小説 | ナノ






いつの間にか承太郎の中には三本の指が差し込まれ、動かすたびにグチグチと濡れた音を発していた。…この男は殴ったり蹴ったり手酷く扱うくせに、ソコにだけは妙に気を使う。傷をつけないように、ゆるゆるとした動作で。指が増え、動かされる度に少しづつ快楽が芽生えては熱を与えてくる。いっそ、痛みしか与えないでくれれば、楽だ。時たま思い出したように内股や腹部に噛みついてくる。その度に走る痛みが、少しづつ快楽に変換されていくのを感じる度に承太郎の背筋がゾクリと震えた。

「ね、承太郎。そろそろ入れていい?」
「んなこと、聞いてんじゃ、ねーよ…!」

もう入れても大丈夫かなんて事は男が一番よく知っているだろう。承太郎の男根は既に先走りで濡れそぼっていた。男はそこで一旦指を引き抜き、やっと服を脱いだ。その姿を見る度承太郎は生娘でもないのに目を逸らしてしまう。それに気付いた男が笑ったのを察してますます顔に熱が籠る。
コンドームを付けた男が承太郎に圧し掛かり、頬に1つキスをした。

「名前、呼んでよ」

嫌だ、と言ってやりたいのに。何かに操られるかのように承太郎の口が動く。

「…男主」

承太郎の言葉に男主は本当に嬉しそうに笑うものだから、承太郎は目を閉じるしかなかった。

指とは比べ物にならない太さと熱さに、承太郎は思わず声を漏らした。それに男主が喉を鳴らして笑う。薄く開いた瞳に映る男主は酷く満足げだ。

「愛してるよ承太郎」
「嘘、こいてんじゃ、ねーぜ」
「嘘じゃ、ないって」

一瞬軽薄さが消えうせ、真剣な色を帯びた瞳が承太郎を射抜く。

「愛してるよ、本気で。血の赤とか、痣の青黒さの似合う白い肌とか、痛みに歪む顔とか」

全部外見のことじゃねーか、と思い、承太郎は唇を噛みしめる。ああ、一体自分は何を思っているのか。外見のことで何が悪い。むしろ一つでもこいつに好かれた事が間違いだと言うのに。そう思うのに承太郎の胸が微かに痛む。それを知ってか知らずか男主は承太郎の唇に可愛らしい音をさせながらキスを落とした。

「でもね、一番好きなのは承太郎のその心だよ。高潔で、孤高で。そのくせどこか寂しそうで」

寂しそう?こいつは何を言っているんだと思ったが、強く突き上げられ、思考が霧散する。

「心も、身体も、ぜーんぶ愛してるよ。…食べちゃいたいくらいね」

犬歯を覗かせながらニィっと笑う男に、承太郎は身を震わせた。ああ。おれは、こいつに喰われてしまうのだ。
その後、言葉通り貪られ承太郎の意識は白く塗りつぶされていった。


承太郎が目を覚ますと隣に男主は居なかった。その事に胸を撫で下ろしたいような泣きたいような気持ちになる。自分の事だと言うのに上手く分からない。それは承太郎にとってそうあることではない。胸を掻き毟られるような違和感に俯いていると、ドアが開いた。

「ああ、空条君起きた?」

そう言って笑う男主は昨晩とは別人のようだ。明るく爽やかで、この研究施設に居るほぼ全員が思い浮かべる男主そのもの。だが、承太郎だけがその笑顔の後ろに潜む狂気を知っていた。
手に食事を乗せたトレーを持ちながら近づいてくる。その手には、承太郎を殴った時についた傷と、歯型が残っていた。それから顔を背ければ、くすくすと笑われる。

「たまにはさ、空条君に傷付けられるのも悪くないねぇ」
「…変態が」
「その変態に善がり狂わされたくせにぃ」

その言葉に殺気を纏わせながら睨みつけるが、男主はどこ吹く風、とばかりに往なしながらトレーを承太郎に手渡すと、ベッドに腰をかけた。

「分かってたけど痣になっちゃたね」

承太郎の頬に優しい手つきで触れる。昨日は嬉々としてその手で暴力に興じていたというのに。

「今日は特に急ぎの事もないしゆっくり休んでなー」
「…ああ」

触るなと言っても手を退けないであろうことは分かり切っていたので、気にしないように努めながらパンを手に取る。しかし、頬にビリっとした痛みが走り顔をしかめた。

「ああ、でもやっぱり承太郎の肌には傷がよく似合うね」

承太郎の頬に爪を立てながらそう言って笑う男主の目は、やはり肉食獣の様だった。




喉元に立てられた牙が
この身を引き裂くのを望んでいるだなんて認めてはならない

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