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「あれ」
「げ…」

…出会いがしらにげって失礼だろう、しかも女の子に向かって。

なんだか今日は学校に行く気がしなかった。だからフラッと通学路から脇に逸れてしまって。辿り着いた土手には先程の失礼な声を上げた間田君がいた。

「学校は?」
「…もう少ししたら行くよ。君こそいいのか」

さっきの失言を気にしているのか、元々なのか間田君は目を逸らしながら小さな声でそう言った。ふむ。彼と私はクラスメートで、お互い受験組なはずである。二人ともここに居てはいけないだろう。ただ、春先に暫く入院していた彼には言われたくなかったが。
こうして二人でいるのは初めてだな、と思いつつ隣に腰を下ろせば間田君の肩が揺れた。…ああ、思い返せば二人でいるとか以前に話すのも初めてな気がする。というか、彼が誰かと話しているのをあまり見たことがない。

「間田君ってさー、学校嫌い?」

私の質問に間田君は何言ってんだこいつ、的な目を向けてきた。…さっきから思ってたけど案外失礼だなこいつ。っていうか感情が表に出過ぎだろう。

「…まあ、あんま好きじゃない」
「へー私と同じだねえ」
「は?」
「え?」

またもやなんだこいつ的な目を向けられた。え、何かそんな変なこと言ったか私。

「何かな?」
「あ、いや…だ、だって君友達多いし、成績だっていいし…」
「…間田君、君は分かってないね」
「え?」

きょとんとした顔の間田君にずずいと近づく。

「まず成績だけどね。あれは家の親が口煩いタイプだから必死で喰らいついてるんだよ。こんなの皆同じだろうけどさ、出来ることなら私はやりたくないね。大体数学なんて普通に生きる分には使わない事ばっかじゃない。物理に至っては知るかよ!そうなるもんはそうなんだろ!って感じ」
「は、はあ…」

私の勢いに気圧されたのか曖昧に頷く間田君に更に言葉を募る。

「友達もね。女の子の友達関係なんて脆いもんよ。誰かの好きな子がグループのうちの一人好きになった途端総スカン喰らったりするし、わざわざトイレもつるんでいかなきゃいけないし。トイレくらい行きたい時に行くっつーの。何か一人で好きなことやろうと思うと陰口言われたり…円滑な学校生活を送るために結構苦労するんだわ」
「そ、そうなんだ」
「そうなのよ。誰かがいなきゃその子の陰口いう奴はいるしさ。嫌なら一緒に居なきゃいいし、聞かされるこっちの身にもなれって言うの。庇い立てすると酷いこと言われた!みたいな顔してさ。お前の言ってたこと振り返れっていうか。…あー!こんなこと言ってる私も同類だわ、気分悪い!ってか気分悪くしてごめん!」

勢いのまま愚痴ってしまった間田君に頭を下げる。思っていた以上に不満が溜まっていたようだ。言うだけ言ってすっきりした。とはいえ流石に関係ない彼にぶちまけすぎたな、と居心地が悪くなる。
未だに呆然としている間田君に曖昧に笑い掛けつつ肩を竦めた。

「もうさ、部屋に閉じこもってマンガ読んだりゲーム三昧とかしたいよ」
「あ、君マンガ読むの?」
「読む読む!ピンクダークの少年とか大好き!友達読んでなくて語れないけど」
「あ、俺も好きだよ!」
「マジで!」
「何部が好き?」
「全部!」
「お、イケる口だね!」

先程までの空気が一変して私たちは二人盛り上がる。間田君もかなり読み込んでいるようで、キャラの考察や今後のストーリー展開の予想まで大いに楽しんだ。

「…いやあ、まさかこんな身近に語れる人が居たなんて」
「うん…。俺もびっくりしたよ」

熱が入りすぎたのか、お互い肩で息をするような状況になってしまった。話してて興奮したのか、いつもより血色のいい間田君の頬を見て思わず笑ってしまう。

「何笑ってんの?」
「いや、楽しいなあって」

ここ最近で一番楽しかった。間違いない。間田君も少し間を開けてからへらっと笑う。…あれ、さっきまで気付いてなかったけど間田君って結構可愛いじゃないか。

「俺も、楽しかったよ」

ズキューンッっと効果音がした。え、なんか撃ち抜かれた気がする。主に心的なものを。

「は、間田君!」
「な、なに?」

勢いよく立ち上がった私に間田君が少し引きつつ首を傾げる。くそう、可愛い!

「またこうやって話してくれるかな!?」
「え…。俺はいいけど、君が嫌じゃない?友達にもなんか言われるだろうし」

間田君はクラスで少々浮いているのを自覚していたらしい。私が周りに何か言われるんじゃないかと気にしてくれているのだろう。なんて健気な!

「いいよ!他の子と居るより間田君と居る方が楽しいし!っていうか名前で呼んでください!」

そしてよければお友達になってください!とお辞儀しながら差し出した手を、間田君はこちらこそ、と取ってくれた。ああ、くそ可愛いなあ!!!

「名前さんって思ってたより変な奴だね」
「間田君は思っていたよりキュートだね!」
「え?」
「え?」



運命はそこらに転がっている
今日サボりたくなったのは運命なんだ!