揃ってナターレを騒げるなんてそうそうないんですから」
「…そう、だな」
煮え切らない返事をしながらそれは一体どういう意味だろうかと考える。ナターレの様な皆が騒ぐ時期は警戒心が緩んで仕事がしやすくなる為に忙しくなるから集まれないという事か。それとも、来年のこの時も今のメンバーが全員無事だとは限らないという事か。そのどちらの意味も含んでいるのだろうと自問自答しながら、こんな時でも仕事の事を考えてしまう自分に思わず苦笑してしまう。そんな自分の思考を遮るかのように横から手が伸ばされ、机にグラスが置かれる。
グラスの中には深い琥珀色の液体が氷と共に揺れていた。誘われるように手を伸ばし香りを嗅げば普段飲んでいるものよりも幾段かランクの高いものだと分かる。
「随分といい酒だな」
「こっそり仕事終わりに一人で飲もうかと思ってたんですけどね。リーダーとのんびり飲むのもいいかと思いまして」
「それはありがたいことだ」
「私からのプレゼント、ということで」
そう言って笑いながらナマエが隣に座る。片側に沈んだソファに体勢を整えながら周りを見ればいつの間にか部屋は普段と変わらないまでになっていた。どうやら思っていたよりも長く考え込んでいたらしい。それ程飲んでは居ない筈だが、やはり少々浮かれていたのかもしれない。
「リーダーとこうしてさしで飲むのも久しぶりですね」
「ああ、そうだな」
ナマエの声に視線を隣にやれば、ナマエはグラスを揺らしてくるくると回る氷を眺めていた。肩より少し伸びた髪が一筋落ちる。それを見ながらナマエが入って来たばかりの事をぼんやりと思い返した。
「随分と変わったものだ」
「え?」
きょとん、とした顔は変わっていないな、と一人笑ってしまう。
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