そいつと初めて会ったのは図書室だった。卒業してから久しぶりに学校を訪れたおれは、図書委員である花京院を尋ねて在校中は入った事もない図書室へと足を向けたのである。
「あれ、承太郎学校来てたの?」
「先公に呼び出されてな」
「卒業してからも呼ばれるなんて人気者だな」
「おちょくってんじゃねー。…暇つぶしにゲーセンにでも行こうかと思ってな、誘いに来たんだが」
「そっか、でも委員の仕事が有るしな…」
「あ、あの花京院君…」
花京院の後ろから声が聞こえて初めてそこに人が居るのに気付く。花京院に声を掛けたそいつは細みの花京院の影にすっぽり入ってしまう程小さい女だった。おれが視線を向けると、驚いたように肩を跳ねさせて、更に隠れる様に花京院の後ろに回った。その行動に少し笑いながら花京院が女にどうしたの?と尋ねるとおずおずと口を開く。
「もう少しで閉める時間だし、行ってきたら?」
「いいのかい?」
「うん、折角く、空条先輩が誘ってくれてるんだし」
「うーん…。じゃあお言葉に甘えようかな」
花京院が帰る準備をしている間、手持無沙汰だったのでそのお人よしな女を眺めていたが、そいつはきょろきょろと落ち着かないように目を泳がせたり、ちょこまかと動きまわっていて中々面白かった。
「今度お茶でも奢るよ」
「うん、いってらっしゃい」
「ははっ、いってきます」
花京院と話している時は微笑んですらいたが、やはりおれと視線が合うとビクリとしてカウンターの中へと戻って行った。
「…あの女変だな」
「変って名前のこと?」
「名前って言うのか」
「うん。…なんだい承太郎、彼女の事気になるのかい?」
「別にそういう訳じゃねーがな…」
自分で言うのもなんだが、図体は人一倍デカイし顔立ちも親しみやすいという訳ではない。今までもああしてビビった様な反応をする奴は大勢居た。しかし、何かが気にかかる。何が、とははっきり分からないが。
「名前は…可愛い子だよ」
「なんだ惚れてんのか」
「そういうのじゃないよ!なんていうか…守ってあげなきゃいけないっていうか。ああ、赤ん坊とか子猫とかに対する感情と同じだよ」
花京院の言葉にピタリと足が止まる。何が気になっていたかが分かった。ガキの頃親父が買ってきてくれたハムスターによく似ているのだ名前という少女は。大きな丸い瞳に小さい身体、臆病で隠れたりちょこまかと動きまわったり。思い返せば思い返す程そっくりに思えてくる。
「承太郎?どうしたんだい?」
「…いや、なんでもねーぜ」
心に引っかかってた事も解消し、この話は終わった。…筈だった。
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