差し出されたタルティーネと酒を受け取る。
「…マルサラワインか」
「ええ、この間酒屋さんが仕入れてたので買ってみました」
マルサラワインはオレの生まれたシチリアで作られているワインだ。普段あまり目にしないのだが、ナマエの言う通り偶然手に入れたという事か。
「リーダーの生まれた所で作ってるお酒はどんなものかと思いまして。…まさかリーダーと飲むとは思ってませんでしたけど。リーダーもよく飲んでたんですか?」
「作っているのは生まれた島ではないが、まあ地元では良く飲まれてたな」
「なるほど。本当は食前に飲むのがいいんでしょうけど…」
「細かい事は気にしなくてもいいだろう。ほら、グラスを出せ」
差し出されたグラスに注いでやる。自分のグラスも満たしてそのまま煽ればアルコールが喉を焼いた。懐かしい味に目を細める。…それにしても。
「先程のウィスキーといいこれといい、お前は酒に強いんだな」
ナマエが蓄えているという酒に少々興味が湧く。どちらも質のいい、だが強い酒ばかりだ。
「強い、ってほどでもないと思いますけど。リーダーだって全然酔ってないでしょう?」
「まあ、これくらいではな」
それからチームのメンバーについてだったり、ボスへの不満だったり他愛もない話を続ける。穏やかに微笑んでいたり、拗ねる様に口を尖らせるナマエのコロコロと変わる表情が可愛らしい。
…可愛らしい?先程手を掴んでしまったことと言い、今の可愛いという感情だったり、今日はなんだか自分でも思わぬ事が起こる。思っている以上に酒がまわっているのだろうか。
「リーダー?どうしました?」
急に俯いたオレにナマエが心配そうに声を掛けてくる。なんでもない、と返せばホッとしたように笑うナマエに手を伸ばした。頬に触れる手に目を丸くしたまま固まるナマエをいいことに気のすむまで滑らかなその頬を撫でる。…温かい。
「り、リーダー?」
「…お前は温かいな」
「へ?ああ、リーダー手冷たいですよね。冷え症ですか?」
「いや、そう言う事ではなく」
間の抜けた発言に脱力してしまう。パチパチと目を瞬くナマエの頬を抓り上げれば、もごもごと文句を言うものだから、面白くて笑ってしまった。
「滅多に笑わないリーダーが笑って下さるのは嬉しいですが、プロシュートみたいな事しないでくださいよ…」
抓られないように頬を押さえるナマエの無防備な額を中指で弾く。痛っ!と一言声を上げてから今度は額を隠した。その目には純粋に驚きだけが表されていて、ここまでされて次の攻撃に警戒しないのは暗殺者としてどうなんだ、なんて的外れなことを考える。
「…リーダー酔ってます?」
「そうかもしれないな」
そう言って喉で笑えば、奇妙なものを見る目で見られた。
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