小説 | ナノ






ガツン、と硬いもの同士がぶつかり合う音が寝室に響いた。与えられた衝撃の重さに、承太郎はベッドへと倒れ込んだ。
顎に近い部分に当たったのだろう、ぐわんぐわんと耳鳴りまでしてきた。口の中も切れたのか、鉄に味を感じて眉をしかめる。そんな承太郎に対して加害者である男はニヤニヤと笑みを浮かべながら見降ろしていた。

「あーあ、ごめんね空条君。顔には傷付けないつもりだったんだけどなぁ」

そういう男の言葉は、表情と同じように軽薄で、これっぽっちも悪いなんて思っているようには聞こえなかった。ぐらぐらと揺れる視界を立て直そうと試みるが上手くいかない。そんな承太郎を楽しそうに見ながら、男はベッドの上に昇って来た。
承太郎は横に立った男の意図を察し、なんとか起き上がろうとするが、一拍遅い。男の足が承太郎の鳩尾を踏みにじる。胃の中の物がこみ上げてきそうになるが、ぐりぐりと圧迫されればそれさえ叶わない。蛙の様な潰れた声が喉から零れ落ちた。
涙で歪んだ承太郎の視界に何か赤いものが飛び込んでくる。それは男の手だった。殴った際に歯にでもぶつけたのか、ぽたぽたと血が落ちている。しかし、男はそれに一切構う素振りもせずに承太郎を痛めつけた。
足に爪を立てれば、男の笑みが深まった。承太郎が本気で力を込めれば、男とてこうして笑ってはいられないだろう。しかし、承太郎はそうすることが出来なかった。喉を焼く胃液のせい、上手くできない呼吸のせい。自分に言い聞かせるように頭の中で繰り返す。

「空条君は本当にいい子だねぇ」

その言葉とともに足が退けられた。息を吸いこもうとしても、肺は上手く機能せず吐瀉物がせり上がってくる。全て吐き出してしまいたい。だがこいつの前でそんな情けのない姿など見せるものか。そう思い、歯を噛みしめる承太郎の髪を男は鷲掴んで無理矢理起き上がらせる。
ブチブチっと髪が引っ込抜かれる痛みに溜まっていた涙がこぼれた。男はその涙をべろりと舐めたかと思えば、そのまま口に舌を突っ込んだ。傷を抉るように動く舌に承太郎の肩が跳ねる。噛み千切ってやろうかと思っても顎が掴まれていて動かせない。
男は口内を思う存分に蹂躙し、漸く顔を離す。先程よりも強い鉄の香りが承太郎の口に広がった。

「さ、楽しもうか。…承太郎」

楽しいのは手前だけだろ、と悪態を吐こうとする反面、何かを期待するように背筋がゾクリと粟立った。
男の指が承太郎の口の中に差し込まれる。歯を閉じて抵抗すれば、傷口に爪を立てられた。痛みに力が緩めば、好機とばかりに割り開き我が物顔で舌を嬲る。舌を強く摘ままれればズクリとした痛みが走った。そのまま引きずりだそうとでも言うかのように引かれそうになり、思わず指を強く噛んだ。
流石の男もそれには眉を顰めた。承太郎の口内に自分のものではない血が広がる。唾液と共に混じった赤いそれを男は親指で掬い、承太郎の頬へと擦り付けた。その感触に顔をしかめたのもつかの間。空いていた片方の手が拳を作り、承太郎へと叩きこまれた。先程踏みにじられた個所と寸分違わない場所にめり込む。衝撃に咳き込もうとするが、指が更に深く突っ込まれそれもままならない。

「そんなに、可愛がってほしい?」

無表情にそう尋ねる男の言葉に首を振ろうとするが、それすら許されない。

「答えてくれないんだー」

答えさせないのはお前だと承太郎は言いたかった。しかし、次の瞬間肋骨に走る痛みにそんな思いも吹き飛ぶ。
男はいつの間にかまた拳を作り承太郎を強かに殴った。しかし、視界の狭まっていた承太郎はそれに気付けなかった。ただ殴られた部位を抑え痛みに悶絶する。
…この男は、なにひとつ容赦すること無く急所を狙ってくる。しかも、決して承太郎の意識が飛ばない程度の力加減で。その冷静さが、逆に男の異常性を現わしていた。

時たま唸りながら短い息を繰り返す承太郎に構わず、男は承太郎の衣服をはぎ取った。コートは破られないものの、下に着ていたインナーは無残にも破られてしまった。カチャカチャとベルトを外したかと思えば、一息に下着ごとズボンを剥ぎ取られる。せめてもの抵抗、と足を振り上げればそれは易々と掴まれてしまった。

「わーお。承太郎ったら積極的ぃ」

男は笑いを滲ませながら、片足を肩に乗せる。パックリと割られてしまった下半身は隠しようがない。身を捩ろうとすれば、肋骨が痛みを発した。結局、逃れる事は出来なかった。
ツプリと指が差し込まれる。ほんの少しの痛みと圧迫感を感じるが、承太郎のソコは男の指を受け入れていた。

「あれ、久しぶりだからもっとキツいかと思ったんだけど。…他の男にでも抱かれてたの?」
「ふざけた事、言ってんじゃねぇよ…!」

こんな事そうそうやられてたまるものか。そう言った意味を込めて睨みつければ、男の笑みが深まる。

「じゃ、おれのこと思い出して一人でしてたとか?」

その言葉に承太郎の顔に朱が差す。ギチリと音がするほど歯を噛みしめたその反応から男は肯定の意を汲み取ったらしい。くつくつと押し殺した笑い声が聞こえて、抱えられた足を外そうと暴れるがそれは成らない。足首にガブリと歯が立てられた。

「本当に承太郎は可愛いねぇ」

普段言われ慣れない言葉になんと言い返せばいいのか。言葉が出ない承太郎を見ながら、男は自分が付けた歯形を一舐めして。更にもう一本指を突き立てた。

「っう!」

増した圧迫感に声を漏らせば、気を良くしたのかゆるゆると指が動き出す。腹の中を弄られる感触に冷や汗を垂らしながらも、承太郎は自身の身体が少しづつ熱を持つのを感じた。

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