小説 | ナノ






お仕置き、とされたその行為は暴行と言っても過言ではない。振り上げられた拳に身体が倒れれば、間髪いれずに足が腹部へとめり込む。後ろにあった跳び箱に頭を強打してチカチカと瞬く視界に仗助の顔が映った。…笑って、いる。それはもう楽しそうに嬉しそうに。

「女主ー」

そう私を呼ぶ声はいっそ無邪気だ。

「楽しいな」

一体何処をどう見れば楽しそうに見えるんだ。どう見たって悶絶してるだろうが。意識が薄れかけて痛みも朧だが、それでもあちこち悲鳴を上げてるのくらいは分かる。何も言わず荒い呼吸をする私の上に仗助の足が乗せられて、グッと体重をかけられた。バキッなんて軽い音と共に肋骨がへし折れる。その痛みに一気に意識が浮上し、鮮烈な痛みに声を上た。実際には声にすらならない悲鳴だが。

「なあ、なんとか言えよ」
「い、たい…!」

それ以外何が言えようか。しかし仗助は満足そうに笑う。

「今のお前すっげー綺麗っすよぉ」

ふざけた口調でそう言う仗助の目は、真剣だ。

「ムラムラする」

変態。そう言ってやりたいが、それも頬を強かに打たれて声にはならなかった。

血塗れになったセーラー服を脱がされる。動かすたびに折れた肋骨が電流の様に痛みを与えてくる。そんな私が悲鳴を上げる度に、仗助の機嫌は良くなっていった。
赤黒い痣に愛おしげにキスをする仗助に背筋が寒くなる。分かっていたけど、こいつ本当に狂ってる。こうしてこんな行為を繰り返すたびにそう思うのに何故私は逃げないのか。未だに分からない。

「女主、女主」

キスをしながら何度も私の名前を呼ぶ仗助の頭を、そっと撫でる。セットが崩れたと後で文句を言われるかもしれない。

「愛してる」

この言葉だけを切り取ったら、ただの恋人のセックスと変わりはないだろう。私の体中傷だらけでさえなかったら。

「女主は?」

その言葉に返すことが出来なくて、仗助の頬をそっと撫でるだけに留まる。しかし、仗助はその手にそっとキスをして、笑うのだ。

胸や秘所を弄られるが、正直痛みの方が強くて快感なんて全くない。しかし、悲しいかな身体というものは痛くとも本能で濡れていく。
弱い所を指で突かれて、漸く感じたそれを全力で拾い上げる。

「あっ…」

私の体を知り尽くしてるかのように弱い所ばかり攻める指に、少しづつ気持ちよさが混じり始める。痛みでボウっとし始めた脳味噌に快感が混ざり、いつしか何もかも分からなくなる。その瞬間が来るのをただ待ち望んだ。

「っひ、あぁ…!」

身体に走る感覚が痛みなのか、快感なのか。ぐちゃぐちゃになった脳味噌では判断がつかなくなって、私はそれを快感だと決め付けた。
しかし、身悶えするたびに走るそれに身体が跳ね、更に激烈に脳味噌に電流が走る。嬌声とは違う低い唸り声を上げる度に仗助は喉を鳴らして笑った。

「入れんぞ」

その言葉と同時に熱い塊が身体の中心を穿つ。そのまま激しい抽送が始まり、硬い床に爪を立てた。それに気付いた仗助が背中に腕を回させる。それに従うままに背中に爪を立てれば、顔をしかめた。

「女主」
「っ、あっ!」

ぐちゅぐちゅと生々しい音が薄暗い倉庫に響く。独特の香りが血と混ざってなんとも言えない生臭さを醸していた。
奥をぐりぐりと硬くなった先っぽで抉られる。その度に腰が震えた。時たま仗助が前触れもなく痣を圧迫してくる。その度に腰から走る電流とはまた違ったものが走る。

「っぁ!」

こんな事をしている時には出ないであろう低く、食いしばった声が口から零れる。しかし、仗助はそれに嬉しそうに笑いながら大きく腰を打ちこんできた。

「ん、…んっ」
「女主」
「はっ…、ん…」

もう息をするのも辛い。意味のある言葉なんて発せなくて、涙の滲む目で仗助を見れば、涙ごと眼球を舐め上げられた。
その感触に全身に鳥肌が立つ。そして、クリアになった視界には、私を愛おしそうに見る仗助が居て。ああ、もう、いいや。そう思った。
いいよ、壊したけりゃ壊しても。その代わり壊しても直してよ。何度も壊して直して。そして私だけを見てりゃいい。
仗助の事を言えないな、なんて思いながら重たい腕を首に回した。

「女主」
「女主」
「女主」

私はただ腕になけなしの力を込める。痛い、気持いい、痛い…相反する刺激が私の意識を責め立てた。何度も何度も名前を呼びながら、仗助の動きは激しくなり、互いに限界が見えた。
そんな時、仗助の手が私の胸の下に置かれた。折れた肋骨とは、逆の位置。冷水を被せられたように一瞬鮮明になった視界に、仗助の満面の笑みが有って。
――ボグッという音と共に視界がブラックアウトした。

気付いた時には仗助の背中の上にいた。もう日が傾いて世界がオレンジ色に染まっている。それをボウっと眺めていると、仗助が振り向いた。

「おっ、目覚めたかよ」
「…うん」
「お前太ったんじゃねーの、重くなってんだけど」

デリカシーのない仗助の頭を力なく殴ればけらけらと笑われた。…いつもの、仗助だ。
痺れた感覚のあった鼻はまるで何事もなかったかの様である。肋骨も同じようで、身じろぎしても激痛が走ることはなかった。クレイジー・ダイヤモンドだかなんとかいうお化けのおかげなんだろうか。しかし、多くの痣はそのままの様で仗助が歩くたびに鈍い痛みが走った。…治すなら全部治してくれよ。普段はそうするくせに。

「ねえ、身体痛いんだけど」
「やっぱ倉庫の床ってのは無理があったなー」
「そこじゃねえ!仗助の殴った所の痣が痛いんだっつーの!」
「いや、今テスト中だから着替えとかねーし問題ねーだろ」
「そういう問題じゃ!…ああ、もういいや」

大声を出せば身体は痛いし、頭にも響く。もういいや面倒くさい。どうせ何言っても治さないだろうし。脱力して仗助の首筋に顔を埋める。普段つけてる香水と多分私のであろう血の香りがした。なんだかそれが無性に苛ついて、全力で噛みつけば仗助の悲鳴が響き渡った。…私の方が痛い思いしてんだからそれくらい我慢しろ阿呆。横を向けば、やはり憎たらしい程輝く夕陽があった。




ああ、夕陽が目に滲みる
何だかんだ許してしまう私も狂ってるのかもしれない

(テスト終わったらどっか遊び行こうぜ)
(…仗助の奢りならね)

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