「じゃあ今年もよろしくー」 「うん。よろしく」 お決まりの挨拶を終えて家に入る彼女を見届けた。承太郎はもう家に着いただろうか。まあ彼は夜中に一人で歩いて居ても危なくはないだろうけれど。むしろ職質とか受けていそうな気もする。警官に呼びとめられて不機嫌そうに対応する承太郎の姿を思い描いて一人笑ってしまった。先程まで一緒だった彼女が隣に居たら気持ち悪いと笑われそうだ。 足を止めて後ろを振り返る。小さくなった彼女の家に、一つだけ明かりがついていた。きっと彼女の部屋だろう。数秒逡巡してから踵を返した。 ハイエロファントで彼女の部屋の窓を数度叩く。静まり返った住宅街では思ったより大きく響いてドキリとした。不思議そうな顔をして窓を開けた彼女がボクを見て目を丸くする。慌てた様に周りを見渡してから、ぴしゃりと窓を閉めた。直ぐに階段を下りるような音がして、扉が開いた。 「どうしたの花京院?何かあった?」 「何かあったって言うか…」 口籠るボクに訝しそうな顔をする。二人して首を傾げること数秒。 「いや、承太郎が帰り道に職質を受けて不機嫌そうな顔をしてたら面白そうだなって」 「なにそれ?…いや、うん。ちょっと面白いけど!」 そんなことの為に戻ってきたのー?と笑う彼女にボクも笑えてきてマフラーに顔を埋める。 「うん。…君と笑いたいなあって」 「え?」 「あのさ。今年もよろしくって言ったけど、あれに一つ付け加えていい?」 「あ?うん?いいよ」 「彼氏彼女としてよろしくお願いします」 ボクの言葉に口を開けて驚いている彼女の顔があまりにも間抜けで、肩が震えてくる。それに気付いた彼女が怒ったように肩を叩いてくるけれど、その顔は真っ赤だ。 「で、よろしくしてくれるのかな?」 「…ばーか」 そう呟く彼女は嬉しそうに笑ってる 小さな声でよろしく、と言う君が愛しくて寒さも気にならない午前零時! (1/1) 栞を挟む |