大きな部屋にごった返す人の波。笑顔で挨拶をしてくる人々を往なしながら、漸く壁の所までたどり着いた。 「お疲れですね」 きっちりとスーツを着たジョルノに肩を竦めれば、困ったように苦笑される。 「まだまだ貴女に対して重きを置く人は多いですからね。頼りのない上司で申し訳ありません」 「君のせいじゃあないよ。ただディアボロがそれだけ私に外交を任せっきりだったってだけだから」 今年も結局面倒くさい、と顔を出さなかった兄の姿を思い浮かべて小さく舌打ちを一つ。もう気にせずに顔を出せばいいのに。こうなると安全云々より外交が面倒くさかっただけではないかと思いたくもなる。というかこいつらイタリアーノのくせに毎年毎年家族より仕事を取るとか如何なもんだろうか。 「…ごめん、先に戻るわ。もう年かな、疲れちゃった」 「何言ってるんですか。…お疲れ様です」 私の持っていたグラスを受け取ったジョルノにもう一度ごめん、と言ってから大きな扉をくぐる。喧騒が遠ざかって漸く肩の力が抜けた。 宛がわれた部屋に戻ると、嗅ぎ慣れた友人の香りがして顔が綻ぶのが分かる。 「人の部屋に持ち主より先に居るのはどうなのかなDIO?」 「何か問題があるのか?」 「いいや、別に」 ベッドに横たわるDIOに近寄る。端に腰掛けて纏めていた髪を解けば、後ろでのそりと起きたのが分かった。 「そのドレス似合ってるじゃあないか」 「見立ててくれた誰かさんは身に来もせずに寝てたみたいだけどね?」 「何が悲しくて年の瀬に愛想を振り撒かねばならんのだ?」 「嫌でも振り撒かなきゃいけない身としては腹立たしいことこの上ないセリフだねえ」 項に鼻をくっつけるDIOがこそばゆくてくすくすと笑いをもらせば、DIOも同じように笑う。太い腕が体の前で交差して私を閉じ込めた。 「腹が減ったな」 「ルームサービスでも頼もうか?」 「そんなものは要らん」 「なら冷蔵庫に輸血パックが入ってるよ」 「…随分と酷いことを言うじゃあないか」 「疲れてるもんでね」 「ふむ。騒ぎも起こさずいい子で待ってってやったんだ、お年玉とやらがあってもいいだろう?」 「こんな大きな子供が居るとは思えないし、ここは日本じゃないし、それにまだ年を越してないよ」 「そう意地悪を言うな」 「おやおや、随分と可愛らしい。そんなに寂しかったかい?」 「そうだ、と言ったら?」 DIOの方に顔を向ければ、いつもと寸分違わず余裕綽々な顔をしていて、ドキリとした自分が馬鹿らしくなる。 「絶対あげない」 「そういうな」 離せと体を揺らせば、逃がさないとばかりに腕に力が籠る。といってもお互い本気ではなく、お遊びの様な抵抗と拘束を繰り返していると、大きな音と共に空が一瞬明るくなる。それに緩んだ腕から逃げ出してカーテンを開くと、また音と共に空に大きな花が咲いた。 「へえ、今年は中々盛大だね」 「ジョルノの奴も中々やるじゃあないか」 「頑張ってたからね。あ、DIO今年もよろしく」 「まるでついでの様な軽さだな」 「だってどうせ言っても言わなくてもよろしくせざるえないじゃない」 「それはこっちのセリフだな」 ふん、と鼻を鳴らすDIOの白い肌を花火が色とりどりに染めていく。それを見ながら、もう一度今年もよろしく、と花火の音に紛れて小さく呟いた。 笑いを深めた彼は どうせ聞こえているんだろう、腰に回された手を叩き落としながら私も笑った (1/1) 栞を挟む |