当たり前の事だけれど、吐き出す息が白い。まだ薄暗い道は昨日までの雪が凍ってツルツルと滑って酷く歩きづらかった。 「もう帰りたい……」 「はあ!?ふざけんなよお前!!」 ぎっと振り返って睨む仗助に無言で応える。鼻の頭を真っ赤に染めている仗助は中々に滑稽だけれど、きっと私も同じ状況なので口にする気は起きなかった。 「お前が初日の出見てえって言うからこんな時間に外出てんだろうが!」 「だって寒いし滑るし眠いし…疲れた」 「おっ前なあ!」 溢れ出る文句を選びきれないのか、何度か口を開閉した仗助は結局歯ぎしりをした。無言で立ち尽くす私たちの間にそれはそれは冷たい風が通り抜けて身を竦ませる。 「…大体!さみいならなんでマフラーも付けてねえんだよ!」 「だって髪の毛静電気でぼさぼさになるじゃん」 「んなもん俺しか見てねえんだから気にすることねーだろ」 「仗助が見るから気にするんだけど」 さっきと同じように口を開いては閉じる仗助。でも思ってることがまるっきり違うのは緩んだ目尻ではっきりと分かった。ため息を吐き出した仗助は自分のマフラーを取って私にぐるぐると巻きつける。文句を言う前に手を取られて仗助のコートの中へと突っ込まれた。 「これで少しはマシだろ。滑らねえし」 「眠いのは変わらないんだけど」 「それは帰ってからゆっくり寝ればいいだろ」 「…えっち」 「ばっ!そんな意味じゃねーよ!」 「はいはい」 やっぱり滑る道を二人でゆっくりと進んでいく。拓けた河原に出た頃、丁度太陽が昇ってきた。 「おー…綺麗だな」 「うーん…」 綺麗は綺麗だが、真っ白な雪がキラキラキラキラ光って目がちかちかする。眠たくて仕方のない私にとってその輝きは暴力的だ。 「よし、帰ろう。眩しい」 「…お前ってほんっとーに情緒とかムードとかねえよな!!」 「んなもん川に投げ捨てとけ」 一歩踏み出して、つるっと滑った。なんとか踏みとどまったけれど、後ろで仗助が吹き出したのが分かる。 「…手。早く。滑る」 「へーへー。仕方ねえなあ、繋いでやるよ」 「あーあ、仗助だけこけないかなあ」 「こけねえよ。おら、早く帰って寝るんだろ?」 「…湯たんぽ役よろしく」 「…えっち」 悪戯そうに笑う仗助の足を一度踏んづければ、にやにやと笑われた。ああ、むかつく。歩きながら一度後ろを振り返れば、嫌なほど眩しいけれどやっぱり綺麗なお日様が輝いていた。 来年も一緒に見ようだなんて 口には出さないけれど (そう言えば姫初めは二日以降らしいですよ仗助君?) (…まじかよ) (えっち) (1/1) 栞を挟む |