これまたカップルだらけの喫茶店で身の置き所に困りつつ紅茶を啜る。うん、テレンスさんの淹れた紅茶の方が数段美味しい。
壁に掛けられた時計を眺める。もう予約時間はとっくに過ぎていた。ばたばたしてたとは言えキャンセルの連絡を入れるのを忘れていたことに気付き更に気分が降下する。とりあえず今からでも入れておくか。
「ええ、本当にすみません、ありがとうございます」
うむ。流石一流ホテルのレストランなことだけある。理由を説明したらキャンセル料は要らないときた。日本のサービスは世界一ぃぃぃ!とか言いたくなってしまうね。
もう残り少ない紅茶を飲み干した時、携帯が振動する。
「はい」
『ああ、名前?今どこだい?』
「駅前の喫茶店。典明君はどこの病院?」
『ああ、なら直ぐ行くよ。駅を挟んで直ぐの所だから』
「はーい」
典明君の声の調子ともうこちらに来ると言う事からあのお兄さんは大丈夫だと分かった。通話を切り、店員さんには悪いがもう少し居させてもらうことにする。数分後一度だけ振動した携帯を手にお会計をして外に出る。入り口そばに居た典明君に駆け寄った。
「寒いから入れば良かったのに」
「いや、向こうで缶コーヒー飲んだから」
「そっか。ああ、お夕飯どうする?」
「そうだね…。あ、しまった、レストランに連絡しなきゃ…」
「それならもうさっきしといたよ」
「…そっか、ごめんね」
申し訳なさそうに謝る典明君の手を取る。
「典明君が悪いんじゃないんだから謝らないの」
「…うん」
「それに…」
「それに?」
「こうして手繋げただけでもう満足しましたから」
笑いかけながらそう言えば、典明君の顔が赤くなった。空いている手で口元を覆いながら馬鹿、と言う典明君に萌え殺されそうになったのは仕方ないと思います。
「じゃあ、家でのんびりお鍋と言う事で」
「うん。…ごめんね」
「だーかーらー、もう謝らないの」
「分かったよ」
一歩前に出てピッと典明君を指差しながら叱れば、苦笑しながらも頷いた。うんうん、折角のクリスマスに恋人の暗い顔なんて見たくないからね!
「ねえ、名前」
「なーにー?」
「…いや、何でもないよ」
「変な典明君」
吹き出す私の額を小突いて典明君が小走りに逃げる。それを追いかけながら家路を急ぐのだった。
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