2012クリスマス | ナノ



「あの時じゃなかったら、きっとそんな風には思えませんでした。皆と打ち解けてきたあの時だったから、皆を失う事の怖さに気付いて変わらないとって思えたんです」

「そうか」

「ええ。だから、あの…」

「どうした?」


ナマエが何か言い辛そうにごにょごにょと下を向いて呟くが、上手く聞きとれない。そんなオレに諦めたのか、顔を上げたナマエの頬は赤くなっていた。


「リーダーが居るおかげで、今私は生きていられるんです…!」


それだけ言ってナマエはまた下を向き微動だにしなくなる。しかし、オレもナマエの思わぬ発言に固まっていた。二人の間を沈黙が駆け巡る。何か言ってやろうにも何を言えばいいのか分からない。こんな時プロシュート辺りなら礼を言うなりからかうなり上手く返せただろうが、生憎オレにそんなスキルはない。結局ナマエの頭に手を乗せてやることしか出来なかった。


「…そんな、大したことはしていない」


ふとそんな言葉が口をついて出た。しかし、これは真実だとも思う。オレはそんな事を狙って怪我をした訳ではない。ただ不注意だった、それだけだろう。こんな感謝されることではない。だが、勢いよく顔を上げたナマエの表情はそれを肯定してはいなかった。


「リーダーにとってはそうでも、私にとっては違ったんです…!」


そのどこか必死さを感じさせる表情は時たま見ていた。皆が寝静まった後に自分のスタンドを理解しようと一人頑張っていた時。オレが仕事で忙しくしている時に見よう見まねながら事務的な事をこなしていた時。こいつは気付かれないようにしていたようだが、そんなことはお見通しだった。時に空回りすることもあったが、ナマエは何時だっておれ達のために一生懸命だ。


「…そうか」


自分の怪我ひとつでナマエが変わる切っ掛けになったなら、チームを大切だと気付いてくれたなら安いものだと思う。しかし、それを口に出せば怒られそうだったので、酒と一緒に呑みこんでおいた。



口当たりのいい味にもう一杯、もう一杯と杯を進めるうちにもう瓶は空っぽになっていた。


「あ、無くなっちゃいましたね。まだ飲みますか?」

「ああ、そうだな。もう少し飲もう」


ナターレと言うイベントのせいか、ナマエの話を聞いたからか。普段ならばもう自制しなくてはならない量の酒を呑んだが、今日はもう少し飲みたい気分だった。


「じゃあ、取ってきますね」


そう言って腰を上げたナマエの手を掴む。ナマエが驚いたように振り返るが、オレ自身も驚いていた。


「えっと、リーダー?どうしました?」

「…つまみも、頼む」


突然の行動を誤魔化すようにそう頼めば、ナマエは了解しました!と笑いながらキッチンへ向かった。それを視界の端に留めながらオレは自分の掌を見つめていた。…何故あんなことをしてしまったのだろうか。