存在理由 | ナノ






「リサリサ先生、灰落ちますよ」

後ろから聞こえてきたニナの声にリサリサはピクリと体を揺らした。視線を手に持つ煙草にやれば、確かに吸われることなく灰になった先端が頼りなげにくっついていた。落とさない様に素早く灰皿に灰を落として、どれだけ思考の海を彷徨っていたのか考えリサリサは内心苦笑してしまう。

「シーザー達そろそろ着く頃でしょうか」
「そうですね…私も迎えに行きましょうか」
「リサリサ先生自らお出迎えですか」
「新しい弟子は中々気が強いそうですからね。まずは鼻っ柱を叩き折る所から始めないと」
「手荒い歓迎になりそうですね」

くすくすと笑ったニナがスッと真剣な顔になる。

「スピードワゴンさんが伝えてきた柱の男たちの復活…本当でしょうか」
「…ええ。シーザーも彼も実際に見て交戦までしたのです。間違いはないでしょう」
「そうですか…いよいよ始まるのですね」

リサリサとニナの視線が机の上燦然と輝く赤い宝石に注がれる。太陽の光を反射して輝くその深い赤は血の色のようにも見えた。

「怖いですかニナ」
「ええ、とても。…ですが逃げるわけにはいきません」
「そうですね。我々が背を向ければそれは即ち人類の滅亡となるでしょう」
「僅かながらもお力になれれば良いのですが」
「期待していますよ。…では私はそろそろ出ます。留守は頼みましたよ」
「はい。お気をつけて」

シャンと背筋を伸ばしたリサリサが立ち去るのをニナは微動だにせず見送る。少しして空を見上げれば晴れ渡った青空が広がっていた。しかしどこかから音もなく暗雲が広がっている。そんな想像にニナは一度身震いをして中に戻って行った。



プロローグ
世界の命運をかけた戦いの幕が上がったのを人々は知らない

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