「テレンス」
「ああDIO様、お早いお目覚めですね」
「寝室の前でごそごそと騒がしい者がいてな」
「嗚呼…、止めさせますか?」
「いや、構わぬ好きにさせてやれ」
「そうですか」
頷いたテレンスがワインを出しながらどこかホッとした様な顔をする。
「お前も一枚噛んでいたのか?」
「いえ。…ただあの子が暇を見てはせっせと飾りや子どもたちへの贈り物を買いに行ったりするのを見ていましたから」
「ふむ。…随分と気に入っているようじゃあないか」
「そうですね…。あの子は他の女たちの様にDIO様DIO様とうるさくないですし、仕事もちゃんとこなしていますから」
…確かに名前は他の女達の様に姦しく纏わりついて来ない。仕事も丁寧だしメイドとして落ち度はないだろう。
「それにしてもこの館でクリスマスが祝われようとはな」
「想像もしておりませんでしたね」
クスリと笑うテレンスに頷く。去年も一昨年も普段と何も変わらない日として過ごしていた。それが一人の女の手によって変えられようとは確かに私も想像していなかった。
「まあ、たまには羽目を外すのもよかろう。貴様も楽しむといい」
「お心遣いありがとうございます」
「うむ」
頭を下げるテレンスを横目にワインを飲み干す。料理好きなこの男の事だ、そうとなれば明日の食事は随分と豪勢なものを出してくるだろう。吸血鬼となって人間の様な食事は必要無くなった。しかし味覚が無くなった訳ではない。美味いものが食べられるというならそれはそれで構うまい。
「…もう日は沈んだか?」
「ええ、その様です」
ちらりと時計を見たテレンスの言葉に席を立つ。
「お出かけですか」
「ああ」
「お帰りは…」
「今日は直ぐに帰る」
「かしこまりました」
頭を下げるテレンスに見送られながら夜のカイロへと出かける。さて、私の目に叶うものはあるだろうか。
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