存在理由 | ナノ






「んでまあ…ガキ二人育てながら各地を放浪して…カーズの奴が作った石仮面の試作品被ったり時々人間に神様扱いされたり波紋使いと争ったり反抗期で一人離脱したりしつつ仮面の動力源捜してなー」
「赤石に辿り着いたと」
「ああ。あと一歩ってところで休眠に入ちまってなあ。起きたらすげえ進歩してて驚いたわ。人間すげえな」
「まあ二千年って私たちからすると普通に紀元前だからね」
「まあ俺の予想は当たってたってことだなァ」

からからと笑うエシディシに対しニナは目を彷徨わせる。

「…えーっと、私は本当どう償えばいいだろうか」
「ああ?」
「だって君はあれなんだろう?一族の…大切な人たちの仇と旅してきたわけだ、一万と二千年。そんな覚悟を私のせいで不意にさせてしまったわけで」
「まあそうさな」
「私はそんな君に償う方法が思い浮かばない」
「…一万年も旅してると色々考えるんだよ。あの時なんで俺はもっとあいつに一族の奴らと和解を求めなかったのか、なんであいつを殺そうとしなかったのか。俺はあいつが、変えてくれるのを求めてたんじゃねえかとか。考えりゃ考えるほど罪悪感ばかりが増してった。でもな、…楽しかったのも事実なんだよ」
「楽しかった?」
「ああ。見たこともない所に行って、ガキどもの世話して。死んでった奴らに申し訳ねえ程楽しいと、思っちまった。何千年かそうやって悩んで、吹っ切れたんだよ。それでいいじゃねえかって」

ニッと笑うエシディシには無理をしているような様子は何もなかった。

「基本的に不老不死だろうとなんだろうと過去なんて変えられねえし、何かあって死にゃ終わりだ。後悔して後悔して罪悪感に苛まれて。それでも楽しんでやろうってな」
「…なんというか豪気な話だな」
「開き直りっていうんだろうよ。ただ、これ以上後悔することを増やしたくはなかった。だから逃げようと思えば逃げれたがあのお嬢ちゃんに憑りついて赤石を送った。お前が言うとおり、死ぬことよりあいつの野望を果たさせたかった…欲を言や見届けたかった。で、お前を助けた。それだけだな」
「…いや、最後話が唐突過ぎて付いていけない」
「馬鹿だなお前」
「すいません」
「お前が俺の感情に同調しちまった様に俺もそうなんだろうよ。助けたいと思ったお前の意志を無下にできなかった。あそこで無理にお前を吸収したら俺は戦士としても自分自身としても後悔した気がしてなァ」
「そのせいで見届けられないかもしれないと言う後悔は?」
「してねえ」

きっぱりと言い切るエシディシにニナは目を見開く。

「あいつはぜってえに赤石を手に入れて、太陽を克服する。したら俺はそれを見に行くって寸法だ。そんときゃ約束通りお前の体も命も貰う。異論はねえな?」
「…まあ、それに関しては構わないと言いますか。でも…」
「でも?」
「ジョセフたちが勝ってしまうかもしれないよ?」
「…いやそれはねえわ」
「いやいやあの子も案外やるんですよお兄さん」
「いやいやいやワムウもいるし。あいつガチで最強の戦士だから。あいつは俺が育てた」
「いやいやいやいや現実は案外驚くようなこと沢山あるから」

お互い顔を見合わせて吹き出す。

「まあ時がくりゃあ分かるさ。俺はあいつらを信じる。お前はあいつらを信じる。それでいいだろ」
「そうだね、それでいい」
「…なんかお前吹っ切れた顔してるな」
「うーん、君の言葉を借りるなら開き直った、のかなあ。少しは」
「少しかよ」
「短い人間の人生の中で結構な割合悩んでたからね。そうそう簡単にはいかないさ」
「短いくせに詰まんない事で悩んでんな」
「人間だからね」
「そうか。…にしても暇だな」
「なにもないしねえ。…良かったらもっと君の話を聞かせてくれないか?」
「ああ?」
「十二万年も生きてるんだ。思い出話は尽きないだろう?」
「…しかたねえなあ、聞かせてやるよ」




長い長い話をしよう
目が覚めたその時、世界はどうなっているのだろう

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