はしゃぎ疲れた子どもたちや酔いつぶれた者を部屋へと連れ帰った名前が広間に戻ってきた。広間にはそれなりに自制が利く者だけが残り、先程より随分と静かな空間になっていた。一瞬こちらに向けた視線に逃さず指で呼ぶ。駆け寄ってきた名前に酒を持ってくるように、と言えば直ぐ様持ってくる。それを受け取る。ふむ、中々いいセンスだと言える。
「楽しんでいたようではないか」
周りの人間に絡まれたせいで給仕に徹していたにもかかわらず名前からは僅かに酒の匂いがした。大方ラバーソールやホル・ホース辺りに飲まされたのだろう。
「あ、はい。…申し訳ありません羽目を外し過ぎました」
「構わぬ。今日はクリスマスなのだろう」
私の言葉に驚いたのか名前が目を丸くした。日頃微笑みの表情ばかりの名前の珍しい顔に口角が上がる。
「で、今年は惨めではない日となったのか」
「え?あ、はい。…とても、楽しかったです」
これまたいつもの控えめな笑みとは違う自然と綻んだ笑顔が向けられる。本当に楽しかったのか、それとも酒の力か。そんなことを考えながらポケットから箱を一つ取り出した。
「これをやろう」
「これ、は…」
「プレゼントというやつだ」
先程よりも驚愕に満ちた視線が向けられる。ペット・ショップが人の言葉を話したとしてもここまでは驚かないだろう、と言える様な顔だ。
「ふむ、貴様は私が部下を労う事も出来ぬ無能な上司だと思っている訳か」
「そ、そのようなことは…!」
「目は口ほどに物を言うというだろう」
「いえ、あの…。こんな、勝手な事をやらせて頂いただけでもありがたいのにこの様なものを頂けるとは思っていなかったもので」
下を向きながらもごもごと喋る名前をジッと見つめる。身の置き場が無くなったのか、プレゼントを開けていいかと尋ねてきた。話を逸らしたいのだろうと丸分かりな言動に更に追い詰めてやりたいという加虐心が煽られたが、許可してやった。
丁寧に包みを開けた中には赤い石の付いたピアスが鎮座していた。そして、私も知らぬ間に入れられていたらしいクリスマス仕様のカードを言葉もなく見つめている。
漸く口を開いた時、名前の声は小さく揺れていた。
「私、クリスマスに贈り物を頂いたのは初めてです」
「そうか」
「…DIO様に一つ嘘をつきました」
「ほう、なんだ」
「今日の催しを、子ども達の為と言う様な言い方をしました。でも本当は、自分がこうして欲しかったんです」
自分がしてもらえなかった事を、子ども達にすることで。喜ぶ姿に自分を重ねて、過去に与えられた屈辱を、寂しさを癒したかったのだと、そう絞り出すように続ける。
「自分の為、だったんです」
「…それの何が悪いのだ?」
「え?」
「私は貴様に好きにしろと言ったのだ。貴様が誰の為にこんなことをしようと知った事ではない。私の許可が有り、好きなようにやったことに何か問題でもあるのか」
「いえ、そんなことはない、と思いますが」
「ならばそれでいいだろう」
「…はあ」
自分の吐き出した言葉を軽く見られたと思ったのかどこか上の空で頷く名前の髪を掻き揚げる。むき出しになった耳には記憶通り穴など空いてはいなかった。
「ついてこい」
歩きだす私の後ろから一拍置いて足音が続く。
←→