「年、明けるねえ」 「ああ」 「今年は楽しかったかい」 「ああ」 「そう、それは良かった」 「ああ」 「…ああばっかりだね」 笑いかければ承太郎は何も言わずに目を逸らした。 「まだ拗ねてるの」 「…んなわけねーだろ」 きゅっと顰められた眉は、天邪鬼な言葉とは真反対に彼の感情を露わにしている。一つため息をついて承太郎の頬に手を寄せれば、彼は息をつめた。 「承太郎」 「なんだ」 「ごめんね」 謝罪の言葉を口にすれば、承太郎は今度こそ何も言わずに俯いた。大きな体をしているくせに、小さく見える彼を優しく抱き寄せる。 「私は今年一年とっても楽しかったよ。承太郎と沢山話が出来たし、遊びにも行けた」 「…来年は」 苦い苦い顔をして、承太郎が呻くように呟く。 「来年は、違うだろ」 「…ごめんね」 もう一度謝って額をこつりとぶつければ、力なく膝の上に置かれていた掌が私の背に回った。私が苦しくない様に手加減されているけれど、服を掴む手の力に彼がどれだけ我慢しようとしているのかが分かって切なくなった。 逞しくなった首筋に顔を埋めれば、自分と同じ石鹸の香り。そしてそれに混じる嗅ぎ慣れた承太郎の匂いに胸が締め付けられた。 遠くで鐘の音が聞こえる。お互い身じろぎもせずに、ただ二人の別れを惜しんだ。 「…あけましておめでとう」 静寂が戻った部屋で、承太郎の腕の中でそう呟く。そっと見上げれば、承太郎は苦く笑っていて。 「年なんざ、明けなきゃ良かったのにな」 「…そうだね」 「…風邪ひくなよ」 「うん」 「無茶しすぎんな。なんかあったら直ぐに言えよ」 「うん」 「…幸せになってくれよ、姉さん」 「ありがとう、承太郎」 笑いながら一粒零れた彼の涙を掬うように、私はそっと口付けた。 新年最初の口付けを君に 「…なあ、なんで一人暮らしするだけなのにあいつらはあんなに別れを惜しんどるんじゃ」 「あらあら、仲良きことは美しきかなって言うじゃない」 「週に一回は顔見に行くからな」 「遠いんだから無理しないの」 「…二人の世界じゃなあ」 「そうねえ。あ、パパ!ミカンとって」 「おお、ほれほれ」 (1/1) 栞を挟む |