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「ねえ遼一、本当にいいの?断ってもいいのよ…」
「そんな心配しないでよ母さん。無理はしないし、やれる人間がいないって言うんじゃ仕方ないだろ?それにこうなった以上知らなかった振りは出来ないよ」
「でも…」
「…また時間がある時に話そう?そろそろ菜々子迎えに行かなきゃいけないし」
「あら、本当!」
「雨も降ってるし俺迎えに行ってくるよ」
「いいわよ、私が行くわ。…少し頭も冷やしたいし」
「分かった、気を付けてね」
「ええ。あ、カレー焦がさないで頂戴ね!」
「オッケー。行ってらっしゃい」

「千里!千里!」
「おかーさん…?」
「千里!目を醒ましてくれ!」
「おとーさん、なんで泣いてるの?おかーさん、なんでおきないの?」

「千里…」
「父さんごめん…俺が、俺が行ってれば母さんは」

「父さん、俺月光館学園に行くよ。…母さんもそれを望んでたし」
「…そうか」
「うん。じゃあ、元気で」
「ああ。…遼一」
「…なに?」
「…いや、なんでもない」
「…そう」


がくん、と肘が外れて遼一は目が覚める。

『次はー八十稲葉ー八十稲葉ー』

ひび割れた声の車内放送を聞きながら、遼一は眉をひそめた。車窓には自然と、錆びれた街並みが映し出されている。幸先の悪い夢を見た。遼一は一人苦笑しながら荷物を持って席を立つ。――三年ぶりに戻ってきた故郷に対する遼一の思いはただ一つ。一秒でも早く立ち去りたい、それだけだった。