「…なんなんだあいつは」
あの遊園地から数日後。テスト勉強に付き合えと言われて近場のファミレスで花京院と顔を突き合わせていた。
「あいつって名前のこと?」
「ああ。急に慣れ慣れしくなったぞ」
「…ほー」
「なんだ」
「いや、言葉から受ける印象と表情が合ってないなって!」
「…」
「そんな怖い顔でこっち見るなよ。ん、名前の変化ね。あの子懐いた人にはああいう風になるみたいだよ」
「懐く?」
「うん。名前から聞いたんだけど承太郎名前のこと助けてあげたんだって?しかもあ、頭撫でたらしいじゃないか!」
耐えきれないとばかりに吹き出した花京院の頭を軽く叩いておく。何か文句を言っていた気もするが気にしないでおいた。しばらくして笑いが止まった花京院が真剣な顔をする。
「まあでもそういう子だからさ、一部では人気が有るみたいだよ?」
「人気?」
「ああ。ほら、あの子のあんな笑顔おれだけに向けて欲しい!みたいな。そういうのって一定の支持が有るだろう?」
「知るか」
「全く、これだから女から迫られるタイプは嫌だね。イケメンなんて死滅すればいいのに!」
そういう花京院だってそれなりに人気が有るだろうに。実際おれの学年の奴にはあの礼儀正しさがいい!なんて騒ぐ女が何人かいたのを知っている。
「まあ、そういうことだからさ。ぼやぼやしてると取られちゃうかもよ?」
「何言ってんだお前は」
「モテる奴が自分の気持ちに鈍感って良くあるパターンだよね。ほんと爆発しろよ」
訳のわからない事をのたまう花京院の頭に再度拳を落としてからノートに向かわせる。ブチブチと文句を垂れる花京院に更にもう一発入れとくか、と拳を握ったその時、思いがけない声が聞こえた。
「花京院君…と空条先輩?」
「あ、名前」
「…よう」
先程まで話題に上がっていた名前がそこに居たのだ。先程の会話を聞かれずにホッとしている自分に頭を抱えたくなる。一体自分はどうしたと言うのか。先程花京院がおれに言った鈍感、という言葉が浮かんでは消えていった。そして気付いた時には名前がおれの隣にちょこんと座っている。
「…どうした」
「承太郎聞いてなかったのかい?名前も勉強しに来たって言うから一緒にやろうって言っただろう」
「えっと、よろしくお願いします」
「…ああ」
ふにゃっと笑う名前に文句を言う気にもなれずに頷いておいた。それを見て愉しそうに笑う花京院に机の下で蹴りを入れておく。脛を抱えて悶えていたが知った事か。
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