「典明君」
待ち合わせ場所に行くともうすでに典明君が来ていた。一応まだ待ち合わせの10分前なんだけどな、なんて思いながら小走りに近付いて名前を呼べば、手を上げてくれる。
「早いね、寒かったでしょ?」
「いや、ぼくも今来たところだから」
「嘘吐き、鼻も指も真っ赤だよ?…ほら、こんな冷たい」
赤くなってしまった典明君の手を掴んだ。氷の様、とまではいかないがやはり冷え切ってしまったそれに眉を顰める。…今度から後10分は早く来よう、そう思っていると典明君がくすくすと笑った。
「何笑ってるの」
「…いや、これじゃまるで名前の方が彼氏みたいだと思って」
「確かに。…ってそうじゃないでしょ?手袋くらいつけなさい」
「彼氏じゃなくてお母さんだった」
肩を竦める典明君の肩を軽く叩いてから鞄の中を漁る。直ぐに出てきた目当てのものを差し出した。
「ホッカイロ?」
「うん、この時期は持ち歩いてるの。ほら、それで温めて。あかぎれとか出来たら困るでしょ、手が命なんだから」
「その言い方だとまるでハンドモデルみたいだね」
「…そうだとしても違和感ないけどね」
ジッと典明君の手を見つめる。日焼けとは無縁そうな白さ、男にしてはすらっとした指の先には形のいい爪が乗っている。あれだ、某手が大好きな爆弾魔が思わず持って行ってしまいそうな手だ。しかし、この手は多くの人々を救うためにある。
「今日は患者さん大丈夫なの?」
「ああ、運良く皆さん容体が安定しててね。まあ、携帯の電源は切れないけど」
苦笑しながらもその目には思いやりが溢れていて本当に優しい人だな、なんてしみじみと感じ入ってしまう。
「クリスマスだからサンタさんからのプレゼントかな?」
「典明君いい子だもんねー」
「まあね」
「わー自信たっぷりー」
くすくすと笑い合いながら手を取ってどちらともなく歩きだす。握った手がやっぱり冷たくて典明君のコートのポケットに手を突っ込んだ。
「ほかほかー」
「名前の手は温かいね」
「子ども体温なんだよねー」
「…ああ、確かにそうだろうね」
「何処を見て納得してるのかなー。身長か、それとも胸か!返答によってはこの空条名前容赦せんッ!」
「大丈夫、ぼくに身長はどうにもできないけど、そっちだったら協力できると思うよ」
「…典明君が昔と違って汚れてしまった!あんな初心可愛かったのに!」
「…そうしたのは君だろう」
そう呟く典明君を見上げるとどこか恥ずかしそうにしていた。え、あ。
「…うん、ごめんやっぱり君可愛いわー」
「それ褒め言葉じゃないからね」
「なん、だと…!」
それから典明君の可愛さと、その言葉に秘められた愛について熱く語りながら人ごみを歩く。普段なら注目を集めそうな内容だが、道行く人々皆二人の世界に入っているので問題なかった。
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