小説 | ナノ




「やってられっかチクショウ!!!」

玄関を叩き開けて一秒。持っていた鞄を全力でぶん投げつつ怨恨込めた第一声。そうしながらも鞄はベッドへ、叫びはお隣に響かない程度に。無意識のうちにそんな配慮をしてしまう自分自身にも腹が立つ。
腹の底から絞り出す様に息を吐いて、脱いだヒールを放り投げた。化粧も落とさずスーツを脱ぎ捨ててスウェットに着替える。プシッといい音を立てるビールを一気にかっ込んだ。

「……明後日からどうなんのかな」

コンビニ袋から取り出したスルメを齧りつつベッドに寄りかかり情けない唸り声を上げてみる。目を閉じると慌ただしかった今日一日が走馬灯のように脳裏を駆け巡った。

代休を使って久々に連休を堪能した私は爽やかな気分で出社した。おはようございまーす、なんて呑気に挨拶しながら扉を開けると、一斉に向けられる血走った目、目、目。
鬼気迫る様子に思わず扉を閉めようとしたが、それも叶わずがしりと止められる。

「……なにが、あったんですか?」

聞きたくない。本当は一切合財何も聞きたくない。しかしそうとも言っておれず、嫌々口を開けば力無く持ち上げられた手が一枚の張り紙に向けられた。
なんの変哲もないA4サイズの紙。どうやらなにか書いてあるようだがここからでは確認できない。確認するには近づかなければならないが……。周りに目を向ければ、鬼気迫った表情で書類を見つめていたり、呆然と宙を仰いでる人間も居る。もう一度視線を紙に戻して息を飲んだ。……多分、この惨状の原因はあの紙、否、あの紙に書いてある内容だろう。



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