「少し痛むぞ」
私の寝室には主である私と名前が居た。ベッドに座らされた名前が居心地が悪そうに身動ぎする。その顔には僅かに恐怖も見受けられた。青くなった顔に笑いながら手に持っていた針を、柔らかな肌に突き刺した。
びくりと跳ねる身体を許さぬとばかりに押さえつける。ぽたぽたと垂れる血と同じ色で輝くピアスを差し込み、逆にも同じように針を刺し、ピアスを埋めた。
「ふむ、中々似合うではないか」
「あ、りがとうございます…」
まだ痛むのか眉をひそめながらも礼を言う名前に構わず首筋に垂れた血に誘われるように舐めとる。息を呑む名前の喉の動きが舌越しに伝わってきた。そのまま、牙を突き立てる。
「いっ…!」
逃れようとする名前を抑え込んで気が済むまで血を吸い取ると口を離す。青白い顔をしながらも痛みに堪える様に寄せられた眉と潤んだ瞳に今度は違う意味で湧いてくる欲を感じたが、今日はそんな気分にはなれなかった。
漸く意識がはっきりしてきたらしい名前の前髪をよけてやる。
「どうだ?」
「何が、ですか」
「貴様にとって今日と言う日を聞かれたら思い出すのは今の事であろう?」
目を瞬かせる名前の物分かりの悪さに顔を顰める。普段の鋭さはどこに行ったというのか。
「貴様はこれからこの日が来るたびにこの事を思い出す、違うか?」
「え、あ、それはこんなことをされたらまあ、そうなるかと」
「それでいい」
私の言葉に察しがついたのか名前が腕で顔を覆った。
「そういうことですか」
「ああ」
これから名前はこの日が来るたびに私とのことを思い出す。子どもの頃に感じたという惨めさよりも先に。
「DIO様、失礼かとは思いますが一言申してもよろしいですか」
「許そう」
「…こんなことをなされなくとも、きっと私は今日の事を思い出しましたよ」
だって、本当に嬉しかったんです。皆が笑って楽しんでくれて、DIO様からプレゼントまで頂けて。ここまでしなくとも…文句ともとれる発言に肩を竦める。
「貴様は誰のものだ」
「それは、DIO様のものですが」
「ならば貴様が一番に思うものは私でなくてはならない。そうだろう?」
「…分かりました」
小さくため息をつきながらもいつもと同じように困ったように名前が笑う。先程までのどこか張りつめた空気が霧散して、いつも名前の周りに漂う穏やかなものになったのを感じた。
「そろそろ寝るとするか」
「では、私は」
ベッドから降りようとする名前の腕を掴んでもう一度引き戻す。そのまま抱え込んで横になれば、控えめながらもしっかりとした声音で名を呼ばれた。
「どういうことでしょうか」
「貴様は主人にあそこまでしてもらっておいて、一晩抱き枕代わりになることも出来ないのか?」
「…分かりました、務めさせていただきます」
僅かに頬を赤らめながら小さく呟く名前の顔には微笑が浮かんでいて。どこか穏やかな気分になれた。…この気持ちを心地よいと思っている自分に呆れながらも、そのまま身を任せることにした。
それは慈愛に満ちた微笑み
受け入れる者は受け入れられるのだと、誰かが笑った気がした
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