存在理由 | ナノ






「…そう。赤石がここにあるとばれてしまったんだね」
「ああ。とはいえエシディシは俺の波紋で倒したしな。直ぐにここがばれるとも思えねーが」
「柱の男達がどれだけ情報を交換していたかが分からない以上何とも言えないけど…楽観するのは危険だね。リサリサ先生にも報告しないと」
「そうだな。でも今風呂入ってんだろ?30分くらいしてから行けってスージーQが言ってたぜ?」
「ジョセフはともかく私は問題ないだろう?疲れているだろうし部屋か…なんならここで寝ててもいいけど」
「いやん、それ誘ってるのー?」
「馬鹿言わないの。まあマスクが取れたら中々イケメンだねジョセフは」
「だっろー?惚れたら火傷するぜ」
「はいはい。じゃあこのコーヒーを飲んだら先生の所へ行こう」

窓に寄りかかりながらそんな話をしているとニナの視界の端にスージーQが映る。今日はよくよく彼女が目につく日だ。郵便船が来ていたが何か頼む物でもあったのだろうか。そういえば赤石の場所がばれた以上ここは一旦引き払うかもしれない。彼女も一時避難させるべきだろう。ニナの頭の中で幾つかの段取りが浮かんでくる。

「なーに考えてるのん?」
「ん?これからの事を少しね。まあ、とにかく行こうか」

空になったカップを置いてジョセフとニナは階段を昇る。扉まで行くと鍵穴から覗こうとするジョセフの頭を軽く小突いた。

「何をしてるのお馬鹿さん」
「いや、ちょっと出来心って言うかー?つうか今スージーQが居た様な…」
「スージーQならさっき下に居たはずだけど…私たちより先にここまで…?」

嫌な予感がニナの背筋を走る。急いで扉の取っ手を掴むとぬるりとした液体に塗れていた。

「リサリサ先生!」
「ニナ!ジョジョ!」

ちらりとこちらに視線を向けたスージーQの首筋に顔に至る所に醜悪な筋が走っていく。

「お前らにィ俺の最後のォ最後のォ――戦いを挑んでやるゥゥゥゥゥ――!」

スージーQとジョセフの言葉からするにどうやら彼女の体にはエシディシが憑りついているらしい。シーザーも合流するが、赤石を負わせない為にスージーQの肉体を借りたエシディシが襲いかかってくる。

「追わせはしねーッ!追うんならこのおれを殺してからにしやがれッ!チンボコ野郎!」

完全に彼女の体内を掌握したらしいエシディシが扉に血管を張り付ける。エシディシの脅しに屈せずジョセフが殴り掛かるが、それもハッタリだと見抜かれてしまった。掴みかかろうとするジョセフをニナが止める。そのままニナはスージーQの両腕をしっかりと掴んだ。

「ニナ!?」
「確かにジョセフやシーザーの波紋ではスージQの心臓は耐えられないだろう。でも私はどうかな?…波紋戦士を舐めるなよ」

危険を察したエシディシが逃げようと暴れる。しかしいくら肉体のストッパーを外していても、普通の女性であるスージQと鍛え抜かれたニナの体の差、そして流され始めた波紋に徐々に動きが鈍くなっていく。

「今流しているのは癒しの波紋だ。元々人間であるスージーQには何の問題もないが…お前には随分と効くだろう?」
「止めろッ!止めろーッ!」

暴れるスージQの体を三人がかりで止める。波紋を流し続けるニナの背に冷たい汗が流れた。先程の宣言通り癒しの波紋は元来人の体を傷つけるものではない。しかし、エシディシと完全に一体化しているスージーQの場合はどうなのか。先程の言葉にはいくらかの不確実要素があった。早く、一刻も早くエシディシにスージーQの肉体に見切りを付けさせる必要があっる。

「さて、もう少し強く行こうか?」

内心の焦りを押し隠してニナは余裕の笑みを浮かべる。それに対しエシディシはついにスージーQの肉体を離れ――息を吸いこもうとしたニナの口内に潜り込んだ。

「なっ、なにーッ!?」

ジョセフが驚きの声を上げたがニナはそれどころではない。中に入ったエシディシが気管を塞いで波紋を練れなくなっていた。それでもなんとかシーザーとジョセフに身振りで波紋を流せと伝える。

「だ、だが!いくらニナとはいえ攻撃のための強い波紋を流したら!」
「ま、まてシーザー!ひらめいたぜ!油橋でおぼえた波紋効果!あ…あれだぜあれ!一か八かやってみるしかねえ!」

ジョセフの言葉に思い至ったシーザーが波紋を練る。呼吸を合わせた二人がニナの体に波紋を流し込んだ。その瞬間、ニナの脳内に一瞬とも永遠とも付かない映像が流れ込んでくる。

「っは!」

流れ込んできた空気にニナも波紋を練った。それが弱り切っていたエシディシに対する決定打となる。エシディシは外に出ることも叶わずニナの喉の違和感が消えた。咳き込みながらボロボロと流れる涙をニナは震える手で拭う。

「大丈夫かニナ!胸のむかつく奴だぜ。女の体にとりつくなど醜いったらありゃしねえ!」
「シーザーそいつは逆だぜ。おれはあいつと戦ったからよく分かる……あいつは誇りを捨ててまでなにがなんでも仲間の為に生きようとした……赤石を手に入れようとした。何千年生きたか知らねえがあいつはあいつなりに必死に生きたんだな……善悪抜きにして……あいつの生命にだけは敬意をはらうぜ!」

シーザーに支えられながらニナは喉を抑えつつジョセフを見る。昇り切った朝日の中、ニナは目を細め煌めく青い海に目を移した――。




VSエシディシ

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