普段よりも早く目が覚める。それが何故かは考えるまでもなく分かった。館の中がざわついているのだ。髪をかきあげながらもう一度眠るか起きてしまうか考える。…こうして騒がしさで目が覚めてしまった以上もう寝れないだろうと結論付けてベッドから立ち上がる。テレンスに言ってワインでも開けようかと算段しながら扉を開けると、目の前に脚立に乗った名前が居た。
「おい」
「ひゃ!あ、DIO様。申し訳ありません起こしてしまいましたか?」
「いや、構わぬ。…何をしているのだ」
名前の手にはキラキラと蝋燭の火を反射して輝くモールが抱えられていた。周りを見渡すと廊下全体が飾られ普段とは全く違った様相を呈している。
「え、あの…明日はクリスマスなので、ちょっと飾り付けを…」
「…そうか、明日は25日か」
「あの、やはり駄目でしたか?」
私の言葉をどう受け取ったのか名前の顔が暗くなった。俯いた視線の先ではモールが握りしめられている。普段あまり日にち感覚の無い日々を過ごしている私としては特に他意の無い確認の言葉だったのだが。というかやはりというのはどう言う事か。
「やはり、とは」
「いえ、あの…吸血鬼であるDIO様にとってあまり良くないのかと」
名前の発言に思わず笑いがこみ上げてくる。
「下らぬ気遣いだな」
作り話に出てくる脆弱な存在と同一に扱われてはたまらない。聖書も十字架もこのDIOにとっては何も意味はなさないのだ。唯一同じと言える弱点は日光のみである。
「では…」
「好きにしろ、ただし後片付けはしっかりやれ」
「ありがとうございます!」
頭を下げる名前を見ながら何故こんなことをしようとしたのか不思議に思う。名前は賢い女だ。相手の機微を読み、それに応えることに長けている。そんな所が気に言って餌からメイドへと格上げしたのだ。そんな名前が私が嫌がるかもしれないと思った事を行うとは。私の表情から何かを読み取ったのか名前が困った様に笑った。
「子どもたちが喜ぶかと思いまして」
「…そんな可愛らしいたまか?」
「…ボインゴ君は喜びそう、ですけどねえ」
ふむ、確かにあの子供は名前に懐いているようだし喜ぶかもしれない。しかし、ジョンガリ・Aやマニッシュ・ボーイ辺りは鼻で笑いそうな気もする。
「…まあ、ご苦労な事だな」
「いえ。…私は物心ついた時には孤児院に居て、こうしたイベントとは無縁で。周りが楽しそうにしてるのをいつもみじめな気持で見てました」
その言葉にもう100年以上も前のことを思い出す。ジョジョの家に引き取られるまでは私にとってもそうした祝い事とは無縁だった。盛り上がる人間を馬鹿だと思いながらも確かにどこかみじめさを感じていた。あの家に行ってからも金を掛けた料理や用意されたプレゼントに奪い取ってやると言う野心を高めていた。
「だからあの子たちには楽しんで欲しくて」
「…そうか。まあ私が好きにしろと言ったのだ、やりたいのならばやればいい」
そう言うと名前がありがとうございます、と頭を下げた。しかし、バランスの悪い脚立の上でしたものだからぐらりと前のめりになる。
「きゃっ!」
降ってきた身体を受け止めてやれば、衝撃に備えて瞑られていた目が訝しげに開かれた。
「も、申し訳ありません!」
「…怪我はするな。テレンス達の負担が増える」
「は、はい!」
慌てて腕から離れた名前が頭を下げ、落ちたモールを拾って脚立に昇る。それを尻目に当初の目的を果たそうとテレンスの所へ向かった。
→