小説 | ナノ






空条君の服を掴んで思いっきり引き寄せた。私自身も背伸びしたから触れ合った唇は勢いが付き過ぎてガチりと歯が当たる。ムードもへったくれもないが、その衝撃で緩んだ彼の唇に舌を滑り込ませた。煙草の苦みと、互いの酒臭い息が混じり合う。久方ぶりに他人と粘膜同士が触れあう露骨な感触に背筋が震えた。

「っおい!やめろ!」

強引に引きはがされて彼と私の距離が開く。ツっと一瞬唾液の糸が引いてプチンと切れた。

「やっぱこんな女じゃ抱けない?」
「んなこた言って」
「言ってないなら抱いてよ。頼むよ空条君」

酔っぱらった頭にでさえ情けない懇願だと分かる。抱いてくれなんて本当、ただのあばずれみたいじゃないか。でもそれでも。今夜だけでいい、今この瞬間だけでいい、私の空しさを埋めてほしかった。
肩を掴む手を取って、指先に掌に舌を這わせる。手首に軽く歯を立てて軽く吸う。

「お願い、空条…」
「…後悔しても、しらねえからな」

空条君の大きな体が伸し掛かってくる。そこから先は、あまり覚えていない。ただ私の体に触れる彼の手の大きさと熱、そして私の名を呼んだ低い声だけが酷く鮮明だった。


「…あ、れ」

目を醒ますとそこは見覚えのない寝室で。大きなベッドには私一人が横たわっていた。一瞬自分が何処に居るのか分からなくなって、少し考えてから昨日の醜態を思い出して一人頭を抱える。
私ったらなんという無様な真似を…!自分の言動の残念ぷりと、ついでに昨日の空条君との行為を思い出し身を悶えさせようとして腰の痛みに息を飲む。

「…起きたか」

腰に手を当てて声も無くしていると、横から声がかかる。弾かれた様にそちらを向けばマグカップを二つ持った空条君がいた。視線がかち合って慌てて目を逸らす。申し訳なくて彼の方を見られない。そんな私に空条君はため息を一つついて近寄ってくる。

「ほら、飲め」

差し出されたマグカップを何とか受け取り一口含む。ミルクがたっぷり入ったコーヒーの温かさにホッと一息ついて。

「…昨日は本当に申し訳ありませんでした」
「ああ」
「いや、本当なんと詫びればいいか…」
「別にいい。それより腰は大丈夫か?俺も酒が入ってたし久々だったもんで手加減できなかった」
「あー、痛いけど一応何とか」
「そうか」

一度頷いてまた口を噤む空条君になんと言えばいいか分からずに私も口を閉ざす。正確な時間は分からないけれど、外はもう明るくなっているようだ。これならどこかしら時間を潰す場所はあるだろう。腰は痛むが動けない程ではないしこれ以上迷惑をかける前にここを出るべきだ。…もうこれ以上ない程迷惑をかけている訳だけども。とにかくそうと決めたら空条君に感謝ともう一度謝罪を伝えて辞去しよう。
空条君の方を向こうとして、また腰に痛みが走る。思わず腰に手を当てれば空条君が眉をひそめて頬に触れてきた。

「…風呂も沸かしたがそれじゃあ一人で入れそうにねえな。お前が良けりゃ手伝うが」
「てつだっ、…いやいやいや!本当そんな気にして貰わなくていいから!むしろもう帰るよ迷惑だし!」
「んな怯えねえでもいい。そこまでがっつきゃしねえよ」
「いや、そういうことじゃなくてね!?」

あっれー?空条君ってこんな会話が噛みあわない人種だっけ!?いや、むしろ空気が読める人でしたよね!?

「…手を出した責任は取る」
「は?…いやいや、むしろ手を出したのはこっちって言うか責任を感じるべきは私と言うか…!本当そんなこと気にしないで頂きたいと言うか!っていうか別に初めてって訳でもないんだし取って貰う責任もないよ!?」
「したことに対して責任を感じるも感じないかは俺の自由だろ」
「え?あ、そう?いや、でも」

駄目だ、寝起きの上昨日の混乱が残っていてどう言えばいいか分からない。あたふたしている私を尻目に空条君は私の手を取って掌にキスをする。

「まあ、お前が責任を感じるって言うなら取って貰おうか。責任とやらを、な」

肉厚な舌がべろりと這う。その感触と熱に昨日の事が鮮明に思い出されて顔に熱が集まったのを感じる。

「責任、って…?」

もう分かっているのにわざわざ聞く私は卑怯なのかそれともマゾなのか。私の手のひらに付いたままの彼の唇が笑みを作る。射抜くような獲物を狩る獣の様なその強い瞳の光に私はクラりと眩暈を覚えた。



捨てる神あれば拾う神あり
私を拾ったのは大きな大きな手をしたイケメンの同級生でした

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