「…お前がここに来たばかりの頃はこうして酒を呑み交わすとは思ってなかった」
「ああ…。まあ、まだ未成年でしたし」
「それもあるが。…正直、ここまで生き延びるとは」
「…それ、怒った方がいいですかね?」
「構わないが。事実だしな」
「…リーダーって変な所正直者ですよね」
深々とため息をつくナマエには悪いが、出会った頃は本当に直ぐ死んでしまいそうだと思っていたのだ。スタンド能力にはなんの不満もないが、ナマエ本人はスタンドの力を見込まれ、攫われてきた一般人で。今のペッシの様に見習いとして連れ回していた頃は現場で泣き叫ぶし、胃の中身をぶち撒けるしで使い物になるとは到底思えなかった。それが変わったのは何時頃だったろうか?確か、ある程度チームメンバーと打ち解けてきた頃急に変った気がするが。
またもや自分の世界に沈んでいるとナマエがオレの事を呼んでいた。
「リーダー?酔っちゃいましたか?」
「…いや、お前がそうして普通に笑えるようになったのは何時頃だったかと思ってな」
「…始めの頃の私ほぼ無表情でしたもんね」
ナマエも昔を思い出したのか、困ったように笑う。
「えーっと、何時頃だったか定かには覚えてないんですけど。皆足手まといの私に、厳しくも暖かくしてくれてて」
「暖かかったか…?」
「…プロシュートなんかはスパルタでしたけど。でも、任務の帰りに気を使ってジェラート食べに連れてってくれたりしてましたよ?」
「そうだったのか」
…思い返してみても自分の時にそうしてやった覚えがない。あの頃のナマエからしたら気の利かない奴だったのだろうな、と過去の自分を責めてみる。
「で、仕事は慣れない、…慣れたくなかったけど、チームの皆の事は少しづつ好きになってったんですよね」
「…そうか」
「ええ。で、そんなある日リーダーが任務で怪我して帰ってきたんです。…覚えてます?」
こちらを窺う様に見るナマエを見返しながら記憶を探る。素人ではあるまいしそうそう怪我などしないが、だからと言って毎回無傷な訳ではない。ナマエが変わる転機となった様な怪我だとしたらそれなりに酷いものだったのだろうか。しばらく考えても思い付かずに視線を逸らせば、ナマエが小さく笑った。
「その様子だと覚えてませんね」
「…ああ」
「まあ、あまり大きな怪我ではなかった、と今なら思う様なものでしたし仕方ないですけど」
「…」
「でもそれなりに出血もしてて、あの頃の私にとってはかなり衝撃的だったんです。それまでは皆の事好きになったって言っても、どこかに私を攫った人達の仲間なんだって意識があって」
「…それは、仕方ない事だろう」
「ええ。…だけど、リーダーが怪我して帰って来たのを見て、怖かったんです」
「怖かった?」
「ええ。一歩間違ったらリーダーは死んでて、帰ってこなかったのかもしれないって思って。他の皆だってそういう危険と向かい合ってるんだって分かったら、泣きそうなくらい怖かったんです」
「…まあ、そうだろうな」
ナマエは普通の人生を歩んできた、歩む筈だった少女、なのだ。そんなことを直視したらそれは怖いと感じても不思議ではない。
「で、自分が足手まといのままだったら、その危険性は跳ね上がるってことにも気付いて。皆が私のせいで死ぬかも知れないと思ったら、このままじゃいけないって、思ったんですよね」
だから、あの日私は変わったんだと思います。そう言ってナマエが笑う。その笑顔には、悲しみも後悔も混じっては居なかった。
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